日々の抄

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 ロンドンからリオへ

2012年8月16日(木)

   ロンドンオリンピックが終わった。今回の日本選手は「〜年ぶりの結果」が多かった。分かっている範囲で列挙すると以下のようだ。
・ボクシングミドル級 村田諒太48年ぶり「金」
・ボクシングの男子バンタム級清水聡 「銅」11大会。史上初めて1大会複数階級でメダルを獲得
・レスリング男子フリースタイル66キロ級、米満は1988年ソウル大会以来24年ぶりの「金」
・レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級松本隆太郎は「銅」。グレコローマンで12年ぶりのメダル
・女子サッカー初 「銀」
・重量挙げ女子48キロ級三宅宏実は「銀」。日本女子では初のメダル獲得
・体操男子個人総合内村航平は28年ぶりの「金」
・卓球は女子団体福原愛,石川佳純,平野早矢香 五輪の卓球で「銀」。男女を通じて初のメダル
・フェンシング男子フルーレ団体 太田雄貴、千田健太、三宅諒、淡路卓 「銀」。日本の団体のメダル獲得は初
・柔道女子57キロ級松本薫 「金」。同階級は56キロ級だった時代を含めて初
・女子バドミントンダブルス藤井瑞希,垣岩令佳 初の「銀」
・女子バレー28年ぶり「銅」
・競泳男子400メートル個人メドレーで、高校生萩野公介 「銅」。競泳男子で高校生がメダルを獲得したのは1956年メルボルン五輪の「銀」は56年ぶり。また日本男子の個人メドレーのメダルは初めて
・メダル数は38個(「金」7,「銀」14,「銅」17)。2004年アテネ大会の37個を上回る史上最多記録

   オリンピックはとかく国威発揚のために利用される。そのため,国によっては選手を幼少の時期から養成 し,スポーツエリートを大量輩出している。日本より金メダルを5倍以上もとっている中国の代表選手から「メダルは重要でない」との趣旨の発言が相次ぎ、注目を集めているという。国策スポーツ政策が進められている中国内からなぜこうした考えが出てきたのか興味がある。「ようやく分かったのは、メダルを取ることだけが真の勝者ではないということ」と発言した水泳の銀メダルは「競技場で自分らしさを表現することが重要だ」という。合宿生活をした豪州の選手が皆リラックスしていたのに対し、「中国では練習し、練習を続けるために休み、また練習。趣味や自分の時間を持つこともない」という。つまり,中国選手には他国の選手が競技を楽しんでいるように見え,今までにない何かを感じたのに違いない。

  日本人選手のほとんどは,試合前は「一生懸命やりますから,応援よろしくお願いします」と判を押したように語り,試合後は「競技を楽しめた。自分を応援してくれた人がいたから,いい結果が出せた。感謝している」と謙虚なコメントを寄せている。結果はともかく,オリンピック競技は「国のため」でなく「自分のため」に臨み,応援は国を応援するのでなく競技者と競技に熱気と支援を送ることが望まれるのではないか。自分を応援してくれている人の分まで頑張るのはよしとしても,国のために頑張るということはいかがなものか。
  オリンピック憲章に「スポーツを行うことは人権の一つである。すべての個人はいかなる種類の差別もなく、オリンピック精神によりスポーツを行う機会を与えられなければならず、それには、友情、連帯そしてフェアプレーの精神に基づく相互理解が求められる」。「オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない」とある。柔道男子は柔道からJUDOに変わったためでなく「国」を背負いすぎていた結果だったような気がしてならない。

  日本選手団の活躍の一因に国の肩入れがあったことは確からしい。スポーツ科学、医学、情報など最先端の研究から選手のトレーニングなどをサポートする国立スポーツ科学センター(JISS)が2001年、東京・北区に,豊富な練習場を備えた世界レベルのトレーニング拠点となるナショナルトレーニングセンター(NTC)が2008年にJISSに隣接してオープンした。そこで今回のオリンピックに出場した選手のほとんどはトレーニングしたという。

  もう次のリオデジャネイロオリンピックの練習がはじまっている。その次のオリンピック開催地を東京にしたい動機が国威発揚なら賛成することに抵抗がある。東京開催に国民の賛成が半数にも満たないのは,大震災による被災者の生活の見通しが全く立ってないこと,未だ十数万人の人がふるさとに戻れる見込みを持てないでいることが大きな理由だろう。そもそもロンドンオリンピック視察に7800万円も支出している場合でないだろうという庶民の素朴な気持からである。「招致に賛成しないなら東京でオリンピックが開かれても都民は見に来なくていい」などと子供じみたことを言う都知事に協力したくない気持があっても不思議ではない。

  オリンピック開催前にマスコミはメダリストを予想して集中的に報道していた。予想が外れたら手のひらを返したような仕儀が見られた。女子卓球団体が銀メダルをとれたのは福原,石川の活躍があったからだなどと報じ,まるで平野選手が関係してなかったような報道を見た。まったく平野選手に失礼な報じ方があった。マスコミは公平に知らせるべきである。前評判のほとんどない選手,種目が成果を上げたのは痛快だった。

  それにしてもメダリストが表彰式でなぜメダルをかじるのか。不思議で仕方ない。
 
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