メニュー

遊園地にて


児童公園内の遊具 模擬飛行機
遊園地の名は現在「中央児童遊園(るなぱーく)」と称し、前橋公園の北東に位置し、波宜亭があったと思われる位置に近い。西に臨江閣がある。中央児童遊園は昭和29年の開園であり、模擬飛行機があるものの朔太郎の時代のものとは大きく異なるかもしれない。
  「遊園地るなぱあくにて」は朔太郎が44〜46歳の間に作られた。この間、朔太郎は妻稲子と離婚直後で父密造が他界の後、故郷前橋を後にして、東京世田谷代田に新居を設けた時期である。「遊園地にて」は恋愛または恋愛への願望が描かれている。もう故郷前橋に戻る理由を持たなくなった状況の中にあって、故郷での恋愛の回想なのか、恋愛への憧憬なのか。
   知る人が誰もいない大勢の人々が行き交う雑踏の中にいると、なぜか無性に孤独を感じることがある。朔太郎も賑わう遊園地の群集の中にいて、  孤独を感じつつ異性へ思いを馳せていたのだろうか。

遊園地るなぱあく)にて
遊園地るなぱあくの午後なりき
樂隊は空に轟き
廻轉木馬の目まぐるしく
艶めくべにのごむ風船
群集の上を飛び行けり。

今日の日曜を此所に來りて
われら模擬飛行機の座席に乘れど
側へに思惟するものは寂しきなり。
なになれば君が瞳孔ひとみ
やさしき憂愁をたたへ給ふか。
座席に肩を寄りそひて
接吻きすするみ手を借したまへや

見よこの飛翔する空の向うに
一つの地平は高く揚り また傾き 低く沈み行かんとす。
暮春に迫る落日の前
われら既にこれを見たり
いかんぞ人生を展開せざらむ。
今日の果敢なき憂愁を捨て
飛べよかし! 飛べよかし!


明るき四月の外光の中
嬉嬉たる群集の中に混りて
ふたり模擬飛行機の座席に乘れど
君の圓舞曲わるつ
は遠くして
側へに思惟するものは寂しきなり。


氷島(1934年(昭和9年)刊行



メニュー