日々の抄

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  記載ミスといえば済むのか

2007年09月07日(金)

 政治と金が問題視されている中,次々に不明瞭な「事務処理」が明らかになっている。現在までに報道されているそのいくつかを列挙してみる。

□二階総務会長
 二階氏が代表を務める自民党和歌山県第三選挙区支部が、支援者から無償提供された事務所について政治資金収支報告書に記載していなかったことが判明。県選管に訂正の手続きをしている。地元の同県御坊市にある事務所によると、同支部の事務所6カ所のうち、4カ所は04年から3年間、支援者から無償で提供されているという。政治資金規正法では、事務所の無償提供は、寄付として家賃分を収支報告書に記載する必要があるが、いずれも記載していなかった。二階氏の秘書は「無償提供は収支報告に出す必要がないと思っていた。訂正の手続き中なので、金額は言えない」と話しているという。
□額賀財務大臣
 額賀氏が支部長を務める地元「自民党茨城県第2選挙区支部」の茨城県行方市内にある事務所の建物が,新築以来登記されていなかったと指摘された。これに対し額賀氏は「第2選挙区支部というのは法人格を持っておりません。従って上物は登記できません。私が登記をすると、個人財産になりかねなくて、無用の誤解を与えるということで、登記をしておりません。私の問題は現時点においては、何ら法律的な問題はありません」としている一方で、事務所の土地の借地料や固定資産税は毎年支払っているとも強調している。
□玉沢元農水大臣
 玉沢氏が支部長を務める自民党岩手県第4選挙区支部が、03年分の政治資金収支報告書に添付した領収書のコピーを改ざんし、多重計上していたことが29日判明。領収書の日付などを書き換え、通し番号が同じものを5枚提出したケースもあった。領収書は盛岡市内の印刷業者が発行し,通し番号が同じ領収書が3種類10枚あり、合計で377万5000円になる。玉沢氏は「担当者に確認して事実を知った。県民に申し訳ない。報告書を訂正したい」と話している。9月3日、問題の責任を取り、離党届を提出したことを明らかにしている。
□荻原経済政務官
 29日、自宅の電気代8万8657円を、自ら代表を務める「自民党東京都参議院比例区第32支部」の光熱水費に計上していたとして、支部の05年分の政治資金収支報告書を訂正する届け出を総務省に提出。荻原事務所は「全くの事務的なミス」「05年7月から都内のマンションを借りた際、当初は支部の事務所にすることを検討していたため、電気代を支部の口座から引き落とす手続きをとった。しかし、結局は自宅として使い、収支報告書を作る際、支部の通帳に引き落としの記載があったため、支部の光熱水費に計上した」と説明し,支部が一時的に立て替えた形に訂正し、29日付で荻原氏個人から支部に返金したという。
□遠藤農水大臣
 遠藤氏が組合長理事を務めていた置賜農業共済組合(山形県米沢市)は三年前に農業共済の加入者を水増しするなどの手口で、農業災害補償法に基づく掛け金約115万円を,農家の名前を勝手に使い、加入者を水増しして国から不正受給していた。会計検査院が平成16年に指摘していたが、3年後の今も未返還のままだった。自民党内には「閣僚が、会社や共済組合の役員を兼務しない」という申し合わせ事項があるが遠藤氏は共済組合の組合長理事を辞めなかった。
 遠藤氏は当初「大変な不祥事に違いない。国民に申し訳ない」、「大臣を受けた以上、最大限努力したい」「大臣を辞めてさらに問題を大きくすることはない」などと、農相を辞任しない考えを強調していた。不正受給を追及されると、「私は実務にタッチしていない」「山形県と会計検査院の指示を待っていた」「私から検査院に何かしようがあるんですか」と逆ギレ状態だったが,組合長については辞任する意向という。
 大臣就任に際し、「正直なところ、思い寄らなかった」と述べているが,国を相手に、税金をだまし取る詐欺行為が所轄の大臣が農政そのものにかかわる不正を行われたことは罪深い。遠藤氏は3日辞任することになり,農相としては在任期間は8日間だけだった
□坂本外務政務官
 政治活動費の多重計上をし,使い回しした領収書の元となる会議自体が架空のものだった。「改ざんした領収書を用いて政治資金収支状況を報告することはあってはならないことで、深くおわび申し上げる」としている。同時に,04年に自らが代表を務める自民党支部が、約15万5000円の領収書を印刷費と広報宣伝費として2重添付した。05年に後援会が実際には発注していない印刷代約8万6000円を広報宣伝費として計上していたことも明らかにしている。坂本氏は、一連の不適切な処理について事務所職員の引き継ぎミスなどが原因と説明。「事務所の指導に不十分な点があった」としている。坂本氏は3日外務政務官を辞任した。
□岩城官房副長官
