日々の抄

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  人の命と引き替えて何を得るのか

2007年06月28日(木)

 中国製品の食品安全に関わる報道が続いている。日本にも野菜など農作物をはじめとする製品が多量に輸入され、他人事ではない。2002年に中国産ホウレンソウの残留農薬(クロルピリホス、パラチオン、ディルドリンなど)が記憶に新しいが、最近の報道には次のようなものがある。以下の( )内の数字は報道された日である。●印は日本での事例である。
● 養殖鰻の合成抗菌剤マラカイトグリーン(下注*1)検出(2005/8/4)
 輸入時のモニタリング検査で検出され、輸入される中国産養殖鰻およびその加工品の全輸入届出について、マラカイトグリーンの検査を実施。これまでに諸外国において検出事例が報告されていることなどから、在庫品の監視を行うよう各都道府県等に依頼。含有してはならない基準に対して、冷凍食品蒲焼き鰻(養殖)から0.044ppm、0.006ppmがそれぞれ検出された。
○工商総局 水産乾物の品質調査、半数近くが不合格(2006/09/07)
 中国国内で流通している海苔、昆布、乾し海老など水産乾物の品質調査を実施した結果、半数近くが不合格だったと発表。福建省、山東省、広西チワン族自治区、青海省など4つの省レベル行政区内にある15の都市で流通していた200種の水産乾物をサンプル調査し、中国国内の基準に照らした結果、合格品は111種、不合格品は89種、合格率は55.5%だった。海苔や昆布など藻類加工品に関しては、サンプルとして入手した49種の商品のうち、22種で無機砒素の含有量が基準を超えていた。乾し海老や乾し魚など動物性加工品では、61種のサンプルのうち45種で塩分や水分の含有量が基準を超え、89種あった不合格品のうち5種からホルムアルデヒド(下注*2)が検出された。
○スーパーの寿司から大腸菌・カビ、店頭から撤去(2006/09/19)
 浙江省・杭州市の欧米系スーパーマーケットで販売されていた寿司から基準を超える大腸菌やカビが検出。消費者からの通報を受けて立ち入り検査を実施したところ、サンプルの寿司すべてについて、大腸菌、カビ、一般細菌で基準量を上回った。中でもカニ風味のかまぼこを使った寿司からは基準の23倍のカビが検出。
○上海ガニから発ガン性物質(2006/10/19)
 2006年9月1日〜10月12日までに台湾への上海ガニの出荷は514件あり、台湾の衛生当局は16日にニトロフラン(下注*3)代謝物が検出されたサンプルがあったと発表。
○パナマにおける謎の疾病 原因はジエチレングリコール(2006/11/28)
 2006年9月以降、パナマで多数の死者が出た謎の疾病が発生。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、パナマ社会保障機関(政府機関)が製造した無糖咳止め・抗アレルギーシロップ剤に混入された中国製のジエチレングリコール(下注*4)が原因であったことを突き止めた。これに対して中国の国家品質監督検査検疫総局は2007年5月31日、調査結果を発表。いずれも毒性のあるジエチレングリコールが含まれていたことを認めたが、「輸出企業は薬として使われるという認識はなく、偽造薬として販売したパナマの業者に責任がある」と釈明。北京の貿易会社が2003年夏、15%のジエチレングリコールが含まれた「工業用グリセリン」をスペインの貿易会社に輸出。この際、スペイン側には医薬品に使用できないことを説明したというが、さらにパナマに輸出され、同国の業者が「薬用純正グリセリン」と改ざんして販売。これが風邪薬に使われ、100人が死亡。
○ 野菜や果物の缶詰で、不合格率95%超(2007/01/08)
 国家品質監督検験検疫総局(AQSAQ、質検総局)の果実を使った氷菓や、農産品の缶詰、茶葉の品質の調査結果を発表によると、氷菓の不合格率は20%、缶詰は95%、茶葉は30%だった。果実を使った氷菓では、北京市など8の省レベル行政区域で、サンプル調査での34社35種の製品分析では、不合格率は20%だった。甘味料の含有が基準を上回る例が多かった。
 野菜や果物など農産品の缶詰では、不合格率が95.7%だった。二酸化硫黄の含有量が基準を上回る例が多く、漂白剤として二酸化硫黄や亜硫酸塩を基準以上に添加したとみられている。
