日々の抄

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 首相靖国参拝の愚

2013年12月28日(土)

 ことしの政治でのできごとはあまりにも急激な変化でその無謀とも,時代錯誤とも言えるような変化に怒りを感じている。怒りがあまりに大きいと文章をなかなか書く気になれずにいたが,年の終わりにどうしても書いておかないわけにいかない。

 オリンピック誘致での首相の福島原発が『完全にブロックされている』という国民の意識と大きな乖離のあるウソ発言。
 山本太郎議員が天皇に直訴状を渡したことを,皇室の政治利用と非難しておきながら,オリンピック招致で高円宮妃久子さんにスピーチを依頼したこと。また,「主権回復の日」に天皇の出席を求め、安倍首相らが「天皇陛下万歳」を唱え、自民党の憲法改正改正草案が天皇を「元首」と明記していること。
 特定秘密保護法で衆院,参院での強行採決,および採決前日の子供だましでアリバイ作りの公聴会が開かれたこと。担当大臣でさえ国会質疑で二転三転する答弁をしなければならないほど,「秘密」の内容が曖昧なこと。国会周辺の特定秘密保護法案に反対する市民のデモについて「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われる」などと与党の幹事長が語ったこと。
 国定教科書を作りたいことが見え透いている教科書検定改訂の方針を出したこと。「道徳」を教科化しようとしていること。
 武器三原則を見直しし,武器を輸出できるようにしようと企てていること。自国での事故の解決のめどが立っていない状態で,首相が原発の海外売り込みを積極的に行っていること…など,挙げればキリがない。武器,原発ともに輸出することで誰が利益を得るのか。首相が利益企業のビジネスマンに見えて仕方ない。
                            ◇

 そしてきのう27日,唐突に安倍首相が靖国神社を公式参拝した。第一次政権で参拝できなかったことを「痛恨の極み」としていたためか,政権に執いて1年後に参拝を果たした。「首相の靖国参拝は心の問題で,祖国のためを思い殉じた方々に尊崇の念を表し慰霊することのどこが悪いのか」との論評があるが,日本国内をはじめ近隣諸国が首相の靖国参拝を問題にする本質が分かってない行為である。

 つまり,靖国には,望まずして戦禍に散った英霊が祀られているとともに,A級戦犯14柱が祀られていることに問題がある。近隣諸国は首相が千鳥ヶ淵の戦没者墓苑に参拝するなら,なんら問題としないだろう。近隣諸国を侵略した行為の指導者であるA級戦犯が祀られているのになぜ他の英霊と同等に参拝できるのか。それは,A級戦犯は「連合国側の勝者の判断によって断罪された」のであるとし,1953年から公的援護の法改正があり、戦犯の刑死・獄死も公務死に準ずる「法務死」とされたことを根拠にしている。ならば自国民300万人余の命を奪った張本人達の国内法での責任がなぜ問われずに済んでいるのか。

 当然のように囂々たる非難が国内外から起こっている。与党の公明党山口代表は「国民や諸外国の理解を得ないままに(参拝を)強行すれば、摩擦や反発を引き起こす」と批判。首相の靖国参拝に反対の立場をとる「平和遺族会全国連絡会」は、「アジアとの関係があまり良くないこの時期になぜという思い」とあぜんとしながら、「一国の責任者の参拝は閣僚とはわけが違う。追悼の意を表す方法は他にもあるはずだ」と批判。

 米大使館から直ちに「日本は大切な同盟国であり友人である。それにもかかわらず、米国は、日本のリーダーシップが、日本の近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったことに失望している。 米国は、日本と近隣諸国の両方が、過去からの敏感な問題に対処するための彼らの関係を改善するために、地域の平和と安定の我々の共通の目標を推進する中での協力を促進するための建設的な方法を見つけることを期待している 」との声明が出された。また,米国務省報道官から「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米政府は失望している」という談話が発表された。
 また,米新聞に「アジアの各国は信頼関係を築くことが必要だが、安倍総理大臣の行動は信頼を損ねた」(ニューヨーク・タイムズ),「日本の軍国主義の復活という亡霊をみずからの軍備増強の口実にしたい中国の指導部への贈り物になった」(ウォール・ストリート・ジャーナル)などと指摘されている。