 岩城氏が代表を務める自民党福島県参議院選挙区第1支部が、05年に開いた政治資金パーティー券の収入50万円分を削除し、同額が岩城氏の資金管理団体「光と風のフォーラム」に寄付されていたとする政治資金収支報告書の訂正を今年2月、福島県選挙管理委員会に届け出ていたことが分かった。同支部の05年分収支報告書には、同年11月に東京都渋谷区の会社が購入した「岩城光英さんを励ます会」のパーティー券50万円分を収入に記載していたが、同社側から同フォーラムへの寄付だったとして、今年2月7日、訂正を出した。同時に、同支部と同フォーラムの各支出額も訂正し、支部の事務所費を50万円減額、フォーラムの事務所費を同額増額した。同社側から「所得控除の証明書が欲しい」との依頼があり、担当者は個人献金のつもりだったと理解して訂正したと説明している。
 政治資金規正法では、個人が政治活動に関する寄付をした場合、所得控除の対象になるなど優遇措置を受けられるが、パーティー券購入は対象にならないという。
□石原伸晃政調会長
 石原氏が代表を務める「自民党東京都第8選挙区支部」が、03年分の政治資金収支報告書に、講演会の会場使用料を実際の10倍の68万円と記載していたことが分かった。事務所側は8月31日に都選管に訂正を届け出た。石原事務所の担当者は「単純な転記ミスであり、申し訳ない」と説明している。
□鴨下一郎環境相
 資金管理団体の00年以降の政治資金収支報告書に、96年時点で鴨下氏本人から1000万円を借り入れたと記載されていたが、同年の収支報告書には借入金として200万円しか記載されていなかったことが5日、判明した。鴨下氏の事務所は「当時の資料がなく経緯の詳細は不明。数字が食い違っており、記載ミスと考えている」と説明、東京都選挙管理委員会に収支報告書の訂正を申し出る予定だという。
 鴨下事務所の説明では「00年以降の収支報告書には、96年8月に1000万円、97年7月に1000万円、98年3月に300万円をそれぞれ鴨下氏本人からの借り入れたと記載され、05年現在の残高は2300万円となっている」「しかし、96年の収支報告書には、借入金として200万円が記載されただけだった。97年の報告書には新規借入額が1000万円、残高が1000万円と記載。98年の報告書には新規借入額が300万円、残高が2300万円と記載されていた」としている。鴨下氏が公開した資産等報告書では、貸付金残高は00年6月時点で820万円、それ以降の公表分はゼロとなっており、資金管理団体の収支報告書とは食い違いを見せている。
□若林農水相
 若林氏は就任当初,「農林漁業関係の諸団体をはじめすべての業界の役職に就いておりません」としていた。ところが,若林氏の政治団体の代表に、農水省の補助金の交付を受けている団体のトップが就任しているおり,この代表者個人が若林氏の政治団体に献金をしたり、代表者が役員だった団体がパーティー券を購入したりしていたことが判明。補助金を出す側の大臣が受給側から資金提供を受けていたことについて、若林氏の事務所は「不適切との指摘があれば、大臣在任中は献金の辞退を検討したい」としている。農水省関連の補助金をめぐっては、遠藤武彦前農水相の政治団体が、農水省所管の独立行政法人の補助金を受けた団体から5万円の献金を受けていたことが明らかになり,遠藤氏側は「不適切だった」として献金を返還し、政治資金収支報告書を訂正している。
 若林氏の政治団体の代表者は元水産庁長官で,同氏が農水省所管の財団法人「魚価安定基金」の理事長を務めていた02〜04年ごろ、基金の経費から東京正風会の2万円のパーティー券を年に1枚程度購入していたという。基金は農水省の水産物価格安定制度の補助金として06年度に16億円余、07年度には14億円を受給しているという。同氏は農水省所管の「全国遊漁船業協会」の会長も務めており、同協会は農水省から釣り人の安全のためのPR費用などとして05年度に1700万円、07年度に1900万円余の補助金を受けているという。
□上川少子化・男女共同参画担当相
 上川氏は資金管理団体など二つの政治団体に対する貸付金を、衆院議長あてに提出した資産等報告書に記載していなかったとして、訂正を届け出たことを明らかにした。上川氏の事務所は「事務的な行き違い。今後は緊張感をもってあたりたい」としている。国会議員資産公開法は貸付金について資産等報告書への記載を義務づけており、議員が自らの政治団体に貸しつけた場合も対象となっている。事務所によると、収支報告書は地元事務所が作成する一方で、資産等報告書は上川氏の親族がとりまとめており、連絡が十分でないことでミスがおきたと説明している。
□森元首相が代表を務める自民党石川県第2選挙区支部で政治資金収支報告書記載漏れが600万円あったこと,丹羽元厚労相が代表を務める自民党茨城県第6選挙区支部が、05年の政治資金収支報告書に同じ領収書のコピーを2枚添付し、経費を二重計上していたことが,7日報じられた。

