日々の抄

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  信頼できる安全を作ってほしい

2007年07月24日(火)

 3年前の新潟中越地震が記憶に新しい中、中越沖地震が16日午前10時13分ごろ起こった。今回の地震で11名の命が失われたが、犠牲者の多くは高齢者だった。前回の地震の傷が癒えないまま、特に古い木造家屋の耐震対策が叫ばれていたものの、耐震調査も経済的負担がかかり、耐震対策には高額な個人負担をしなければならないため、犠牲者を出してしまった。個人で負担できないものは、犠牲者が出る前に経済的負担を行政が考えていれば、犠牲者を出さずに済んだかもしないことは、今後の大きな課題である。

 今回の中越沖地震でいまだ2000人を超える人が自宅に帰ることも今後の復旧もままならない中、最も問題視しなければならないのは柏崎刈羽原発が甚大な被害を受け、原発の安全が揺らいだことである。地震発生後の問題は以下の通りである。
1.地震直後3号機変圧器で発生した火災の初期消火ができなかったこと
 東電HPには『10:15 所内変圧器3B 火災発生確認 12:10 鎮火』とあるが、同原発内職員による消火ができなかった。原発の自衛消防隊は自治体消防が到着するまでの間、初期消火に当たることになっている。だが実際には鎮火までの2時間、機能しなかった。原発職員4人が消防が到着する前に、つないだ屋外消火栓のホースが4本あったが、うち水が出たのはわずか2本。水はボトボトと1メートルほど先でこぼれる勢いしかなく、消火にはほど遠く、職員4人は物陰に隠れ傍観していたという。
 火災発生時、柏崎市消防署当直の17人は地震の対応に追われ、原発に向かうことができたのは、非番で同本部に駆けつけた隊員5人。防火服をかぶり線量計を首にかけて、化学消防車で飛び出した。今年に入り同原発内で少なくとも3回火災があったという。ヘリコプターからの実況中継で火災の黒煙をTVで目の当たりにし、なぜすぐに消火できないのか疑問に思った人は多かったのではないか。原発内の火災が所内で消火できないことなど考えもつかないことで、原発以前の「安全対策」が問われる。柏崎市長が18日、発電所内の危険物施設について、消防法に基づく緊急使用停止命令を同社に出したのは当然の処置である。同原発には油火災に対応できる化学消防車は未配備で、電話がつながらず、自衛消防隊も招集できなかったなど、ずさんな防災態勢が露呈しており大きな課題を残した。

2.排気筒から放射性物質が放出した
 同社が放射能漏れを確認したのは16日午後6時20分ごろ。だが公表したのは午後10時すぎで、しかも、同社が午後8時すぎに地元報道機関にファクスで送った広報文では「外部への放射能の影響はありません」とし、公表に時間がかかった理由を「ほかの水などの分析作業を優先させたため時間を要した」、「現場との間で細かな情報のやり取りに時間が必要だったとした」としている。
 7号機で、17日に放射性物質の放出が見つかったあと、排気設備の稼動を止めなかったため、さらに放出が続いていたと発表があった。これまで7号機の排気設備から出た放射線の量は、ヨウ素が 2×10-7 ミリシーベルト、クロム51とコバルト60が 7×10-10 ミリシーベルトで、17日時点の約2倍に達した。東電は「自然界から1年に受ける放射線量 2.4 ミリシーベルトと比較しても十分低い値」と説明している。検出可能なヨウ素131(半減期、8.04日)、ヨウ素133(同、20.8時間)の存在比はどの程度なのか。放射性ヨウ素はほとんどすべてが甲状腺に集まる健康影響の大きい放射能であり、微量だから全く問題と安心することはできないのではないか。
 同社は、16日の地震発生時後、原子炉の自動停止に合わせて止めるはずだった蒸気排風機を、18日午前11時近くまで稼動させていた。このため発電タービンを回した蒸気を冷やして水に戻す「復水器」にたまっていた放射性物質が吸い出され、外部に放出される状態が続いた。原子炉停止で手動で止めるべき機器が動いたままになっており、操作手順の誤りと機器の故障が重なって起きたと説明されているが、こうしたことの日常的な訓練はなされていないのだろうか。地震前に動いていた2〜4号機は自動停止直後に止めていたという。

