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【6】力 

物体に力が加わると運動の状態が変化する。力学の目的は,物体に働く力と運動との関係を明らかにすることである。物体に働く力を分類すると,物体の接触による接触力(抗力,摩擦力,物体を押す(引く)力,ばねなどによる弾性力),重力,電磁力などの場の力(遠隔力)がある。

6-1 いろいろな力

(1) 重力(gravity)‥物体を地球が引く力。正確には、万有引力と地球自転による遠心力のベルトル和である。
(2) 張力(tension)‥‥接触し合っている物体間で引きあう力。
(3) 弾性力(elastic force)

ばねの弾性力 f (ばねが自然長に戻ろうとする力)とばねの伸縮量 x は(ある力の範囲では)比例関係にある(フックの法則)。
フックの法則は f =−kx で表さ れ,比例定数kをばね定数(弾性定数)という。

(4) 摩擦力(frictional force),垂直抗力(normal force)

水平で粗い面上に置かれた物体に水平方向に力を加える場合,力がある大きさ以下では物体が動かない。これは面から物体に物体の運動を妨げる向きに摩擦力が働いているからである。これを,静止摩擦力という。
物体に加える力を大きくし、ある値より大きくなると物体は動き出す。物体が動き出す直前の摩擦力を最大摩擦力という。物体が動いているときに働いている摩擦力を(運)動摩擦力という。 面に垂直な方向から物体が受ける力を垂直抗力という。垂直抗力 N と最大摩擦力F0の間には
              F0μ0N  (下注)    (6-1)
の関係(μ0を静止摩擦係数という),(運)動摩擦力F ' と垂直抗力 N との間には
             F '=μN (μを(運)動摩擦係数という)の関係がある。
一般にμ0μである。水平に置かれた物体に,水平に加えた力 f と摩擦力 F の関係は右図のようである。
摩擦の原因説
@ 凹凸説 (物体接触面にある凹凸どうしがかみ合いによる抵抗力が原因であるとする説)
A 凝着説 (凹凸説によると物体表面を磨くほど凹凸による摩擦が減少するはずだが,逆にきれいに磨かれるほど抵抗力が増加することが確かめられている。磨かれた表面にあった物体どうしの分子間の力(これを凝着力という)が摩擦の原因であるとする説)

(5) 浮力(buoyancy)

アルキメデスの原理によると
        「流体(気体,液体)中の物体は,それが排除している流体の重さに等しい浮力を鉛直上向きに受ける」
排除した流体の密度をρ,体積をV,重力加速度をg とすると,浮力はρVg で与えられる。

6-2 質点(particle)に働く力のつり合い

@ 質点が静止している条件(右注)は,質点に働く力の和が0である。座標軸をxyにとりx軸方向の力の和をFx, y軸方向の力の和をFy とする場合,つり合いの条件はFx=0,Fy=0
A 力がつり合うとき,示力図(下注)が閉じる。
重さWの質点に水平に力 F を加え,つり合い保って静止する場合,質点をつってる糸の張力をT,右図の角度をθ とすると,FWTを順に描いて示力図を描くと力ベクトルが閉じる。
座標を右図のようにx,yとすると,
  x軸方向の力のつり合い式は     FTsinθ=0
  y軸方向の力のつり合い式は     TcosθW=0
または,示力図から,
           
であることがわかる。
力は相互作用だから,力には原因の物体がある。何から何に働く力かを明らかにすることが肝心
  f x の範囲を弾性(elasticity)範囲という。k の単位はN/m。この範囲を越えると塑性(plasticity)範囲という
 F0=μ0Wでないことに注意
摩擦の法則は1699年にアモントンが発見し,1781年にクーロンが確認した法則で,アモントン−クーロンの法則ともいう。
摩擦について,物体が接触面を垂直に押す力が非常に大きいか非常に小さい場合を除いてほぼ成立する実験的法則。最大静止摩擦力と動摩擦については,接触面の面積には無関係である。運動摩擦についてはさらに〈摩擦力は運動速度には無関係である〉。
静止の条件は,正確には、合力=0 かつ,初速度=0の場合である。初速度≠0 の場合,合力=0 だと等速度運動をする

