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【12】熱とは

熱に関する日常的な現象で次のような疑問がある。
「食事に使う器はある種のものは想像以上に暖かさを持続できる。風呂の湯は同じ水を使っていながら,水量が多いほど冷めにくい。冷蔵庫やクーラーはなぜ冷やされるのか。針金を鉄の棒で十数回摩擦させるだけで,手でさわれないほど高温になる」。
   これらをどのように説明することができるだろうか。物質を熱すると温度が上がったり,膨張したり,固体から液体へと 状態を変えたりする。熱力学はこうした物質の熱に関する現象を対象とする分野である。
   古代ギリシャではすべての物質は火・空気・水・土からできていると考え「火の素」が考えられていた。17世紀頃には、可燃物質には燃素(フロギストン)と呼ばれる物質が含まれていて、そのフロギストンが逃げ去ることが「燃える」ということだと考えられていた。18世紀になりラヴォアジェ(1743-94)は金属などが燃焼することで質量が増大することを知り、燃焼は酸素との結合であり、燃素などというものは存在しないことを明らかにして、今まで燃焼は燃素(フロギストン)が抜け出すことであるとされていた燃素説を否定した。また、彼は元素とみなせる物質を33種挙げて元素表を作った。その中には熱素(カロリック)もあり、熱素説の先駆けとなった。ところが、このように「熱は物質である」と考えると、どうしても,摩擦によっても熱が発生することを説明できなかった。18世紀頃には、実験から摩擦によっていくらでも熱が発生することがわかりはじめ,カロリックが熱なら、カロリックをどんどん出していけば、いずれ熱が発生しなくなってしまうことがわかった。
 熱と運動の関係を考えたのがラムフォード(1753-1814)であった。彼は大砲の中ぐり作業中に大量に熱が発生するのに気づき(右図参照)、中ぐり装置全体を水中に入れ、作業中にどれだけ熱が発生するのかを測った。すると熱は装置を動かしつづける限り出てくるように思われ,その熱は熱素という物質であるならどこからきているのかと考えるようになった。化学変化も他の熱の供給もないから、熱発生の原因は運動しかないと考えるようになり、熱の運動説を深めていった。
 19世紀には,ジュール(1818−89),マイヤー(1814−78)らによって熱の実態が明らかにされた。マイヤーは化学的作用,力学的仕事,熱が相互に入れ替わると捉えた。水の撹拌実験で熱と仕事の関係を定量化した。ジュールは,電流の熱作用を定量化し,電磁誘導での発熱も運動が形を変えたものと結論。撹拌装置で熱の仕事当量を測定(右図参照),1cal=4.208Jを得た。その後,熱の運動説は分子運動論から統計力学へと発展していき,熱輻射の現象が契機となって,エネルギーは離散量(エネルギー量子)であることが示され今日に至っている。

                                           

12−1 温度(temperature)と熱平衡(thermal equilibrium)
熱運動・・・煙や水に溶かされたインクの乱雑な運動の原因になっている原子・分子の運動
熱い寒いの感覚を定量的に表すものが温度である。日常的にはセルシウス温度(℃)を用いる。
また,セルシウス温度t℃から
      Tt+273.15 (単位K)   K(ケルビン)には℃のように「゚」はつけない。
で決められる温度T を絶対温度という。以下,特記なき限り温度とは絶対温度をさす。
熱平衡
温度の異なる物質を接触させ,十分時間が経過すると,高温物体の熱運動のエネルギーが低温物体に移動し,最終的には2つの物質は同じ温度になる。このように2物質の温度が等しくその間に熱の移動がなくなった状態を熱平衡という(これを熱力学第0法則という)。
  このように,物体間を移動する熱運動のエネルギーを熱という。つまり,熱運動のエネルギーの出入りする量(変化量)である。
比熱
物質1[Kg]を1[K]の温度変化させるのに必要な熱量をその物質の比熱(specific heat)cという。また物質の温度を1[K]変化させるのに必要な熱量を熱容量C[J/K]という。熱容量Cと比熱 c [J/Kg・K],質量m[Kg]の間にCmc の関係がある。つまり,同じ比熱の物質でも温度変化の大きさは質量によって異なる。
同じ水でも,質量が大きいほど温度変化は小さいことを示している(暖めにくいし,冷めにくい)。
物質に出入りした熱量Q(J)を,物体の質量m (Kg),温度変化t (K),物体の比熱をc (J/Kg・K)で表すと
      Qmct
の関係がある。