 ロシア外務省は「遺憾の念を呼び起こさざるを得ない」「過去の歴史を正しく理解することは、日本と近隣諸国が今日、関係をつくる上で重要な基礎となっている」「第2次世界大戦の結果を巡り、世界で受け入れられている評価から日本社会を離れさせようとする試みが強まっている」とし,
 台湾外交部は「日本政府や政治家は史実を直視し、歴史の教訓を学ぶべきだ。近隣国の国民感情を傷つけるような振る舞いをすべきではない」としている。
 EUの外交安全保障上級代表の報道官は「特に中国や韓国という日本の近隣国との関係改善にはつながらない」「慎重な外交によってもめ事に対処し、緊張を高めるような行動を慎むことの必要性をEUは一貫して強調してきた」としている。

 首相は「参拝したのは政権1年の歩みをお伝えするためです」としているが,政権一年の歩みをなぜ靖国神社に報告しなければならないのか。理由が分からない。政教分離の立場を全く弁えない行為ではないか。(注)
 また,「中国、韓国の人々を傷つけるつもりはありません」としているが,近隣諸国が靖国参拝に反対する理由を知ってのことなのか。首相はA級戦犯を祀っている靖国参拝そのものが大いに近隣諸国を傷つけていることに気づくべきである。
 「近隣諸国に丁寧に説明すれば理解して貰える」などと呑気なことを語っている場合ではない。首相の外交は四面楚歌の状態である。

 米国のユダヤ人人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」副代表が述べている,「首相として、国の戦争で亡くなった人を追悼する権利はあるが、それは戦犯に対してではない。戦争犯罪や人道に対する罪を命令・実行した責任者への敬意と混同させるのは道義的に間違っている」「北朝鮮の脅威が高まるとりわけ微妙な時期での参拝。米日関係を強めようとの彼自身の努力や、アジアの隣国と安全保障問題で共同路線を強めようとする目標をも損なう」との指摘は安倍首相の靖国参拝が否定されるべ神髄を述べている。

 政府は,集団自衛権,憲法改正,武器輸出三原則改訂で,地球の裏側まで出向いて戦争することが可能になることを標榜しておきながら,何が「積極的平和主義」なのか。「平和の道を邁進してきました。この姿勢を貫きます」などと語っているが,ちゃんちゃらおかしい発言である。

 中国や韓国との亀裂はさらに広がった事は確かだ。東京裁判を受諾した1951年のサンフランシスコ講和条約11条について、判決と東京裁判全体を認めたからこそ戦後の日本があるのではないか。これを否定している限り日本は国際的に孤立する道を辿るだけである。
 首相こそ「正しい歴史認識」をもって日本国民に責任をとるべきである。ほんの少しだけ国内の経済状態が上向きになり,少しの支持率があることに胡座をかいた思い上がりと慢心に気づくべきである。

 いったい現政権は,70年近く他国と戦争で血を流さずに済んでいたこの日本国をどこに連れて行こうとしているのか。現政権の進もうとしている方向は,まったく時代錯誤の狂気としか思えない。このままで行くと遠くから軍靴の響く音が聞こえてくるように思えてならない。国民は平和を願うなら,声を大にして叫び続けなければなるまい。
 安倍首相がその職にある限り韓国,中国と良好な関係を保つことは不可能である。

「おごる平家は久しからずや」である。


(注)
昭和55年11月17日 奥野法相発言に関する政府統一見解要旨
一. 憲法改正について
 内閣としては憲法改正は全く考えていない。
 国務大臣は誤解が生じないように個人的見解を述べる場合にも慎重になるべきである。
二. 国務大臣の靖国参拝について
 政府としては、内閣総理大臣及びその他の国務大臣が、国務大臣の資格で靖国神社に参拝することは、憲法20条第3項との関係で問題があるとの立場で、従来から一貫している。
 政府としては違憲とも合憲とも断定してはいないが、従来から事柄の性格上、慎重な立場をとり、国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することは差し控えることを、一貫した方針としてきたところである。
 
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