 茶葉の34社35種の製品を分析での不合格率は30%。DDT(下注*5)、ジコホール(下注*5)、鉛の含有量が基準を上回る例が多かった。
○ 工業用染料使った牛肉100トンを押収(2007/02/15)
 江蘇省南京市品質技術監督局は14日、市内栖霞区の牛肉加工工場地帯で大量の工業用赤色染料と、これらを使用した加工過程の牛肉100トンあまりを押収。この一帯には大小の牛肉惣菜製造工場20カ所があり、肉を色鮮やかに見せるために工業用染料を加えたり、柔らかくするために食品添加物として認められていない成分を使うことが恒常的に行われていた。2005年、中国各地で販売されていたチリオイルや北京市内のケンタッキーフライドチキンの製品の一部から発がん性が指摘される工業用赤色染料のスーダンレッドが検出され、社会不安をあおる騒ぎがあった。南京で押収された染料もスーダンレッドと類似のものとみられている。
○ 「ニセモノの塩」が氾濫(2007年3月23日)
 昨年来、広東省では低価格の偽物の食塩が食品市場に氾濫。食塩を扱う商店の90%以上で偽塩を販売しており、本物の食塩を買い求めるのが難しい状況にある。偽塩の正体は製塩工場の廃液からつくった不純な塩や、化学工業原料である「亜硝酸塩」(下注*6)などを含む「工業塩」である。
中国の塩の生産量は世界第2位で世界全体の生産量の18%を占め、2004年の塩の生産量は4300万トンで、海塩が約60%、岩塩が約30%、湖塩が約10%であるという。その中国で「偽塩」が作られるのは、本物の食塩の約1/9という安価にある。
 岩塩にはヨードが含まれない。中国では多くの地域で水や土壌にヨードが含まれておらず、全国的に「ヨード欠乏症」の患者が大量に発生。ヨードが欠乏すると、子供は脳の発達が阻害。成人は甲状腺機能低下による甲状腺腫を罹る。中国では1996年に「食塩にヨードを添加する法律」の施行により食塩にヨードを添加することが義務づけられている。したがってヨードを含まない偽塩を長期間にわたって摂取すればヨード欠乏症に罹る可能性も極めて高い。
○ 米でペットフード禍(2007/05/05)
 3月に米国内で販売された中国産の小麦粉を原料とするペットフードを食べたネコや犬が相次いで死亡したが、そのペットフードから有機化合物が検出され、鶏や豚の飼料にまで流用されていたことがわかり、食品への影響も懸念され始めた。
 問題となったのは、中国産の小麦グルテンや米タンパク質濃縮物を原料にカナダのメーカーが製造したペットフードで、食べたネコや犬が腎臓疾患で相次いで死亡。
 合成樹脂の材料となる有機化合物メラミン(下注*7)が大量に混入していたことが判明し、中国からの輸入を禁止。ペットフードの一部はカリフォルニアやニューヨークなど7州の養豚場に飼料として運び込まれ、少なくとも約6000頭に食べさせていたことが4月下旬に判明。インディアナ州の養鶏場で同じペットフードを与えられていた約300万羽の鶏が食肉用として市場に出されていたことも分かった。
 メラミンが混入した飼料を食べた大量の豚や鶏が市場に出回っていたことについて、関係者は、飼料の大部分は米国産のトウモロコシや大豆で「ごく少ないペットフードが使われただけで、われわれのチキンは安全だ」と訴えているが、食の安全は確率の問題ではなかろう。
● 土鍋から鉛(2007/5/25)
 札幌市で本年1月、市内で購入した中国製土鍋を使用中、鍋の縁から鉛が溶け出していたことが判明。この土鍋を使って2時間ほど水炊きしたところ、鍋の縁から銀色の液体が溶け出しているのに気づいたという。消費生活センターでも鉛が溶け出すのを確認。鉛は食品衛生法が定める基準値(2.5mg/リットル)を下回る1.8mgム/リットルだった。土鍋の縁に塗られた上薬から鉛が溶け出した可能性が高いという。
○ 練り歯磨きに致死量の毒物(2007/5/25)
 5月23日、アメリカ食品医薬品局は中国産の練り歯磨きからジエチレングリコールが発見されたとして、全面的な調査を開始した。製造元の会社は、中国では練り歯磨きに少量のジエチレングリコールを使用することは合法であり、安全だとコメントしているという。
○ ラーメン、牛乳、米などの汚染食品(2007/05/27)
