日々の抄

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  悪木盗泉に近づくべからず

2007年10月11日(木)

 9日,社保庁から宙に浮いた5000万件の年金記録の保険料の総額が発表された。サンプル調査での試算では、総額で約2兆3500億円に上るという。社保庁が単純計算として出したもので、「正確なものでない」としているが,5000万件のうち、氏名のない記録524万件のうち、東京社会保険事務局がこれまでに調査した150件から試算したところ5000万件では約2兆3500億円になる計算という。試算なのでこの数字が変更になる可能性があるとしても,途方もない金額であることは間違いない。
 前首相が,一年以内に年金記録の突合をすると国民に約束していたが,政権担当者も代わり,厚労相が年金制度開始からのデタラメで無責任な仕事を挽回しようと躍起になっているもののそう簡単に解決できるとは思えない。現厚労相がいままでと違って問題解決に努力している姿勢は評価に値するが,社保庁,地方自治体職員の年金着服,横領問題に関し,「社保庁は信用ならないという残念な状況。市町村の窓口はもっと信用ならない」と語っている。これに対し倉吉市,武蔵野市から「市町村職員の士気を著しく損なう」の抗議したことに対し,「小人のざれ言」などと反発しているが,傲慢で不遜に聞こえる。互いに協力して問題解決すべき立場の者どうしであるはずだが,高飛車に「一円たりとも横領していけないのは当たり前。私に言うより、不正をはたらいた市町村に文句を言いなさい」などとしているが,八つ当たりに聞こえてくる。互いに争っている場合ではない。

 それにしても,年金を着服,横領した職員が刑事処分されないでいることは理解できない。厚労相は「市町村長が告発しないなら、社保庁長官を通じて告発させる」としているが,社保庁職員も例外ではなく初の逮捕者が出ている。元係長というが,他にはいないのか。やっと逮捕者が出たというのが率直な感想である。自治体で告発されているのは,日野市だけ(当該職員は免職)で,告発しないのは,様似町(北海道)、大崎町(宮城)、大泉町(群馬),鳥羽市(三重),田村市(福島),男鹿市(秋田)(いずれも、免職),池田市(大阪・停職1カ月),新居浜市(愛媛)(処分なし)という。該当者が本当にこれだけなのか疑いを持っている人も少なくあるまい。
 告発しない理由として,すでに返済している,社会的制裁を受けている,退職しているからなどが伝えられているが,当該自治体は行政処分と刑事処分が違うことを知らないのだろうか。役人が市民の年金をネコババしておきながら,「金を返したから一件落着」の発想は,「コンビニで万引きしても金を払えばいい」という発想とどこが違うのか。最近の世情に「品格の問題」「適切に処理している」などという言葉が聞こえてくるが,部下が処分されれば上司の出世に影響する,同僚として情がある,などということが告発しない理由なのだろうか。役人が信用できない世の中がいいはずはない。公務員に「公僕」「全体の奉仕者」などという言葉はすでに死語なのだろうか。

 これだけ,厚労相が言う「盗っ人」が刑事処分されないでいる現実を見たときに,将来を背負う若者の政治不信は増大し,「バレたら返せばいい」などという不正義が罷り通るような見本を見せられては堪らない。スーパーで僅か数百円の万引きをしても新聞報道されるのに,他人の年金を横領しておきながら実名が発表されないのでは,社会正義が通じない。一番心配なのは,真面目に年金の納付しているにもかかわらず,それが着服された結果,消えた年金のひとつになっていないか,である。現実的にはありうると思うのだが,対象の被害者に対する救済は適切になされているのだろうか。
 年金の不正が,厚労相の号令がかからなければ明らかにならず,告発もなされないような今の日本は狂っているとしか思えない。一方で,民主党などの努力で年金受給漏れ,不正が明らかにならなければ,国を信じ真面目に働いてきたのにも関わらず,報われない老後を迎えたかもしれない多くの国民がいることは間違いない。それを考えれば腹立たしい気持ちを押さえきれないものの,事が今発覚したことをよしとしなければならないのだろうか。

 年金受給漏れは,対象者全員に納付記録,受給されるはずの年金金額を,期限付きで送付して本人が確認すれば解決するのではないか。もし,内容が異なる,通知が届かない場合,それが消えた年金の一番手っ取り早い調査法と思うのだが。切手代が何億にもなるから現実的でないなどと評論している人もいるが,年金チェックの新システムを作るのに同等の金額がかかるという。どちらがいいか考えてみるといい。所詮,氏名のない年金記録を「突合」しようなどということが間違っているのではないか。

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