日々の抄

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  誰が異常行動しているのか

2007年03月24日(土)

 ことしは暖冬の影響のためか3月下旬というのに、ほとんどの都道府県でインフルエンザ警戒が出されている。今学期もまもなく終わるのでやがて収束期に入るのだろうか。インフルエンザ香港A、B型に有効とされているタミフルに対する厚労省の対応に変化があまりに頼りない。同時に厚労省のタミフルに対する対応に疑義がある。

 厚労省研究班は昨年11月、約2800人を対象にした調査で「タミフル服用の有無によって異常行動などのあらわれ方に差はない」とし、平成13年2月のタミフル発売以降、厚労省に報告された服用後の患者死亡54例の中には、因果関係が認められるような異常行動のケースはないとしてきた。2月27日、「因果関係が明らかでないと責任ある対応を取ることはできない。専門的な検討はしなければならない」としていた。しかし3月21日未明の発表では、自宅の2階から転落する事故が新たに2件発生したとし,、異常行動が04年度以降、厚生労働省に計15件報告されていたと発表。このうち9件については、初めて明らかにした。輸入販売元の「中外製薬」に対し、添付文書の警告欄に「10歳以上の未成年の患者に、原則として使用を差し控えること」を書き加え、医療関係者に緊急安全性情報を出して注意喚起するよう指示したと発表。事実上、10歳代の使用をほぼ制限する措置とした。
 つづいて、22日、これまで「否定的」としていた服用との因果関係についての見解を事実上白紙撤回した。辻哲夫事務次官は、死亡には至らなかった転落事例などの把握や分析が不十分だったことを認め、徹底調査を表明。「今後の見解が変わる可能性がある。新たに判断し直す」と述べ、方針を大転換させた。死亡事故以外の案件精査がなされてなかったということのようだ。死亡しないと服用との因果関係はないとも言える判断は、恣意的なものを感じざるを得ない。

一連の報道で次のような疑義を持つ。
第一は、厚労省は「独自の判断」で、タミフル服用と関係があると思われる事例をすべて公表してなかったということ。情報の公開がフェアーでなかったという感を否めない。なぜ公開しなかったのか。ここでも恣意的なものを感じる。
 第二は、タミフル服用と異常行動との関係を「学問的に適正に判断」されるべき厚労省研究班の主任研究者の横田俊平横浜市大教授の講座に、タミフル輸入販売元の中外製薬から2006年度までの6年間に計1000万円、同研究班員の森島恒雄・岡山大教授の小児科教室にも600万円を寄付金が渡っていたことである。主任研究者の教授は「寄付が研究結果に影響することはない」と話しているが、「発生頻度は服用の有無で大きな差はない」との結果を出したことに対して疑いを持たれて当然である。そんな発言を素直に聞けるはずがない。人の命が多数失われている事案に少なくとも疑いを持たれるような関係にするべきでない。現にタミフルを服用した患者が死亡しているのだ。確率の問題ではない。何をもって因果関係がないとの結論を出したのかを明らかにすべきではないか。
 第三は、中外製薬に厚労省で医薬品の審査管理などに携わった官僚が天下り、常務執行役員に就任していること。役人の天下りの功罪が叫ばれている昨今、企業にとって利益になることがあるから役人を受け入れていると考えるのが当然だろう。この人事が、タミフル服用による異常行動を公正な情報公開してないことと併せて考えれば「発生頻度は服用の有無で大きな差はない」という結論に全く影響がなかったなどと誰が信じるだろうか。
  第四は、なぜ10歳代だけに服用を制限するのか。現場の医療関係者もその妥当性に疑問を持っていると伝えられている。成人にも異常行動が見られることを考えれば納得しかねる方針である。「10代以上は、親が保護することが難しい場合もあるので、改めて注意喚起した」としているが、成人なら大丈夫なのか、という素朴な疑問にどう答えるのか。
第五に、タミフル服用と異常行動との関係について、「異常行動が目立つ10代の症例が少なかった」としている当初の2800人という対称の中に、異常行動による死者が多数を占める10歳代はどれほどの割合を占めていたのか。なぜ具体的にそれを示さないのか。もし、2800人の中に10歳代が僅少でありながら、「因果関係が明らかでない」などとしているなら、少なくとも科学的な客観性を持った結果とはいえないお粗末な話であり、ここでも恣意的なものを感じる。

 3月21日の深夜の記者会見は、深夜という時間帯を考えると尋常でないものを感じる。「因果関係が明らかでない」としていたものを撤回した厚労省と関係者は事の重大さを感じているのか。かつてあった「薬害エイズ事件」と構図が酷似しているとの指摘もある。国民に不安と疑義を感じさせる厚労省の判断はあまりにも頼りない。人の命に関する行政は「公明正大」、「迅速な判断」にして「安心と信頼」を与えてほしい。厚労省はなぜ国民に疑いと不安を持たせるようなことをするのか。

 早い機会に「10歳代の使用を制限」の方針を出していたら、失わずに済んだ命があったかもしれないことに対して厚労省はどのような責任をとるのか。

 厚労省は自分の子どもが異常行動を起こすかもしれないと思って判断すべし。人の命を大事にすべき厚労省が、命を大事にしない結果につながる行政をしているなら、そんな役所はいらない。

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