示力図は、力ベクトルを順に連続して描いた図
垂直抗力の作用点は物体の中心とは限らないことに注意

垂直抗力はどこに働くのか   
  水平と角θをなす摩擦のある斜面上に、辺の長さがa、b で重さmg の直方体を置く。物体が転倒しない範囲で考える。垂直抗力をNN のA点からの距離をx とすると、mgN の作用線は一致するから
     
   
  この結果、転倒しない tanθ≦(a/b) の範囲で、垂直抗力N の作用点は角度θによって変化することを示している。水平面上ではθ=0 だから x =(a/2)、つまり物体の中心である。

力のつり合いを考えるポイント
力は物体が運動(静止)する原因である。力を正確に抜き出すための手順は次の通り。
@ 対象物体(これをAとする)を抜き出す。
A 対象物体に働く重力を書き出す。
B 対象物体に接している物体名(B,Cとする)を書き出す。これがAに働く力の原因物体だからBからA,CからAに働く接触力を書き出す。
C A,Bの力の,調べようとする方向への成分を書きだし、正の向きをきめ,この合力を求める。

例1 右図のようにおもりを軽いばねに取りつけ,ばねの上端に軽い糸をつけ,これを手で支え全体が静止している。手が糸を引く力を求めよ。

それぞれの物体を独立して図解し物体に働く力を書き出す。それぞれの物体に働く力は以下のとおり。
@ おもり: (ばねがおもりを引く力=ばねの弾性力),(重力W=地球からおもりに働く力)
A ばね:(糸がばねを引く力=糸の張力), (おもりからばねに働く力)
B 糸:(手から糸に働く力F),(ばねから糸に働く力)。
  この結果, がつり合っているので,FWである。

例2 右図のように,水平で粗い面(静止摩擦係数μ)上に重さW の物体を置き,水平となす角度θに外力 f を加え静止している。
  つり合い式を書け。

物体に働く力は
  水平方向:外力f の水平成分fcosθ,静止摩擦力F
    つり合い式 fcosθF=0
  鉛直方向:台からの垂直抗力Nf の鉛直成分f sinθ,重力W
    つり合い式 NfsinθW=0
F0μ0Wでない理由
   NWf sinθ   F0μWではない。θ=0 の場合のみ NW

静止摩擦係数μ0の測定法
@ 例2においてθ0とし,f をゆっくり増加させる。すべり出す直前に fF0θ0の場合NW だからからμ0が測定できる。
A 右図のように水平と角度θをなす斜面上に物体を置く。θを徐々に大きくしθθ0を越えると物体はすべり出す。このとき静止摩擦力Fは最大摩擦力F0になる。xy軸方向の力のつり合いは,
   x軸方向:mgsinθF0μ0Ny軸方向:Nmgcosθ
両式から (θ0を摩擦角という)   μ0= tanθ0   (6-2)
つまり,斜面の傾きを徐々に大きくし,物体がすべり出したときの角度θ0を測定すればμ0が与えられる。
運動摩擦係数μの測定法
@ μ0の測定に引き続きθ を増加させ,物体が斜面をすべり降りるとき,運動摩擦力F ' とmgsinθ がつり合って等速で落下をするような角度θ' が求められる。このθ'からμが求められる。
A 水平面上に物体を置き,初速を与えてすべらすと,摩擦力を受けて減速し静止する。このとき,生じる加速度aの大きさはμgになるので    μag で与えられる。

演習問題

問23 図の矢印で示した力は,何から何に働く力か。                  
 
 



