日々の抄

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  立場がわかってない

2006年08月15日(火)

 「心の問題だ」、「他国からとやかく言われてやめるものではない」、「私は8月15日に何があっても行きますから」などと小泉首相が靖国神社参拝を強行した。公約ならなぜもっと早く終戦記念日に参拝しなかったのか。外交上の戸惑いがあったからに違いない。もう政権が終わりになるから構わないというなら無責任である。政権の最後の最後まで戸惑いを感じてもらわなくては無責任である。

 「この程度の約束を守らないことは、大したことではない・・・・」という国会答弁での首相の言葉があった。8月に入ってからは「公約は生きている」「公約は守るべきものだ」などとし、参拝を強く匂わていた。首相が靖国神社参拝をめぐる発言を日増しにエスカレートさせ、10日には記者団とのやり取りで「日本の首相がどこの施設に参拝しようが、批判されるいわれはない」と憤慨し、中国に加えて日本のマスコミへの批判もまくしたてている姿は、政権末期に記者を追い出してTVカメラにだけ向かってマスコミに対する憤懣をぶちまけた佐藤栄作に似ている。自分の考えに国民がみな賛成すると思ったら大間違い。首相の態度に思い上がりも甚だしいものを感じる。

 靖国参拝を「心の問題」とするなら、個人の心の問題を何故、「公約」したのか不思議でならない。公職にある者はいくら「個人の立場」と主張しても公人であることは疑う余地はない。公約とうたって公用車を使い、内閣総理大臣と記帳した参拝がなぜ私的参拝なのか。「人間小泉が参拝した・・・」などは詭弁以外の何ものでもない。首相は自分の立場がわかってない。問題視されているのは「首相の立場にいる人物が靖国参拝するから」であって、「個人」で参拝することをとやかく言ってない。「個人の心の問題」というなら、立場を離れてからいくらでも参拝すればいい。

 「国のために亡くなった人を弔い、不戦の誓いを・・・」と言っていることに問題はない。中国、韓国などが問題視しているのは、靖国にA級戦犯が合祀されているからであることは何遍も伝えられている。参拝することを外国からとやかく言われてやめるものではないと言っているが、それならなぜ米国のいいなりの外交を行って来たのか。これは矛盾である。A級戦犯の合祀を問題視していることに対して、首相はなんら説明しようとしてない。それを語らずして「ひとつの問題で対立するからといって首脳会談もしないなどというこは許されない」というが、「A級戦犯は戦争犯罪人である」と首相が明言していることとの整合性をどのように説明するのか。そのことに明確な意思表示をしないことは大きな問題である。これに首相が答えてないことに日本国民も苛立ちを覚えている。首相の靖国に対する論法は国内で認める人がいても、諸外国から到底認められるものではないだろう。強弁する前に、しっかりと多くの言葉でこれらに答えてこないのは不誠実かつ無責任である。また、連立与党の公明党は靖国参拝に反対していた。今回の靖国参拝を公明党に対してどのように説明するのか、公明党はどのような意思表示をするのか。

 A級戦犯の合祀は、遺族へ合祀の可否の意向確認することももなく、靖国神社の一方的な考えで行われてきた。また一旦合祀したら分祀はありえない、とするのもおかしい。分祀を望む遺族に対して一方的にそのようなことを伝えられて納得できるものではあるまい。A級戦犯の内、広田弘毅の遺族以外は分祀を望んでいないという。一方で「富田メモ」によって昭和天皇が、靖国神社のA級戦犯合祀に「不快感」を示す発言をしていたから、分祀すべしとするのはおかしい。これを強調すれば、天皇の意志だから云々という戦時中の発想と何ら変わらない危険な要素を含んでいるからだ。

 終戦記念日の首相の靖国参拝は、中曽根元首相以来21年ぶりになるが、公職にある者は個人を越え「国益」を優先すべきである。

 靖国問題の最大の問題点は、先の戦争の日本の責任が誰にあったのか明らかにしてこなかったことである。これを解決しない限り、いつまでも近隣諸外国と良好な国交は改善される望みはあるまい。いまだ、「東京裁判は受け入れられない」などと言っている人が政治に関わっている限り、日本国は世界から認められない。「靖国はA級戦犯の分祀はできない」ことについて、政治は宗教に介入できないからなどといっている限りなんら問題の解決にならないだろう。

 首相が米国、ヨーロッパに外遊できても、近隣国でモンゴルしか行けないというのでは、いかにも寂しい日本の外交ではないか。後継首相と思われている人物が、「靖国参拝をしたともしなかったとも言うつもりはない」などとしていては、これからもアジアから世界からも認知される外交は展開できまい。国民がこうした人物を望んでいることが不思議でならない。

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