3.放射性物質が入ったドラム缶400本が転倒、内40本のフタが外れた
 転倒したドラム缶から水が漏えいしていることが確認されている。漏えい量は16 リットル、床の一部から1平方センチあたり 0.5 ベクレルの放射性物質が検出された。廃棄物はポリ袋に入っていて外には出ないといっているが、ポリ袋が簡単に破れる事を考えると、低レベル放射性廃棄物の一部が空中に舞い、そのごく一部が外に放出されること、床の表面を汚染することはないのか。ドラム缶は全部で2万2000本あるが、そのうちの相当数の状況が未確認で、今後、転倒数は増える可能性がある。ドラム缶の転倒防止策は十分なのだろうか。

4.放射性物質を含む漏水があった
 同原子炉7基の内、1、5,6機は定期点検中のため休止中だったが、全ての原子炉建屋オペフロで水溜りが確認され、多数の破損箇所が確認されている。6号機原子炉建屋内3階、中3階の非管理区域に漏えいが確認。微量の放射能を確認されている。漏えい水が放水口経由で海へ放出。放出量は約 1.2m3、放射線量約9×104 ベクレルで海水モニタに変化なしという。この値は当初放射能量約 6×104 ベクレルと報道されたが係員の転記ミスとして18日訂正された。重大な数値を公表するのに事前のチェックがないのは不思議だ。

5.地震観測データの一部を消失した
 同社は19日、柏崎刈羽原発で記録した地震観測データを公開したが、97台ある地震計のうち旧型の63台で、本震データが消失していたことも明らかにした。通信回線が混雑しため、本震データを東京のサーバーに転送する前に、地震計内部で余震データに書き換わってしまったという。3月の能登半島地震の際も北陸電力の志賀原発で同様の事象が発生していたため、同社では2008年度までにすべての地震計を新型に更新する予定だったという。想定を超える揺れのデータの一部が欠けたことで、安全性の解析に影響が出ることも考えられる。
 同社によると、失われたのは全7基の原発のうち、1,5,6号機にある地震計の波形データの大半だ。原発の重要機器や建物がどのように揺れたかを解析する上で必要だが、地震発生から最大で1時間半のデータが消えた。ただ解析で重要とされる最下階の地震計のデータは全基とも残っていたという。
 地震が起こった16日、東京の本店にデータを送るための電話回線がつながらず、余震が多発したことでデータをためる記憶装置が満杯になり、はじめ記録されたデータの上に、後で起きた地震のデータが上書きされたという。

地震発生以前の重大な問題は、原発設計条件の根本が適切でなかったことである。
 今回の地震で特に深刻な問題を突きつけられたのは、柏崎刈羽原発の至近距離に震源があったことである。『原発建設は直下に活断層がない』ことを大前提とし、同原発は『未知の断層が直下にあったとしてもM6.5程度までの地震しか起こさないとの想定』で設計されていた。その両方が設計の前提を覆されている。
 活断層に対する調査に対して同社は同原発の耐震評価で、79、80、85年に海域調査をした。79年に原発から北西約19キロの沖合に長さ約7キロの海底断層を見つけたが、活断層ではないと判断し、設計時の耐震評価から外していた。昨年9月に耐震指針が28年ぶりに改定されたのを受けて、経済産業省原子力安全・保安院は原発から半径30キロほどの範囲について、文献やトレンチ調査、物理探査などに基づく耐震再評価を各原発に求めた。
 同社は昨年10月〜今年4月、同原発周辺の地質再調査を実施。陸域では人工的な振動を起こして地下を調べるなどしたが、海底断層については他の研究機関のデータを考慮すれば十分として、改めて調査べなかった。
 同社のHPによると『原子力発電所は活断層の上には建てていません。原子力発電所の建設用地を決める際には、設置予定地のボーリング調査・周辺の地質調査・過去の文献調査などと行い、直下に地震の原因となる活断層がないことを確認しています。地震が起こると地震波が岩盤を伝わり、堆積したやわらかい地盤で揺れが増幅され、地表では大きな揺れが増幅され、地表では大きな揺れとなってしばしば大きな被害をもたらします。原子力発電所の重要な機器・建物等は、表層のやわらかい地盤を取り除き、地震による揺れが小さい堅い岩盤の上に直接固定して建設しています。岩盤上の揺れは、新しい年代のやわらかい地盤の揺れに比べ1/2から1/3程度になることがわかっています。
 揺れが少ない強固な岩盤上に建てています。柏崎刈羽原子力発電所の場合、原子炉建屋基礎に設置された地震感知器が水平方向120ガル、垂直方向100ガルの揺れを感知すると、原子炉を自動的に停止するしくみになっています。2004年10月23日に発生した新潟県中越地震において、(独)防災科学研究所柏崎観測地点の地表面での揺れの最大値は約144ガル(水平)でしたが、震源地からほぼ同方向・同位置にある柏崎刈羽原子力発電所5号機原子炉建屋基礎で計測した最大値は約54ガル(水平)でした。』
とあるが、今回の地震ではそのときの8.2倍もの加速度が測定されていることになり、HP上のこの内容は直ちに改められるべきものである。同社も「余震分布をみて、断層が原発の直下にあることを認識した」と認めた。
 今回の地震での加速度の測定値と設計値の比較は同社のHPによると(単位はガル=gal=cm/s2)以下の通り。括弧内数値は設計値
1号機 南北方向311(274)、東西方向680(273)、2号機 南北方向304(167)、東西方向606(167)
3号機 南北方向308(192)、東西方向384(193)、4号機 南北方向310(193)、東西方向492(194)
5号機 南北方向277(249)、東西方向442(254)、6号機 南北方向271(263)、東西方向322(263)
7号機 南北方向267(263)、東西方向356(263)
上下方向については1号機408(235)、5号機205(235)、488(235)
 これは明らかに設計時の加速度設定値が誤っていたことを示している。最も大きな違いは2号機の東西方向で2.6倍もの値を示している。