 今回の内閣改造の最大のねらいは、首相自身が言うように「政治への国民の信頼の回復」だったはず。だからこそ、入念な「身体検査」が長い時間をかけて行われてきたはずだが,農水相のいきなりの辞任を見ると,政治不信は増すばかりである。事務所経費,政治資金について,「事務所にミスがないように指導しておく」,「誤記だった」などとしていること自体,政治不信の元ではないか。政治家が,事務所の犯したミスなのだから,『訂正すればお咎めなし』になると考えているなら,あまりに無責任である。自らの事務所が犯したミスをまるで他人事のように説明している政治家など信頼に値しないし,卑怯である。何百万円という庶民にすれば高額の記入もれをするというセンスが信じられない。多くの国民は見え透いた言い訳を肯んじない。せめて「私の不徳の致すところです」くらいのことは言えないのか。ミスがあったから「ごめんなさい」で済むようなことが世間で通用しない。ミスに対して程度に応じた責任が求められるのは当然であり,ましてや国の方向,国民の日々の生活に関わる仕事に携わる政治家は,みっともない言い訳をせずに潔い態度を見せれば,少なからず「彼は正直な人物だ」と思えるが,自ら「誰でもミスは犯すのだから」では済むまい。

 安倍総理は「任命責任はすべて自分にある」「政治家一人一人が身を引き締めていくことが大切」としているが,責任を認めたからには国民に「どのように責任をとるのか」を語って貰いたい。また,「反省すべきは反省する」と語ったが,何をどう反省したのか聞きたい。それについても何も語っていないのはなぜか。「人心一新」のため内閣改造をしたはずだが、どこが一新なのか。
 一連の報道で思うことは,閣僚にならなければ発覚しなかったかもしれない「事務処理ミス」が,他の多くの政治家にないのか,である。この際だから,一斉に総懺悔して「領収書の使い回し」「未登記」「未記載」を明らかにすることを勧める。きっと沢山出てくるに違いない。そうなっても国民は少しも驚かないだろう。そういえば,参院選後は「美しい国」という言葉を聞かなくなったようだ。これほど政治不信につながる行為をしている先生方がいくら熱弁を振るっても「健全な青少年」は育成しにくいし,教育改革を論じていることなど笑止千万だ。昨今はあまりに反面教師が多すぎる。

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