日々の抄

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  フェアーとは思えない

2007年06月19日(火)

 23日に会期末を迎える通常国会は、与野党の攻防が最終局面に入っている。参院には多くの重要法案が山積している。いずれも国民生活に密接に関係している切実な問題が多い。
 天下り規制強化の公務員法改正案、自衛隊のイラク派遣を二年延長するイラク特別措置法改正案、教員免許更新制を導入する教育関連三法案、年金記録不備問題に対応する年金時効撤廃特例法案、社会保険庁改革関連法案、然りである。
 これほどの数の法案を、残すところ5日間で成立させることは異常である。国会の会期は予め決まっている。年金問題で、「不安を煽るな」などとして政府が安易に考えてきたことに対する、国民の爆発的な怒り、不安に狼狽えた結果のもたつきが、会期延長につながっていると伝えられている。
 衆院では与党が多数に物言わせての強行採決を繰り返してきた。参院選を意識した「実績作り」には限りない危うさを感じざるを得ない。

 爪に火をともす様に暮らす市井の庶民にとって、窓口が変更にするだけにしか見えない「天下り規制強化の公務員法改正案」は、天下りがなくなることなど考えに入っていない。社保庁の怠慢によって生じた年金未払いの「年金記録不備問題に対応する年金時効撤廃特例法案」など、今更戯けたことを言うな、という気持ちが強い。航空自衛隊が今のこの時も命の危険を感じている活動が具体的にどのようになっているか明らかにされてないのにも関わらず「自衛隊のイラク派遣を二年延長するイラク特別措置法改正案」を多くの国民が危うさを感じていることに、納得できる説明を果たしているとは思えない。教育現場に立つ一人として、どさくさに紛れる感じで「教育関連三法案」が成立されては堪らない。国家百年の計がこんなせっぱ詰まった形で「望ましい国民」を育てることができるというのだろうか。
 まるで、発車ベルが鳴っている電車に無理矢理飛び乗ろうとする姿が与党に見える。それほど急いで電車に乗せようと思っても、国民の中にはゆったりしたローカル列車に乗りたい人も多いことに思いを巡らしてほしいものだ。むしろ、事を急ぎすぎたことによる合理化で取り残され将来に具体的な不安を感じている国民に、政治はどれほど応えているのだろうか。

 選挙投票日が訳の分からない理由で遅くなるかもしれないという時に、納得できないことがある。それは、参院選立候補者についてのマスコミ報道である。つまり、マスコミで顔を知られている人物の立候補者の報道が目立ち、恰も応援しているように見えてならない。
 元女性TVキャスター、拉致被害者担当元参事官、元プロ野球選手、娘をプロゴルファーに仕上げたパパ、マラソンでも名を売った弁護士、元都知事候補者およびその婦人然りである。いずれも政治家としては素人である。同じ素人でも多少なりとも政治に関わる仕事に携わっているならまだしも、「顔」を知られているだけで立候補を勧める政党の気が知れない。これほど国民を愚弄するものはないと思うが、蓋を開ければ、そうした人物が当選するから投票する方も同レベルと言われても致し方あるまい。参院選は人気投票ではない。今までもいろいろな政治に関わっていなかった有名人が議員になってきたが、どれほどの実績を上げてきたのだろうか。私は政治に関わってこなかった単なる有名人を擁立しない政党に好感を持てる。

 そんな中、マスコミにも登場する異色の立候補者もいる。A級戦犯の孫である。その立候補宣言について『「A級戦犯の分祀反対」を訴え、夏の参院選に立候補する意向』(5月8日読売)、『氏は、靖国神社のいわゆるA級戦犯分祀に否定的な立場をとるが、「私が当事者として発言すると、あたかも個人のことを援護しているととらえられる。(選挙では)分祀反対を声高に訴えていくつもりはない、と話した』。(05/16産経)などと報道されている。
 「日本遺族会」は靖国神社に祀られているA級戦犯の「分祀」などに関する勉強会の会合を開いているが、『「分祀論」に対して「天国から神様を引きずり落とすことを意味し、不謹慎だ。全く認められない」と強調した』、『「今の風潮では、日本は諸外国に迷惑をかけた悪い国というイメージを子どもたちが持ってしまう」と語った』など、選挙広報にもなりそうなまでの居丈高な内容まで報道する必要があるのか疑問である。

 有名人だけ取り上げて立候補者を紹介することは、無名ながら真面目に国家を憂え身を挺そうとしている立候補者と比べフェーアーではない。陽の当たることだけを繰り返し報道していることが、かつて危うい国家に傾斜することに報道機関も荷担していたことにつながらないか。マスコミ、特にTV報道の視聴率だけ意識しているような、自己規制も壊れかけているような昨今の報道に限りない危うさを感じて仕方ない。

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