結果にとらわれすぎるのは困りもの | ||||||||||||||||||||||||||||||
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2008年09月09日(火) 文部科学省は8月29日、全国の小学6年生と中学3年生計約224万人が4月22日に受けた全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。43年ぶりに実施された昨年の結果と比べてみたい。全国の小6(116万人)と中3(108万人)のほぼ全員にあたる約224万人が参加したが、私立校は小6(5、315人)と中3(36、378人)で参加率はそれぞれ47.1%、53.4%で国公立校のほとんどが参加したのに比べると際だった少なさである。国語と算数・数学それぞれについて、基礎を問う「知識」(A)と、応用力をみる「活用」(B)の2分類を出題された。 文科省がまとめた概要は以下のようなものである。 ○教科に関する調査 ○今回出題している学習内容に関しては、知識・技能の定着に一部課題が見られ、知識・技能を活用する力に課題がある。 ○20年度調査は、19年度と比べやや難しい内容となっており、各教科の平均正答率が低くなっているが、過去の調査と同一の問題の正答状況等を踏まえると、学力が低下しているとはいえない。 小学校 (上段は08年、下段は昨07年)
国語A(知識)について、平均正答率が65.6%であり、今回出題した学習内容の知識・技能の定着に一部課題が見られる。例えば、過去の調査との同一問題(6設問)のうち5設問が過去の正答率と比べ3ポイント以上高くなっているが、同音異義の漢字を書き分けることやグラフから分かる内容を書くことなどに課題がある。 国語B(活用)について、平均正答率が50.7%であり、今回出題した学習内容に係る知識・技能を活用する力に課題がある。例えば、物語の場面描写をとらえて内容を整理すること、資料から必要な情報を目的や課題に応じて取り出し、条件に即して書き換えることなどに課題がある。 算数 算数A(知識)について、平均正答率が72.3%であり、今回出題した学習内容の知識・技能について更に身に付けさせる必要がある。例えば、過去の調査との同一問題(5設問)のうち4設問が過去の正答率と比べ3ポイント以上高くなっているが、面積についての感覚を身に付けることや百分率の意味を理解することなどに課題がある。 算数B(活用)について、平均正答率が51.8%であり、今回出題した学習内容に係る知識・技能を活用する力に課題がある。例えば、割合の考えを用いて正誤を判断し、その理由を説明すること、2つのグラフの特徴を基にしてその違いを説明することなどに課題がある。 中学校(上段は08年、下段は昨07年)
国語A(知識)について、平均正答率が74.1%であり、今回出題した学習内容の知識・技能について更に身に付けさせる必要がある。例えば、過去の調査との同一問題(7設問)のうち4設問が過去の正答率と比べ3ポイント以上高くなっているが、論理の展開に即して説明文の記述の内容を読み取ることや辞書の言葉を使って慣用句の意味を書くことに課題がある。 国語B(活用)について、平均正答率が61.5%であり、今回出題した学習内容に係る知識・技能を活用する力に課題がある。例えば、表現に注意しながら文章を読み、読み取った内容を整理すること、資料の情報を根拠にして自分の考えを書くことなどに課題がある。 数学 数学A(知識)について、平均正答率が63.9%であり、今回出題した学習内容の知識・技能の定着に一部課題が見られる。例えば、過去の調査との同一問題(6設問)のうち4設問が過去の正答率と比べ3ポイント以上高くなっているが、文字式を事象と関連付けてよみとること、比例・反比例・一次関数の意味や対応するグラフの特徴の理解などに課題がある。 数学B(活用)について、平均正答率が50.0%であり、今回出題した学習内容に係る知識・技能を活用する力に課題がある。例えば、複数の資料から課題解決に必要な情報を整理し、事象を数学的に解釈して説明することなどに課題がある。 ○地域の規模等の状況 小学校調査、中学校調査ともに、平均正答数、平均正答率、中央値、標準偏差を見ると、19年度同様、地域の規模等(公立:大都市、中核市、その他の市、町村、へき地)による大きな差は見られない。 ○都道府県の状況 小学校・・・各都道府県(公立)の状況については、平均正答率を見ると、19年度同様、ほとんどの都道府県が平均正答率の±5%の範囲内にあり、ばらつきが小さい。 中学校・・・小学校に同じ。 ○児童生徒質問紙 <学習に対する関心・意欲・態度> ○家で自分で計画を立てて勉強をする児童の割合は約52%、生徒の割合は約35%である。 ○携帯電話で通話やメールをほぼ毎日している児童生徒の割合は、19 年度と比べやや高くなっており、携帯電話を持っていない児童生徒の割合は、やや低くなっている(持ってない数は昨年/本年で小6 71.6→68.1%、中3 39.8→37.3%)。 ○学習塾(家庭教師を含む)で勉強している児童生徒の割合は、19 年度と比べやや高くなっている。学習塾(家庭教師を含む)で、「学校の勉強より進んだ内容や、難しい内容を勉強している」児童生徒の割合は、19 年度同様、地域の規模等が大きい方が高い傾向が見られる。 <基本的生活習慣> ○朝食を毎日食べる児童生徒の割合に、若干の増加傾向がうかがえる。 ○家の人と学校での出来事について話をしている児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる。 <学習態度> ○平均正答率が5ポイント以上全国平均を上回る学校(A群)の方が、5ポイント以上全国平均を下回る学校(B群)より、児童生徒は、熱意をもって勉強していると思う、授業中の私語が少なく、落ち着いていると思うと回答している割合が高い傾向が見られる。 以下略。 などというものである。 学力テストの全国順位に各都道府県の教育関係者は一喜一憂せざるを得ないようだが、全国順位、都道府県内の順位をつければ、一番があれば必ずビリがでてくる。昨年と本年の順位比較のいくつかを書いてみる。数値は07年→08年の順位である。 小学算数B:秋田(1→1)、宮崎(16→42)、和歌山(26→44)、徳島(38→26)、大分(43→33)、沖縄(47→47) 中学数学B:福井(1→1)、長崎(14→23)、栃木(25→34)、宮城(35→27)、和歌山(42→31)、沖縄(47→47) これを見る限り、全国順位は流動的のようだが、07年と同問がことしも出題されていることを考えると、秋田県で小学校の93・9%(全国平均77・4%)、中学校で84・1%(同39・2%)が、「07年の全国学力テストの結果を学校全体で活用した」というから、いい結果が出たのは当然のような気がする。 学力テストで好成績をあげた秋田、福井、富山の3県の共通点について、文科省の見解は次のようなものという。 ○「補習をよく行っている」と回答した学校の割合が、秋田、福井とも小中学校の国語、算数・数学で全国平均を大きく上回っており、小学算数では秋田47%、福井45%と全国平均(36%)より10ポイント前後高かった。 ○「宿題をよく出した」と回答した学校の割合では、3県とも、おおむね「よく出した」と答えた学校の割合が全国平均を上回り、特に福井の中学校では、国語で40ポイント高い78%、数学も28ポイント高い71%に上った。 ○「教師の熱心さ」。富山では教科研究などを行う教師の任意団体が、小中学校とも100%近い組織率を誇り、授業や教材の研究に取り組んでいる。秋田でも、大半の教師が教科ごとに開かれる研修会に参加し、授業研究の活動も盛んである。 昨年10月24日だった調査結果の発表がことしは2月早くなった。昨年に比べれば、調査を受けた児童生徒に対してのフィードバックができやすくなったことは歓迎であるが、「他県に比べて劣る」ことを気にしすぎ、目先の対応に「きゅうきゅう」として本末転倒と思える様相を見せているところもある。 小6、中3ともにほぼ最下位に近い位置にいる大阪府は、教員向けセミナーを開き、学力向上担当教諭の各校配置などが提案されているという。9月からは、「知事の学力向上策」が実施され、政令・中核市を除く小中学校の全学年を対象とした放課後学習「おおさか・まなび舎(や)」と、小3〜中3を対象に特定教科だけの習熟度別授業が始まるという。 学力テストの結果について、府知事は公表を各教委に求めている。文科省は「序列化や過度な競争につながる」として、都道府県教委に市町村別データの非公表を求めてきた。鈴木文科相は5日の閣議後会見で、都道府県教委が市町村教委に全国学力テストの結果公表を要請することについて「市町村ごとの切磋琢磨はあっていい」として、容認する姿勢を示した。