日々の抄

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  国民に目を向けた施策を望む

2007年09月24日(月)

 自民党第22代総裁に福田康夫氏が就任した。得票は福田氏63%,対抗馬の麻生氏37%だった。
 安倍首相が内閣を改造,国会で所信表明演説をし、国民に決意と覚悟を語ったばかりで,その演説に対する各党の代表質問を受ける当日に、辞任表明したことは一国の最高指導者として考えられない唐突さがあり,健康上の理由もあったといえ無責任の誹りは免れないだろう。首相の辞任の理由は、11月1日に期限が切れるテロ特措法の延長が困難になったことをあげているが,海上自衛隊によるインド洋での給油活動を継続することに「職を賭す」と発言していただけに国会での討論をする前に辞任することは,正に「職場放棄」の感を免れない。そもそも,テロ特措法は、アフガン周辺で対テロ作戦にあたる米軍艦などへの後方支援に海自の活動を限定しているにも関わらず,補給された油の量が実際は公表された量の4倍だったり,イラク戦争に使われていたとの米軍艦船船長の証言に対して政府はどのように説明するのか。これらが正しい報道なら,国民を欺いてまで米国に貢献していることにならないのか。
 テロ特措法に反対の意向を表明している民主党の小沢代表との党首会談を断られたため、「テロとの戦いを継続させるには、むしろ局面を転換しなければならない。私がいることがマイナスになっている」と、身を引くことを決めたというが,数々の大臣の「政治と金」の問題,それらの任命責任,そして参院選惨敗に対し身内から,「'美しい国'は、的外れだった」などの指摘があったことからも,安倍政治の破綻を来したと考えるべきだったのだろう。

 総裁選で2候補者が街頭に立って演説をしている姿を見ていると,いかに市民が好意的に接し評判を良くしても,所詮総裁選に投票資格のない人々に語りかけ,熱弁を振るっても,特別国会開催中のが突然の首相辞任劇で,一日に二億とも三億円ともいわれる空転国会になっている現状を考えれば,虚しさを感じないわけにはいかない。安倍政治が小泉政治の継承をうたいつつ,深刻な社会格差を挽回できるような目に見える結果を示せなかったのは致命的である。
 小泉政治が構造改革と称して大なたを振るった結果,到底解消できないほどの貧富の差,社会格差を引き起こしてきたことは否めないだろう。そうした状況の中で,総裁選に再び小泉氏を擁立しようとしていた小泉チルドレン達の,国民生活の深刻さを考えず,自分たちの都合だけで動いているとしか思えない姿は腹立たしい。小泉氏擁立がダメになっていくらもしないうちに,チルドレンの多くは福田氏応援にまわり,「福田先生のお人柄がどんどん毎日,国民に浸透しいる・・・・」「無派閥の立場から,しっかりと先生を応援させていただきます。ぜひ格差是正内閣と言うことでまっしぐらに応援したいと思います」などとしている無節操さには呆れるばかりである。派閥のほとんどが福田氏支持という姿をみると,正に「勝ち馬に乗る」としか思えない。政治家達の保身,国民無視の姿は悲しき限りである。
 安部政権で,数の力を借りた強行採決によって「改正教育基本法,防衛庁昇格関連法,国民投票法案,改正イラク特措法,教育関連3法,社会保険庁改革関連法,改正国家公務員法,年金時効特例法」が成立している。どれをとっても日々の生活に汲々としている国民にとって急いでほしい政治とは大きな乖離がある。年金問題に関しても,社会保険庁,市町村関係者のネコババが次々に明らかになっている現状を見ると,最近の政治が国民生活をよくしてくれたと思うわけにいかない。「豊かな国民生活と明るい未来を手にするために・・・戦後レジームからの脱却がどうしても必要」「私の目指す政治とは・・すなわち'美しい国'を創りすすめていこうとするもの」としていたことはいったい何だったのか。

 一方で総裁が替わったからといって,政治が劇的に変わるとは思えない。残された課題が余りに多いからである。教育,拉致,肝炎訴訟,年金問題等々堆く積まれている。教育再生会議はどうなるのか。伊吹文科相は「教育再生は,半分くらいの状況。全うできなかった。国民に対して申し訳ない」と語り,教育再生会議の今後については「分からない」とした上で、「国会、中央教育審議会、マスコミのコメントなども聴きながらやっており、再生会議が引き継がれなくても困ることはないのではないか」としている。なくていいかもしれない会議を膨大な予算と時間を要し,教育現場を承知していないメンバーが次々に思いつきとしか思えない(例えば親学など)提言がなされてきたのはいったい何だったのか。福田氏は「教育再生会議などはまだ途中段階だ。方針を引き継ぐかどうかはよく吟味しないといけない」としている。与野党間で政権が変わることがないにも関わらず,一国の教育の方向がこんないい加減な結末で左右されていることに怒りを覚えないわけにいかない。また,一年以内に実行すると明言した「年金の突合」はどうなるのか。

 相次ぐ失言に呆れかえり,政治家の発言が軽いことを実感している昨今だが,福田氏はすでに総裁選中,年金制度の抜本改革をめぐり「年金システムが崩壊したらどうなるか、若い人が一番心配することだ。戦争でもするなら話は簡単だ。ゼロからスタートするということだ」「戦争をしないで済む国際社会をどうつくるか考えることが必要だ」。少子高齢化に関し「これからはあなたたち若い人が一生懸命考えてください。私の将来のことじゃないんだから」と、まるで他人事のように語っている。また,高松市での遊説中に「香川県にあんないい商店街があるなんて思わなかった」と地方の実態が分かってない発言もあった。福田氏が首相に指名された暁には,国家国民のことをよく知り(知ろうとし),日本のあるべき姿を語り,実行してほしいものである。親子二代の首相という日本ではじめての宰相として,歴史に残る業績を残してほしいものだ。そのためには「美しい日本」などという類の美辞麗句はやめて,国民が真面目に働けば報われ,「日本に生まれてよかった」と思えるような政治をすればいいだけのことだ。何十時間も無報酬の残業を強いられ,へとへとになりながらやっと生活できている者のいること,ロストジェネレーションが未だ救済されてない現状,年金の減額を受けて通院すら控えている老齢者が多いこと,80歳を超えても農業に従事している老婦人の「50年やっているが,国に救われたと思ったことはなかった」等々,市井に生活するひとびとの生活が自らの生活だったらどうか,という想像力がない限り,何も変わることはないだろう。

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