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監獄裏の林



前橋監獄(前橋刑務所)の周辺は住宅に取り囲まれ、監獄裏の林は利根川に面する西側に少し残っているだけになった。

監獄裏の林
 監獄裏の林に入れば
囀鳥高きにしば鳴けり。
いかんぞ我れの思ふこと
ひとり叛きて歩める道を
寂しき友にも告げざらんや。
河原に冬の枯草もえ
重たき石を運ぶ囚人等
みな憎さげに我れを見て過ぎ行けり。
暗鬱なる思想かな
われの破れたる服を裂きすて
獸類けもののごとくに悲しまむ。
ああ季節に遲く
上州の空の烈風に寒きは何ぞや。
まばらに殘る林の中に
看守の居て
づかの低く鳴るを聽けり。

詩篇小解  監獄裏の林  
前橋監獄は、利根川に望む崖上にあり。赤き煉瓦の長壘、夢の如くに遠く連なり、地平に落日の影を曳きたり。中央に望樓ありて、悲しく
四方よもを眺望しつつ、常に囚人の監視に具ふ。 背後うしろに楢の林を負ひ、周圍みな平野の麥畠に圍まれたり。我れ少年の日は、常に麥笛を鳴らして此所を過ぎ、長き煉瓦の塀を廻りて、果なき憂愁にさびしみしが、崖を下りて河原に立てば、冬枯れの木立の中に、悲しき懲役の人人、看守に引かれて石を運び、利根川の淺き川瀬を速くせり。


「宿命」の中の「物みなは歳日と共に亡び行く  わが故郷に歸れる日、ひそかに祕めて歌へるうた」によると
・・・前橋監獄だけが、新たに刑務所と改名して、かつてあつた昔のやうに、長い煉瓦の塀をノスタルヂアに投影しながら、寒い上州の北風に震へて居た。だが
  「監獄裏の林に入れば
   囀鳥高きにしば鳴けり」
と歌つた裏の林は、概ね皆伐採されて、囀鳥の聲を聞く由もなく、昔作つた詩の情趣を、再度イメーヂすることが出來なくなつた。 


朔太郎が中学生時代の市内南部
左(西)上下に利根川が流れ、県庁(縣廰)の北東が朔太郎生家。県庁と両毛線の間に前橋中学がある。県庁のすぐ南の利根川にある現在の群馬大橋の位置には有料の吊り橋があった。
  両毛線の南西の×印が前橋監獄である。曲輪町、石川町(朔太郎が父の没後住んだ町現・紅雲町二丁目)、堀川町、相生町、紺屋町、芳町、榎町などほとんどは今はなくなってしまった町名がある。
           

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