問24 A君がB君を,B 君が箱を押している。図の矢印で示される力は何から何に働く力か。





問25 天井から物体を糸でつり下げた。図のように,物体にはFWの2力が働いている。
      FWはそれぞれ何から何に働く力か。






問26 軽い糸1,2によって球1,球 2がつり下げられ静止している。球1,2に働く力を書き出せ。







「Aから下向き,床から上向き,重力(地球から下向き)」問27 水平な床の上に物体A,Bが重ねて置いてある。物体Bに働いている力を図中に矢印で示し,その力は何から何に働く力かを答えよ。

問28 ボールを投げると,放物線を描いて飛んでいく。空気抵抗や浮力がないものとする場合,ボールに働く力は何か。                                  




問29 静止しているボートに乗っている人が岸壁を押したら,ボートは動き出した。ボートと人を一緒に動き出させた力は何か。






問30 ゴンドラGを軽い滑車にかけたロープの一端にとりつけ,体重計Hの上に乗った人がこのロープの他端を引いたら,ゴンドラが床から浮いた状態で全体が静止した。
       @ 人に働く力は何か
       A ゴンドラGに働く力は何か。




[答]
問23 「ロープから箱」に働く力。人が箱を引くのでなく,ロープが箱を引いている
問24 「B君から箱」に働く力。A君がB君を押しているが,箱を直接押しているのはB君だけ。
問25 「Fは糸から物体」,「Wは地球から物体」に働く力。
問26 「球1には糸1,糸2,地球」,「球2には糸2,地球」から力が働く。
問27 「重力(地球から)下向き,床から上向き,Aから下向き」(矢印は図の上にマウスを乗せて見よ)
問28 「重力」
問29 「岸壁が人を押す力」
問30 人「重力,H,ロープから」,G「重力,H,ロープから」


6-3 大きさのある物体のつり合い
  剛体・・・変形しない広がりをもつ物体
(1) 重心
    物体の各部分に働く重力の合力の作用点を重心という。重心で物体を支えると,物体はバランスがとれ回転しない。
    質量m1m2,・・・ の小物体が座標(x1y1),(x2y2),・・・ にあるとき,
                      (6-3)
    が重心位置である。
(2) 剛体に働く力
     力の表し方
    大きさ,作用点,作用線



  力のモーメント
   力には,物体を平行移動させたり,変形させる働きがあるとともに,回転軸まわりに物体を回転させる働きがある。回転させる力の働きを軸のまわり
力のモーメントという。
  左図で回転軸Oまわりの力のモーメントの大きさは,Oから力の作用線に下ろした垂線の長さ a (これを腕の長さと
いう)と,力の大きさF との積で表される。
力のモーメントの大きさM
     MFaFrsinθ
(θ は回転軸Oから力の作用点に引いた直線(長さr )と力のなす角度)
物体が回転しない条件は,ある軸まわりの力のモーメントがつり合っていることである。

(3) 剛体に働く力の合成

@ 力の作用線が共通の場合
   各力の作用点を共通にして,力の代数和が合力。
        合力FF1F2
A 力の作用線が交わる場合
  各力の作用線の交点に各力の作用点を移し,平行四辺形の原理で合力を求める。
         合力
B 力が平行で同じ方向の場合
  合力の大きさは各力F1F2の和(F1F2)で与えられ,向きは2力と同じ向き。
     合力の作用線は2力の作用点間の距離を,2力の大きさの逆比に内分する点を通る直線である。
       
  (F1に−fF2にfを加え,これらの合力の作用線の交点が合力の作用線と交わる)
C 力が平行で逆向きの場合
  合力の大きさは各力F1F2の差|(F1F2)|で与えられ,大きい方と同じ向きである。作用点は2力の作用点間の
  距離を,2力の逆比に外分する点である。
           
(F1に−fF2f を加え,これらの合力の作用線の交点が合力の作用線と交わる)
D 偶力
  1組の互いに反対向きの平行力を偶力という。
  偶力の合力は0である。右図で力偶力のO点まわりの力のモーメントM
      MF1(r2r1)=F1d   で与えられる。

