日々の抄

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 鶚は空を飛ぶな

2012年7月27日(金)

 米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ12機が23日に米軍岩国基地に搬入された。オスプレイは米海兵隊の主力兵員輸送機MV22の通称で,主翼の両端にプロペラ部分の角度が変わる傾斜式回転翼があり,ヘリコプターのような垂直離着陸ができる上,固定翼並みの速度も出せる構造になっている。1989年に初飛行。2000年までに重大な墜落事故が4回発生し多数の犠牲者が出たため開発が一時停止された経緯があるとされていた。
   最近の事故としては本年4月のモロッコでの故障でも死者を出し,6月に米国フロリダ州で訓練中に墜落事故を起こし,乗員5人が負傷している。そのオスプレイは沖縄米軍普天間飛行場に海兵隊仕様の別型機MV22オスプレイの配備が予定されている。

  オスプレイには安全性に重大な問題あるとの指摘がある。オスプレイの元主任分析官によると,エンジンが停止した場合,機体降下で生まれる空気の流れで回転翼を回し,揚力を得て緊急着陸する「オートローテーション機能」に欠陥があると警告している。また両方のエンジンが停止した場合,回転翼が本体から外れる構造になっているので,万が一飛行中に故障が起こるとプロペラが地上のあちこちに吹き飛ぶという。住宅地上空の事故なら確実に犠牲者が出ると懸念される。

  たった2回の事故だけしか起こさない軍用機かと思っていたが実態は大きく異なることが分かってきた。事故の過小評価をしていたのだ。
   『量産決定後の06〜11年の5年間に事故が58件起きていたことが米軍の資料で分かった。防衛省は地元自治体に過去の重大事故については説明していたが,全体の件数が,海兵隊安全部と空軍安全センターがそれぞれ公開した文書やデータベースで明らかになった。米軍は航空機事故を三つに区分している。
   クラスA=死者や全身障害者が出たり,200万ドル以上の損害が出たりした事故。クラスB=重い後遺症が残るか50万ドル以上の損害が出た事故。クラスC=軽傷者か5万〜50万ドルの損害が出た事故とし,06年10月〜11年9月に計30件の事故が起きた。Aは飛行中の機体からの出火と乗員の転落事故の2件,Bはエンジンの出火や前脚が折れる事故など6件,Cはエンジン故障や火災,着陸時の衝撃による乗員の負傷など22件だった』(朝日7月20日)という。
   また,『延べ10万時間の飛行で起きた比較的程度の軽い事故の件数は,クラスAは1.93件(海兵隊の平均2.45件),クラスBが2.85件(海兵隊の平均2.07件より高い),クラスCは10.46件(海兵隊の平均4.58件の2倍以上)となっていて,海兵隊の航空機の中で最も高い数値である』(NHK 7月26日)という。
   海兵隊の報道部は,「程度の軽い事故の割合は確かに高いが,この2年で起きた事故の72%は操縦など人為的なミスが原因で,オスプレイに設計上の問題はなく,安全性の高い航空機だと確信している」と話しているが,人為的事故だろうが構造的事故だろうが事故が起こったときに被害が起こることに関係ない。人為的事故が起こりやすい,つまり些細な操作ミスで墜落事故が起こりやすいならもっと問題である。

   安全に大きな不安を抱える軍用機が住宅が密集している沖縄の基地に配備されることは大きな問題だが,これに加えて飛行訓練として日本各地でそれも山間地や超低空で飛行する予定というから,日本中が他人事ではなくなっている。当群馬県も例外でなく,尾瀬付近が飛行ルートに入っているらしい。東北―信越の山間部を中心にした3ルートと四国―紀伊半島,九州,奄美諸島に各1ルートの計6ルートがあり,それぞれ「オレンジ」「ブルー」「ピンク」などの色の名がつけられているという。超低空とは上空60メートルの場合もあるというから,手の届きそうな頭上にいつ墜落してくるか分からない軍用機が飛ぶことなど考えられないことである。今,沖縄,山口をはじめ,日本全国でオスプレイ飛行反対の抗議が広まっている。

   なぜこのような危険きわまりない米軍の軍用機が日本上空を飛行しなければならないのか。日米安保条約によるのだそうだ。だが07年に出されたオスプレイの訓練マニュアルによると,訓練区域のほか,訓練に向けた準備や整備確認事項などが記され,戦闘訓練については「接受国の同意がない場合,最低でも航空交通渋滞を避け,航空管制圏内で実施すること」「山間地での低空飛行など危険性や住民生活への影響が懸念される戦闘訓練について,日本政府は日米地位協定に基づく'基地間移動'として認めており,住民の反対を受けた日本政府が訓練実施に同意しないと伝達することも可能になる」ので,日米同盟を重視する米側も協議に応じざるを得なくなる可能性もあるという。同マニュアルはそのほか,戦闘訓練区域について「訓練に参加しない人たちからの安全な分離が指定されている区域」と義務付けていて,日米両政府は国内各地で予定されている低空飛行訓練など戦闘訓練の安全性を地元に十分に説明しておらず,安全性が確保されるかは不明である。

   国民の抗議の声に,日米地位協定の運用について協議するための「日米合同委員会」が,外務省で始まったという。首相は「配備は米政府の方針で,(日本から)どうしろこうしろと言う話ではない」としている。防衛相は「いかに飛行の安全性を確認し説明するか努力しようと思う」と語っているがオスプレイは安全な航空機ではないのだ。
   「普天間への10月配備」は変えられないとはじめから決めているなら,同委員会は単なるアリバイ作りに過ぎず,「原子力発電は安全と認められる」と多くの国民の心配の声に耳を傾けることなく原発再稼働を強行したことと同じである。日本国民を最も守るべき立場の首相が米国のいいなりになっていることは全くもって腹立たしい。オスプレイは米国のアジア対策の軍用の為に有益と考えてのことだろうが,日本国民で自分たちの命を危険にさらして,米軍の軍用機を頭上に飛行していいなどと考える人はいないだろう。

   改めて日本は米国の属国であると知らされ屈辱を感じる。日本が米国に日米安保で守られているのだから我慢しろ,と言う立場があるかも知れないが,米国が日本をどれほど守っているのか。日本に頭越しの北朝鮮との交渉,妥協は不可解である。どれほど拉致被害者について米国が日本国民の利益を与えたのか。北方領土問題でどれほど国益を与えたのか。中国,韓国との領土問題で米国に利益を受けたのか。その反面,沖縄を中心とした米軍兵士による犯罪が日米地位協定によってどれほど蹂躙されてきたのか。国内で生活不安を抱えている国民が増加しているのに,なぜ莫大な「思いやり予算」を米軍に供与しなければならないのか。

   かつて「日本は米国の不沈空母」といった首相がいた。沖縄は日本に本土復帰しても戦後67年経過しても米軍が駐留している。国内のあちこちにも米軍基地がある。これは独立国としてあまりに不自然ではないか。外国の兵力に頼ることなく,近隣諸国と平和外交で友好的関係が成り立つ日が一日も早く訪れることを願わずにいられない。絶え間ない文化交流,民間の人的交流は不可欠である。

   オスプレイosprey=鶚(ミサゴ)は,タカ科で急降下して魚類を捕らえる鳥である。そんな鳥が住宅の頭上を飛んでいいはずがない。どうしても飛びたければ人のいない海の上だけにしてほしい。仮に沖縄でオスプレイが墜落事故を起こし犠牲者が出るような不幸が起これば,日本と米国の関係が変えられるような事態に繋ってもおかしくない。
 
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