今後は市町村別データ公表の動きが広がる可能性もあるが、就任して一月経過するかどうかの時期に、そして間もなくその職を辞することが明白な文科省の判断で、今までの学力テスト公表に対する方針が簡単に変えられていいものなのか。「競争を煽ることが教育的でない」として、従前の方針通り公表に消極的な大阪府下の教委がある。これに対し、府知事は言うに事欠いて、公表に消極的な市町村教委会などを指して「くそ教育委員会」と発言した。更に、「2009年度から(テスト結果の)開示・非開示によって、予算をつけるかどうか決めさせてもらう」と、市町村への予算配分にも反映させる考えを強調している。これは権力が、札びらで頬を叩くような品性を欠く発言であり断じて許し難い。マスコミにチヤホヤされいい気になって、「なんでも自分の言うとおりになる」というとんでもない思い違い発言である。「言うことを聞かなければ金をやらない」などいう発想は、貧困な発想しか持てない田舎政治家にしかすぎない。学力テストの結果の公表は、各教育委員会が地域に適した方法をとればいいだけのこと。結果に囚われすぎると、「学力テスト対策の事前学習が功を奏した」「国際学習到達度調査(PISA)に対応した学力の育成をしていけばいい」などということにつながる。『日本国としてどのような学力を望み、育成していくのか』という学力に関する根本問題が忘れ去られ、目の前の結果つまり、「昨年より全国順位が上がった、全国で下位でないからいいのだ」という貧困な発想につながるだけである。 全国学力調査には58億円と授業4時間を費やしている。「正直言うと、全国テストは必要と思わない。市のテストの方が役立つ」 「進路に対応するには自校の授業やテストで十分」「巨費をかけて実施するより、そのお金を支援費に充ててくれた方がよっぽど有効」などの現場の声に文科省はどう答えるのだろうか。 「家で学校の宿題をする。朝食を毎日食べている。学校のきまり・規則を守っている。携帯電話を持ってない。読書を好む。塾に行っている」ような児童生徒の学習成績がいいことは巨費を投じなくとも分かり切っていることである。せめて抽出調査に留めるべきではないか。 教育の原点は児童生徒をやる気にさせること、学ぶこと、真面目に生きることを知らしめることである。教員は、教科指導だけでなく、「人としてどのような生き方をすべきか」を、児童生徒に語りかけたことがどれほどあるだろうか。もしそれが希少なら、本物の教員になっているとは言えまい。自分をさらけ出し、「生きるとはどういうことか」「学ぶことは素晴らしいこと」を熱く語りかけることが教員の最大の責務なのではないか。児童生徒を、その気にさせる工夫は常に考えていかなければならない。「自分が生徒だったらどうか」と想像力を働かせれば簡単なことだ。 「なかなかやるね」「がんばればできるじゃないか」などと励ました結果、一度でもいいからテストでいい点を取ることができれば大成功だ。「定期試験で90点以上とったら’君’づけで呼ぼう」「満点を取ったら卒業するまで’さん付け’で呼ぼう」などと刺激したところ、本当にその気になって学力を飛躍的に伸長させた生徒もいた。生徒は自分が認められることを望み、認められることによって思う以上の潜在能力を発揮するものだ。「生徒をその気にさせる工夫」は常に求められていることだ。 昨今、子ども達は机に向かって勉強するより楽しいことが身近にありすぎる。勉強時間が少ないのは「宿題の出し方が足りない」だの、「学力が上がらないのは教師の指導力が不足している」などと語られるが、学校だけでなく社会環境も変えない限り容易に現状を解消できまい。「ヒマだから勉強する」という地域に住んでいる生徒の学力テストの結果がいい場合が多い。そうでないところは社会が子どもが机に向かわざるを得ない環境作りを始めることが先決問題である。いつまでも街角に立ち、楽しいことが待っている環境は辞めるべきである。それが自然環境への貢献にもなる。 少人数授業、教員が気持ちに余裕をもって生徒と接し意欲的になれる環境を作ることが、今すぐに目に見えるいい結果につながりそうだ。 「教育は国家百年の計」と言われるが、僅か数ヶ月で文科相のすげ替えが行われ、最小限の予算でいい結果を出させようという思い違いが横行している限り、教員採用で不正が行われたり議員の圧力がある限り、日本の教育は望ましい方向に進みそうにない。 |
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