日々の抄

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  エネルギー源は再考のときが来た

2007年04月08日(日)

 本サイトで原子力発電所の事故、データ偽造、隠ぺいについて何度か書いてきた(2007年2月2日、10日、3月17日)が、もう一度書かなければならない。原子力事故が発生すれば、場合によっては何十万、何百万人もの国民の生命が脅かされ、環境汚染が事故後何年続くか分からないことを熟知しているはずの専門家を有する企業が、あわや臨界事故という件も含め多数の申告漏れ、不正データ、捏造を繰り返していることが次々に発覚し、ただただ驚くばかりである。東京電力福島発電所のデータ改ざんなどをきっかけに発覚し、ほとんどの電力会社が、原子力のみならず火力、水力発電所で不正を行っていた。
 3月30日の報道によると
[北海道]火力で10項目、水力3項目のデータ改ざんなど。
[東北]原子力の不正は8項目。女川原発1号機で98年の原子炉緊急停止の隠ぺい、95−01年にかけての復水器海水温データ取り扱いの不正。88年の制御棒抜け、93年の制御棒挿入の隠ぺい。同2号機は95−07年まで、総主蒸気流量の改ざんなど。同3号機でも05年の制御棒挿入を公表していないなどの問題。火力で14項目、水力で8項目の不正。
[東京]福島第一原発3号機で78年、定期検査中に制御棒が抜け、臨界状態になったのに、運転日誌を改ざん、国にも報告していなかった。同原発2号機では84年の原子炉緊急停止も隠ぺい。原子炉緊急停止は、85年に福島第二原発1号機、92年に柏崎刈羽原発1号機でも隠ぺい。柏崎刈羽では92年の定期検査中、残留熱除去冷却中間ポンプが運転不能だったのに、正常運転可能と偽装。福島第一原発では79−98年にかけ、主蒸気管流量計の数値を操作した状態で検査を受けていた。柏崎刈羽では94−98年、原子炉停止後に行う主蒸気隔離弁の検査で、漏れを小さくする不正な操作を加えた。福島第一ではまた、85−06年に、復水器出入り口海水温度データを改ざん。これらを含め、不正は原発で計19項目、火力は10項目、水力は17項目。
[中部]浜岡原発3、4号機で06年、窒素補給用配管に腐食が見つかり、取り換え工事をしたが、その際に既に設置されているものと異なる材料を発注。さらに同原発1−4号機では、75年ごろから03年にかけ、取放水温度差の計測データを改ざんした。同原発は、76−02年に実施した総合負荷性能検査で、検査前に計器を調整するなどの不適切な取り扱いがあった。01年以前には、同1号機で炉心スプレーポンプの定期試験時に、ポンプ出口の圧力計に不適切な調整を行った。こうした原発での不正は計14項目におよび、火力で15項目、水力で11項目。
[北陸]志賀原発1号機で不正4件。99年、定期検査中に発生した原子炉緊急停止と臨界事故の隠ぺい。93年、国による使用前検査の前に、循環水ポンプ吐出圧力計の指示値を改ざんして検査に合格。94年に実施された第1回定期検査で、放射性廃棄物焼却炉の機能検査で計器の値を改ざんし、検査に合格したなど。火力の不正は8項目、水力は9項目。
[関西]美浜原発1号機で07年、定期検査時の配管工事で実施した溶接個所の検査漏れ。大飯原発では98年、復水器の海水温度データを改ざん。2000年には充てんポンプの弁からの水漏れを、国や県に報告せず。これら原子力の不正は計8項目、火力では12項目、水力2項目。
[中国]島根原発2号機で98年、ディーゼル発電機の定期試験で水漏れが確認され、停止後修理したが、他のディーゼル発電機が運転可能であることを確認する必要があったにもかかわらず、確認を怠った。同1号機では01年、定期試験で非常用炉心冷却装置の一つである弁の動きを確認するランプの点灯の偽装など、島根原発だけで計29項目の不正が判明。火力では34項目、水力では17項目のデータ改ざんなど。
[四国]水力で申請の不備など河川法違反が9項目あった。
[九州]火力では4発電所で1項目、水力では138発電所で4項目、手続きの不備など。
[沖縄]計19の火力発電所で、申請漏れなどが11項目。
[日本原電]敦賀原発2号機で97年定検時、原子炉格納容器の空気漏れ確認試験で、弁からの空気漏れに不正な応急処置。95年には同1号機の定検で復水貯蔵タンクに腐食が見つかり、厚みが基準値を下回ったが、報告せず2000年3月まで使用。東海第二原発も含め、原発で計15項目のデータ改ざんや隠ぺい。
[電源開発]火力8発電所で13項目、水力29発電所で6項目のデータ改ざんなどが判明。