(4) 剛体のつり合い

つり合い条件
 右図のようにxy座標をとり,各力の分力をFxFyとする。
    x軸方向の力のつり合い ΣFx=0 (F1xF2x+・・・=0)   (6-4)
    y軸方向の力のつり合い ΣFy=0 (F1yF2y+・・・=0)   (6-5)
       O点まわりの力のモーメントのつり合い
       ΣM=0  (M1M2+・・・=0)                             (6-6)
剛体のつり合いを考えるポイント
   @ 力のモーメントのつりあいは
     力の大きさ×(力の作用線と力の始点までの距離)で,右まわり(または左まわり)を正にする。
     任意の点まわりの力のモーメントの和=0 が回転しない条件である。
   A 物体のつり合いは
     力のつり合い式および,任意の点まわりの力のモーメントのつり合い式を必要な未知数だけ式を立てる。








                                         演習問題                                  解答



3 大きさのある物体のつり合い
問31 図のように1辺の長さがaの薄い一様な正方形の板ABCDから,面積がその4分の1の正方形を切り取った残りの部分
   ABCDEFGの重心の位置を求めよ。

問32 長さ18cmの針金ABをA端から12cmの点Oで直角に折り曲げて,L字型にした針金がある。針金の太さと密度は一様であり,
   たわまないとする。
(1) 1図のように,AOが水平になるように支える点Hは,Oから何cmのところか。
(2) Oを原点,OA方向にx軸,OB方向にy軸を定めるとき,L字型針金の重心の座標を求めよ。
(3) 2図のように,L字型針金のB端に糸をつけてつるしたとき,OB部分が鉛直方向となす角度をθ とするとき,tanθ の値はいくらになってつり合うか。
                           
問33 半径rの一様な厚さの円板Oがある。その1つの半径OAを直径とする小円板O'をくりぬいた。
   (1)  残りの板の重心の位置を求めよ。
    (2)  くりぬいた円形の穴に,小円板と大きさも厚さも同じで,比重がもとの3倍であるような円板をはめ込むとき,全体
     の重心の位置はどこになるか。
         
問34 半径 r の円が半径 R の円の中心Oから距離 d 離れてくりぬかれている。重心位置を求めよ。
       
問35 図の図形の重心位置を求めよ。
     
問36 質量1[Kg],長さ1[m]の棒ABを天井から2本の軽い糸a,bでつるしたところ,図のようにつり合った。重力加速度の大きさをg [m/s2]とする。
      (1) 糸a,bの張力はそれぞれ何[N]か。
      (2) 棒ABの重心GはA端からいくらのところか。
           
問37 長さL,重さWの一様な棒を右図のように支点A,Bで支えた。棒の右端に力Fを加えたら棒が傾いた。A,Bでの垂直抗力をfNとしてFを求めよ。(99センター追試)
     
問38 垂直の壁に重さW,長さlの均質な棒を水平になるように,水平と角度θ をなしてひもを取り付けて図のように静止させた。ひもの張力T,棒が壁か
       ら受ける抗力Fを求めよ。
     
問39 軽くて長さ l の棒を図のように水平と角度θをなして,ひもを棒と直角になるように天井から取り付け,重さWの小球を棒の右端に取り付けて静止
       させる。壁での抗力 F ,ひもの張力 T を求めよ。(点線はヒント)
   
問40 なめらかな面上に,半径r,重さWの半球を置き,その一端Aに糸をつけて,真上に引き上げる。図のように,断面が水平面となす角度をθ として
      θ=45゚のとき,糸が半球を引く力Tの大きさはであった。半球の重心Gは,断面の中心Oを通り断面に垂直な直線上にある。図のように角度θ
      任意の値であるとき,糸が半球を引く力T,床が半球におよぼす垂直抗力の大きさを求めよ。
     

解答


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