液状化現象、津波の対策はどうなのか
 同原発周辺で液化現象があちこちに見られ、同原発内でも電柱が海側に地震後傾斜していることが確かめられている。強固な岩盤の上に建てられても、地表周辺で液化現象が生じれば、原発そのものだけでなく周辺の施設、設備の破壊につながり、火災の原因にもつながることが考えられるが、これに対する対策はどのようなものなのだろうか。また、今回は問題にならなかった津波が生じた場合の対策は十分なのだろうか。

 柏崎刈羽原発ではかつて「機器を正しく整備したうえで原子炉を起動するという原則から逸脱していた行為」、「虚偽の数値報告」、「放射能の測定値を改ざん」などの不正があった(拙HP2007年02月02日「命に関わる偽装だ」を参照されたし)。そうしたことを考えると、今回の放射性ヨウ素の濃度、放射線量を信じていいものどうか。
 原子力発電がいかに地球温暖化対策に適したエネルギー源だといっても、地震による不測の破壊により、核被害が出れば国を滅ぼすことにつながりかねない。原発が操業できる大前提は「安全」である。その為には、東電が国民に対して安心できる情報開示、想定外のない安全対策を実行していくことが不可欠である。原発に関しては関係する電力会社を丸飲みで信用することなく、行政が監視し続けることが求められているのではないか。次々に起こる「安全に関わる不手際」を見ていると、原子力保安院の厳正な監視を望みたい。

 国際原子力機関(IAEA)が調査に入る意向を示したことに対し、当初政府は「余裕ない」と断わっていたが、受け入れることになった。「原発が経験したかつてない大きな地震に見舞われた貴重な事例として、情報を世界に発信することが必要」であることは当然だろう。
 炉心点検が9月にずれ込む見込みと伝えられているが、「今回はヨウ素が大気中に放出されており、炉心内部にある燃料棒の破損が想定される。配管のひびや、制御系回りのトラブルが発見される恐れもある」との専門家の指摘もある。十分に安全が確認できない限り柏崎刈羽原発の操業は再開すべきではない。

 不自由で不安な生活をしている被災者に対し、心ない、お話にならないことが起こっている。
 21日夜にあった参院選比例区候補の演説会で、応援演説した地元選出の県議が、中越沖地震の命名に触れ、「初め『上中越沖地震』になりそうだった。中越に地震のイメージを一身に背負っていただくネーミングになったことで、ほっとしている。中越に泥をかぶっていただく」などという信じられない発言があった。ご当人は「本当に失礼な発言をした。心を入れ替え、一日も早い復興に尽くしていく」と語っているようだが、いくら陳謝しても発した言葉は消えない。自分さえよければいいという典型であり、こういう人物が議員でいることは妥当なのだろうか。
 また、2日午前10時ごろ、被災者の避難場所になっている柏崎市立柏崎小学校に「これから爆弾を仕掛ける」と、男の声で電話があった。こうした困った人を後ろから突き倒すようなことをする人間がいることは悲しい。

 今回の原発事故を考えると、他国からの核攻撃より自国内の核を心配した方が現実的かもしれない。

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