 5月上旬、モンゴルのウランバートルで中国製即席ラーメンを食べた学生2人が中毒死したと地元紙で報じられた。因果関係は証明されていないものの、そのラーメンが、俗に「下水溝油」と呼ばれる質の悪い油で作られた可能性が指摘された。中国では、食品工場などの油を含んだ下水を再加工して作った「下水溝油」を利用した偽即席ラーメンが本物そっくりのパッケージで格安で市場に出回り、ときどき農村で食中毒事件が報道されてきた。
 また、直接抗生物質を混入した牛乳が問題視されている。「中国では雑菌処理のために牛乳タンクに抗生物質を加えるケースもある」という。病気治療のため抗生物質を乳牛に投与したあとに絞った牛乳には抗生物質が残留するが、そのまま売られることも日常的という。牧草と徹底した衛生管理で飼育された乳牛もいるが、こうした安全な牛乳と抗生物質が残留している「有抗乳」との値段の差は実に6〜7倍という。
 同じ問題はコメにもある。発がん性のあるカビがはえた古米は市場流通を禁止されているが、「民工米」と呼ばれ米が安価に販売されている。貧乏人はこうした米を、富裕層は日本産コシヒカリなど高級米を口にするという。貧しき者は命も軽んじられているのか。
○ しょうがなど不合格(2007/06/11)
 国家質検総局は10日、ドライ・フルーツ、くらげ、漬物、唐辛子、食用きのこ、食塩などの食品6種類の抜き取り検査を行い、興旺食品の「一堂香」銘柄の台湾しょうがを含む7種類が不合格だったと発表。各食品の合格率は、食用きのこ78%、食塩98%、くらげ78.9%。漬物は、サッカリンナトリウム、安息酸の含有、大腸菌が検出、規準量を超える防腐剤の使用などが理由である。
○ 不正な医薬品(2007/6/19)
 5月29日、北京市南部にある民間病院内で、ニセ薬工場が摘発された。蛾が舞うカビ臭い地下室から作られる製品は、肝炎から精神疾患まで治すという「秘方薬」という。中国産の医薬品や食品の安全性については、日本では2002年に、ダイエット食品による肝機能障害が問題化して以後、疑問視されていたが、影響は世界的規模に及んでいる。
 中国でも、広州市内で注射液が原因で13人死亡(2006年5月)、安徽省の製薬会社の注射液で十数人が死亡(同年)などニセ薬の死亡事件が相次いでいるという。
 2006年の摘発は、食の安全に関するものだけで約68,000件。各種の模造品製造、有毒物質を混入させた容疑などによるものと見られ、偽物などの製造、販売拠点は約5,900所も発覚している。
● ピーマンから基準値超える農薬検出(2007/6/20)
 中国産ピーマン(パプリカを含む)から基準値を超える残留農薬「ピリメタニル」が検出されたと発表した。食品衛生法に基づき、全輸入業者に検査命令を出し、基準を満たさなければ流通させないよう求めた。この農薬は殺虫剤の一種。厚労省は直ちに健康に影響を与える恐れはないとしている。ピーマンの残留農薬の基準値は0.01ppmだが、1月18日に東京検疫所で0.04ppm、今月11日に神戸検疫所で0.02ppmが検出されたという。
○ 粉ミルクの4割近くが不合格(2001/06/20)
 国家品質検査局が北京、天津、南京等6つの都市で、29の取次ぎ販売店と、42のメーカーから、合計45の商品が、粉ミルクの抜き取り調査を行った。その内30の商品が合格し、その合格率は66.7%であった。栄養成分、衛生管理、パッケージ等に関する合計43項目を検査対象としたが、国内大型メーカー11社の12種類の商品は、全て基準を満たしており、合格率100%。ネッスルなど、輸入商品や外資系企業の商品は、検査対象の9つの内、合格した商品は8つ、合格率は88.9%。調査結果によれば、有名ブランドの商品、海外からの輸入商品の一部が、その品質の高さで市場シェアの主要部分を占めている。しかし、一部の中小企業は材料をごまかす、まぜものをする、など粗製濫造の商品で不法な利益をあげ、粉ミルク業界のルールを乱しているという。
● 毒性中国歯磨き150万本(2007/6/21)
 大阪市内の化粧品製造販売業が、中国から輸入、販売した練り歯磨きから、毒性のあるジエチレングリコールが検出された。厚労省によると、中国製練り歯磨きからジエチレングリコールが検出されたのは国内4件目。昨年5月~今月初旬に全国7000か所の旅館、ビジネスホテルに計約150万8800本を出荷し。最大値で0.86%のジエチレングリコールが検出されている。

