子供にとって親は絶対的な存在であり、親に見捨てられたら生きていけないと本能的に感じています。
ですから子供時代にありのままの自分を受入れてもらえて育った人と、親の顔色ばかりをうかがいながら育った人では大人になってからも大きな違いが生じてくるのです。
例えば、父親の言うことが一貫していなくてその時その時の気分で変わってしまう家庭で育った子供はどうなるでしょうか。ある時父親にいわれて正しいと思いながら行っていた行為を、それを言った当の父親に否定されたらどうでしょう。子供には何が正しい事なのかわからなくなってしまいます。そしてそんな事が何度も続くと、自分が行っている行為に対して、今これをしていていいのだろうかと疑問を持つようになり不安になります。こんな子供時代を過ごしてきた人は、大人になっても自分のやっている事に自信がもてず、いつも父親に何か言われるのではないかと不安になり、その影に怯えて気持ちが焦ってしまい目の前の事に集中できなくなってしまいます。そしてその対象はいつしか父親だけではなくて、学校の先生や会社の上司に対しても父親の影を見るようになってしまい、世の中の人全てが自分のやっている事を否定しているように感じてしまうのです。
また、いわゆるいい子といわれて育った人はどうでしょうか。両親には特に悪気があったわけではなく、本当に手がかからなくて礼儀正しいいい子だなと思っていたので「あなたはいい子ね」といっていただけかもしれませんが、子供にとってはこれが負担になることがあります。つまり、子供は「親は自分がいい子だから愛してくれているんだ」と受け取ってしまう場合があるのです。これは逆にいえば、自分はいい子でいないと親から愛してもらえない、見捨てられてしまうということになります。このように考えるようになってしまうと、子供は本当の自分を出せなくなってしまいます。例えば自分の意志に反している事であっても反論する事もできなくなってしまい他人の意見に従うようになります。そうする事で物分りの良い(相手にとっての)いい子になる事ができるのです。そしてこれらは意識して行っている行為ではなくて、子供が親に愛されるために本能的に行っている行為なので自分自身なぜ反論できないのかが分かりません。そうしていつしか本当の自分とはまったく違う自分像を他人によって作りあげられてしまい、他人によって作られた自分像に自分を当てはめながら生きていかなくてはならなくなってしまいます。そして他人に従順になってしまいます。
もしこんな状況で生きていかなくてはならないとしたら世の中が生きづらいのは容易に理解できると思います。
多くの人は、なぜ自分が生きづらいのかその理由すら分からずに悩んでいます。理由も分からず苦しいという状況は本人にしたら絶望的です。そして、自分だけがおかしいのだと感じてしまい、誰にも相談できなくなってしまいます。
実際友人に相談しても「なんでそんな事で悩むのだろうか?」といった感じで理解してもらえなかったり、「そんな事気にすることはないよ」「こうすればいいんじゃないの」などと自分でも分かっていながらできない安易な解決方法を提案されて終わってしまう事が多いのです。
運良くそうしたアダルトチルドレンの苦しみを理解して共感してくれる人にめぐり合う事ができた人は、それまでの生きづらさが軽減する事でしょう。
しかしほとんどの人がそうした理解者にめぐり合う事ができないのが現実ですし、もしめぐり合えたとしても、相手も同じ苦しみを抱えていて回復できない状態だとすれば、お互いが負のサイクルに入ってしまうこともあります。
回復を目指すのであれば、やはり専門的な対応のできる相手がよいと思います。
私が親子関係の研究を始めて既に20年以上経ちますが、その数は増える一方です。この20年のあいだに日本でもアダルトチルドレンという言葉が一般的に知られるようになり、子供時代の自分に何が起こっていたのかを自覚できる人も増えました。これにより原因が分からずただひたすら悩み続けた日々から解放された人は多いと思います。しかし、回復するためには単に原因が分かっただけでは足りません。
専門的なケアにより回復することで、こころを開放してあげることができ、今よりも楽に生きられるようになるのです。
|