 これを見ただけで唖然とするが、「不正、データ偽造・改ざん、隠ぺいも、みんなで出せば怖くない」の感を強くする。これらは国民の安全、生命に対する背信行為そのもの、犯罪行為である。企業の社会正義、信頼がどのように挽回されるのか注目していたところ、さらに驚くことに、その後も次から次へと不正行為が報道されている。
4月6日の報道によると、「電気事業連合会は5日、国に報告した不適切な事例は12社で計1万646件に上ったと発表した。このうち原発に関するものは455件で、北陸電力志賀原発1号機の臨界事故隠しなど法令違反で安全性にかかわる事案は計7件だった。」「内訳は水力8984件、火力1207件、原子力455件。各社で集計方法が違うために単純な比較はできないが、最も多いのは東京電力で3849件。この日、自民党の求めに応じて勝俣恒久会長(東電社長)が明らかにした。3月30日に国に提出した報告書では、同じ改ざんを毎年繰り返していた例などを1事案と数え、各社で合計306事案と報告していた。」
 同日の報道によると『東京電力は6日、新たに福島第二原発4号機の制御棒駆動装置で国の事前検査を受けず、それを隠すため原子炉メーカーの日立製作所に偽装を依頼した事例があったと発表した。また日立製作所は同日、北陸電力志賀原発1号機の臨界事故で、北陸電の担当者が日立の社員に原因の解析をこっそり依頼していたことを明らかにした。電力会社の偽装工作にメーカーもかかわっていたことが浮き彫りになった。東電によると、88年10月、福島第二4号機の定期検査中に185本ある制御棒の駆動装置の一つが故障した。そのため予備の装置に交換する際、装着前に受けるべき国の検査を受けなかった。それ以降の定期検査でこの事実を隠すため、担当者らは日立に故障した装置と同じ製造番号の装置を新たに作らせて交換するなどしていた。検査を受けなかった駆動装置二つは、その後に安全性を確認したが、現在も必要だった国の検査を受けないまま使われているという。」「この偽装工作は今年2月に東電が社員らの聞き取り調査をした際にはわからず、3月末に日立からの連絡で発覚した。東電の原子力運営管理部長は「定期検査がのびるのを心配してやったと思う」と話した。また、日立製作所によると、志賀1号機で99年6月にあった臨界事故では、直後の夜中に北陸電力の担当者から日立の社員の自宅に電話連絡があり、「上司には内証で制御棒が落ちた原因を解析してほしい」との要請があった。解析結果は臨界状態だった。ただ、この社員は実際に臨界状態だったことについては知らされていなかったという。さらに東芝は6日、78年11月の東電福島第一原発3号機の臨界事故で、制御棒が脱落することに気づいていたが、社内で対策をとったのは87年以降だったと説明した。』とある。
 原子炉メーカーも偽装工作に関わっていたことが判明したことは新事実である。ここまでこまでくると、もう何をかいわんやである。

 国に報告した不適切な事例は12社で計1万646件に上ったとの発表が、自民党の求めに応じて行われたというのはどういう事なのか。一政党の請求で事態が明らかになるという事に違和感を覚えざるを得ない。経産省をはじめとする所轄官庁はいったい何をやっているのか。これほどの不正、偽装、隠ぺいが行われ「内部告発」などがなければ国民は危険にさらされたままになっていたのか。国の原子力発電をはじめとするエネルギー事業の安全管理が、国民の安全という立場で行われているとは思えない。企業が申告しなければ分からないような管理の仕方でいいのか。こんなことで国民の生命、財産、環境を守るための行政が行われているといえるのか。まったく腹立たしい。
  ここまでの事態の発覚を考えると、行政は企業に責任を求めるだけでなく、自らの責任を明確にする義務を負っているだろう。現在報道されているだけでなく更に新事実が判明するに違いない。関係企業の責任者が処分発表しているが、減給何10%を何ヶ月などというものは企業内向けのもので社会に対して責任をとっていることにはならない。減給しただけで責任をとったなどと思う人がいるだろうか。個人でなく企業が社会に対して「再発を防止します」などといっておきながら、いくらもしないうちに新たな問題事実が発覚することを見ると、本気で反省しているとは思えないし、自浄能力があるとは思えない。これだけの「不正、データ偽造、隠ぺい」を見逃した所轄官庁である経済産業省原子力・安全保安院が企業に対して処分をするなどといっているが、見逃したことに対する処分がないのはおかしい。

 日本の電力の1/3近くが原子力発電と聞くが、「原子力は安全です」などという夢物語はやめるべきだろう。現在の原子力に関わる企業の体質が変わらない限り、原子力に頼らずに火力、水力および風力を含めた他の新しい発電に切り替えるときが来ているように思えてならない。重大事故が起こってからでは間に合わないからだ。
 そんなことをしたら、社会が動かなくなる、と思うところだが、原子力は昔からあったわけではない。化石燃料が残り50年といわれて何年経つのだろうか。地球温暖化を考えれば、エネルギー消費を最小限にする努力があってのことだ。「なくても困らない事」を再検討していることは無駄なことではない。基本はスローライフに転換することだ。例えば、TVの視聴率だけを考えているようなおふざけ番組と再放送をやめ、電波を流す時間を最小限にすること。商店は午後6時には終了すること。24時間営業する店舗もあるようだが、なぜそんなことをする必要があるのか大いに疑問。夜は遅くとも午後8時までには自宅に戻れる生活をすること。それ以降は街にネオンサインをつける必要はない。その代わり、太陽が出るとともに朝方の生活を開始すること・・・・などである。こうした生活は日本人が貧しい時代に行ってきたことで、できないことではない。過剰ともいえる便利さを求めないことだ。考え出せばもっと沢山の「贅沢」があるのではないか。時間の流れ方を少しだけ遅くする、それだけで安全かつ地球に優しい生活が期待できるならこんなにいいことはない。貧乏だった時代に思いを巡らしてみることが、今求められているのではないか。

 原子力に関わる「不正、データ偽造、隠ぺい」で一番の問題点は、そのようなことが起こる「技術力の問題」と、そのようなことをしなければならない「管理体制」、「技術者としてのプライドの喪失」ではないか。国民の安全に対する信頼を繰り返し裏切る企業に原子力を語る資格はない。

参考url :
平成18年度の原子力施設におけるトラブルについて((経済産業省所管分)の詳細(平成19年4月6日付け)

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