熱量保存の法則
高温の物質と低温の物質とを接触させたり,混合した場合,熱平衡に達するまでに
  「高温の物質の失った熱量=低温の物質が得た熱量」
の関係が成り立つ。これを熱量保存の法則という。
                                 

 

熱容量が5.0×102J/Kのアルミニウム製の容器に,15℃の水300gが入れてある。これに70℃のアルミニウム球200gを入れたところ,全体の温度が20℃になった。水 の比熱を4.2×103J/Kg・Kとする。
   (1) 水の熱容量,(2) アルミニウムの比熱,(3) 容器の質量を求めよ。
 (1) Cmc=300×10−3×4.2×103=1260=1.3×103J/K
   (2) 求める比熱をc [J/Kg・K] とすると,熱量保存の法則から
      200c (70−20)=(1260+5.0×102)×(20−15)      ∴ c =8.8×102 [J/Kg・K]
   (3) Cmc から 5.0×102m×8.8×102    ∴    m=5.7×10−1[Kg]

潜熱(latent heat)
物体に熱を加えると,物体の温度が変化する。ところが,熱の流れがあるのに温度変化しない場合がある。この現象は,物体の物質的構造が形態を変えるときに起こる。これを相変化という。
   固体から液体への相変化(融解),液体から気体への相変化(気化),固体の結晶構造の変化がある。
相変化がある場合内部エネルギーの変化を伴う。質量m の純粋な物質を相変化させるのに必要な熱量は   QmL  で与えられる。ここにL はその物質の潜熱と呼ばれ,物質の種類,相変化の種類によって異なる。
固体から液体へ相変化する場合の潜熱を融解熱,液体から気体へ相変化す場合の潜熱を気化熱(蒸発熱)という。右図に相変化の例として水の場合を示す。
                                         

 熱容量70J/Kの熱量計に60℃の水200g入れた。熱量計に0℃の氷50gを入れてかき混ぜると何℃になるか。ただし,水の比熱を4.19J/g・K,水の融解熱を334J/g とする。
      
50g,0℃の氷が0℃の水になるときの融解熱は 50×334J
    50g,0℃の水がt ℃の水になるときに吸収する熱量は50×4.19×(t−0)J
    60℃,200gの水,熱量計が失った熱量は (200×4.19+70)×(60−t)J
   失った熱量=得た熱量だから
          50×334+50×4.19×(t−0)= (200×4.19+70)×(60−t)
   これを解いて t=33.8=34℃

ラムフォード(1753-1814)はラボアジェ夫人と結婚した。本名Benjamin Thompson
セルシウス Celsius Anders[1701-44]  摂氏と称する。他にファーレンハイトFahrenheit
Gabriel Daniel[1686-1736]が水銀温度計を発明と同時に華氏温度(゚F)を考案した。華氏と摂氏の表現はそれぞれ、ファーレンハイトの中国語表記である華倫海と、セルシウスの中国語表記である摂爾修斯に由来。  F=(9/5)×C+32の関係にある。
1℃の温度変化を1Kという。
ケルビン Load kelvin(1824-1907)
本名トムソンWilliam Thomson。絶対温度の単位はケルビンに由来する。
 物質の比熱の例
   ×103(25℃,1気圧)         J/Kg・K
 水 (15℃)   4 .186   アルミニウム    0.900
 鉄             0.448   銅            0.387
 水銀         0 .140   氷(−5℃)  2.090
  エチルアルコール 2.400   木材         1.700
熱容量はJ.B.Blackが 1762年に命名
比熱はA. L. Lavoisierが 1789年に命名
Lavoisier(ラボアジェ)はフランス革命の際、徴税請負人の前歴を問われて処刑された。  
水の比熱が常温,常圧で大きいことは知られているが,水より比熱が大きい物質にはH2(15K 液体)で水の1.65倍,298.15Kで3.419倍,He(298.15K)で1.24倍であり,水の比熱が最大ではない。
水の比熱は温度によって変化する。比熱-温度のグラフを見る
潜熱の例
物質 融解熱 気化熱
J/Kg 104 106
33.3 2.26
酸素 1.38  0.21
ヘリウム 0.52 0.02
8.82 2.33
6.44 1.58
13.4 5.06


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