食品以外では、
○ 中国製縫いぐるみに産廃 有害雑菌、繁殖の恐れ(2007/5/29)
 中国河北省の複数の工場が産業廃棄物を詰めた縫いぐるみを製造、販売していることが判明。縫いぐるみには、紡績工場から横流しされた未消毒のカーペットの切れ端や綿毛、紙くず、インスタントめんの袋などが詰められている。接着部分が弱く、縫いぐるみの内部が出やすいという。縫いぐるみの中で有害な雑菌が繁殖し、健康に悪影響を与える可能性もあるという。
○ 使い捨て食器半数に問題、催奇性・発がん性も(2007/06/22)
 国家品質監督検験検疫総局(質検総局)はこのほど、使い捨て食器の半数以上で品質が不合格だったとの調査結果を発表した。
 特に問題が深刻なのはプラスチック製の弁当箱、椀やトレーで、原料に廃棄プラスチックが使われていたり、薬品が添加されているために、熱い食品や油を入れた際に有害物質が溶け出し、急性あるいは慢性中毒の原因になるという。胎児に奇形を生じさせる催奇性物質や発がん性物質も指摘された。

 私も今は規制されている製品に覚えがある。DDT、BHC、チクロ、サッカリンなどである。小学校で蚤、虱退治のために一列に並ばされて頭が真っ白になるほどDDTをかけられた。砂糖がわりに少量で甘さが強く安価なサッカリンをしこたまかけて食べた。いずれも現在は使用禁止である。
 現在の中国では食の安全より経済的利益が優先しているようだ。食の安全に対する理解が十分でないだけなのか。貧しいが故に安価な食物を口にしていわれなき被害を受けていることは悲しい現実である。かつての中国にこんな事があったのだろうか。人の命より金銭が優先している社会はいずれ破綻の日を迎えるに違いない。日本にいて中国製品を手にしなければ安全と考えればよさそうだが、そうも言っていられないこともある。食品だけでなく衣料品、家電製品も中国製品が満ちあふれている。中国の食品輸出額は毎年20億ドル(2430億円)に上る。加工食品全般で防腐剤などに用いられるアスコルビン酸生産量は世界の80%は中国が占めているという。安価だから物を買う時代ではなくなっているようだ。知らぬ間に鳥インフルエンザの影響を受けた食物を口にしない保証はない。米国へ輸入された鶏肉が入った木箱には「ユリの花・乾燥」「プルーン・スライス」などと偽のラベルが貼られていたこともあると伝えられている。

 中国は食の安全に無頓着だ、などと考えていたら、なんと日本でも牛肉以外の豚、鳥肉などの混入したコロッケが20年も前から流通していたことが発覚し愕然とした。他社の賞味期限切れの製品を引き取ってラベルを貼り替えて販売したり、肉を新鮮に見せるために血液や水を混入していたという。食肉偽装が行われているのは北海道の一社だけなのか。大いに疑問である。8月には全国に亘る調査結果が発表されるというが、中国に負けないほどの偽装が発表されないことを祈るのみである。

 「バレなければ、何をしても構わぬ。バレたら開き直ればいい」という現実をまた見せつけられた。他人の健康、命を犠牲にしてまで得た金銭をいったい何に使おうというのか。金銭は人間の大事なものを失わせるようだ。
 こうなったら、何を食べても壊れない体を作らないと生きていけそうにない気がしてならない。
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(*1) マラカイトグリーン
 緑色の合成色素で、繊維等の染色、観賞魚の水カビ病の治療などに使用されているが、養殖水産動物への使用は禁止されている
(*2)ホルムアルデヒド
 刺激臭のある無色の気体。合成樹脂原料、繊維加工、殺菌剤、防腐剤に利用される。水溶液にしたものがホルマリン(商品名)である。WHOや厚労省により 0.08 ppm の指針値が設けられている。WHOの下部機関である国際がん研究機関により発癌性があると警告されている。
(*3) ニトロフラン系化学物質
 かつて殺菌剤として使われてきたが、発ガン性が指摘されたため使用を禁じている国もある。
(*4)ジエチレングリコール
 腎臓や中枢神経に悪影響を及ぼす有毒物質で、過去多くの死亡事故が起きている。水溶性の無色無臭の吸湿性液体で、甘味がある。医薬品原料、食品添加物としての使用が認められている国はない。工業用溶剤、ブレーキ液、不凍液、燃料添加剤などさまざまな用途に用いらる。中毒例の多くは経口摂取によるものであり、中毒症状は吐き気、嘔吐、頭痛、下痢、腹痛で、大量のジエチレングリコールに暴露されると腎臓、心臓、神経系に影響を及ぼし、経口致死量(LD50)は1000mg/kg体重。
(*5) DDT、ジコホール
 日本でも安価で殺虫効果も高いことから盛んに使われたが、現在は使用、製造、輸入の全てが禁止されている。ジコホールはケルセンとも呼ばれる害虫駆除農薬だが、日本では2004/3/19に農薬登録が失効し、用いられなくなった。
(*6) 亜硝酸塩
 白色不透明な結晶体で食塩に酷似し、水溶性で0.2〜0.3g摂取で中毒、3gが致死量。偽塩には生産過程が不衛生で重金属などの有毒な化学物質が含まれ、長期間にわたって摂取すると慢性中毒をもたらし、発ガン性もある。
(*7) メラミン
 無水の結晶で熱水に可溶。殺虫剤や樹脂に使われる。タンパク質の水準を高く見せかける効果があり、飼料価格を左右するタンパク質含有量を水増しするため、家禽の一大産地の山東省では、メラミンを混ぜた飼料が広く流通しているという。

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