日々の抄

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  不遜はいけません

2007年10月18日(木)

 11日行われたWBCフライ級世界タイトルマッチ戦が物議を醸し,首相,文科相もコメントする騒ぎであった。
 対戦の調印式での挑戦者亀田大毅および亀田一家のチャンピオンに対する挑発は常軌を逸しているものだった。一言で言えば亀田一家の奢りと思い違い,不遜の態度は不愉快そのものである。15歳も年長のチャンピオンに対し「負けたら切腹する,お前負けたら切腹するんか」「金は輝いとるからや。好きな色や。チャンピオンはそういうもんや。スター性が違うやろ。内藤君これ着ても似合わんと思うわ」「ゴキブリ」などと年長者に対する敬意を微塵も感じられないものだった。
 ランク14位の大毅がいくら舌戦優位であっても実力でかなうものでないことは分かっていたことだが,試合前のレフェリー注意の際、父史郎が内藤に体を寄せ、止めようとした宮田会長に「何や、コラー!」などとすごんだという。試合は,記録にないほどのかずかずの「ローブロー,ホールド,頭突き行為,レスリング行為,サミング」などの意図的で悪質な反則があった。1ラウンドで減点3は初めてという。更に試合中にセコンドについた史郎,兄興毅から「ヒジでもいいから目入れろ」「玉(急所)打ってまえ」などの反則を促す声がTVから聞こえてきた。また「親族はセコンドにつけない」というWBCルールを適用せずに試合をJBCがなぜ認めたのか。
 これらの行為に対しJBCは15日,史郎,大毅,興毅に対して「セコンド資格の無期限停止」「ボクサー資格の1年間停止」「厳重戒告」の処分を下した。これに対して「大毅に1年は長い」と不服と取れるコメントを史郎が出している。

 12日,史郎は「反則行為は、故意ではありません。大毅の若さ、精神的な未熟さが出た結果だと思います。セコンドについたトレーナーとして大毅の反則行為を止められなかった事は反省しております」と指示への関与を否定して謝罪していた。反則行為を指示した事に対する当人の反省はないのか。18日,JBCへの謝罪後,大毅,史郎,金平協栄ジム会長の記者会見が行われた。謝罪をしたことで幕引きを図りたかったようだが,全く謝罪になっているように思えなかった。史郎は冒頭「いろいろとご迷惑かけて申し訳ありませんでした。これから1歩1歩やっていきますので、今後ともよろしくお願いします」と語っているが,誰が,何を誰に対して謝罪しているか全く不明である。また,反則の指示については「それは指示していません。最後はポイントも取られているから、悔いのないように戦えと。あとはどう取られようと自由やけど、おれらは言ってません」と否定。「反則行為は指導していくつもりです」と、戦い方を変えない考えを示した。礼儀に欠けた言動やパフォーマンスを今後変えるかを問われたが、「それは今はちょっと分かりません」と答えている。処分に対して「出たものは仕方ない」としているが,処分理由が「ルール違反をさせる動機を作った」ことにあるはずだ。反則を煽る言葉を発してないとするなら,提訴すべきではないか。だが,TVを通して聞こえた「勝たんが為の反則指示発言」から,いくら反則行為を指示してないと言い張っても誰も信じる者はあるまい。
 最も驚いたのは記者会見が10分弱の中で,本人である大毅は終始俯いて,促されても一言の謝罪の言葉もなく,頭を下げることもなかったことである。まだ18歳だからといって4分に満たない時間が経過すると大毅は退席していったのも不可解である。自分が行ったことに対し,試合後一言も反省の発言が聞こえてこないのはなぜなのか。髪を短くしたから反省したことが分かるだろうなどと思ったら間違いである。
 父親が,相手に対し恫喝,反則指示など自らの行った事への反省が見られない事,本人の謝罪の言葉がないことから,この記者会見は謝ったことにする仕組まれたアリバイ作りに感じられてならない。どうやら亀田一家は何でこうなったかが分かっていないようである。
 また,会見での金平会長の「負けたのですから、その結果がすべてだと思います。勝てばよし、負ければ何も語らない。結果、負けたのですから、どのようなご批判も受けても仕方ないと思います。また一から出直しということでご理解くださいませ」の発言は聞きづてならない。大毅が今回の試合で勝てば,周囲からゴチャゴチャ言われることはないということなのか。問題になっているのは,世界タイトルマッチで歴史的に希な反則行為が指示され,行われたことに対する処分だったのではないか。それが,負けたから何も言わないというのはどういうことか。

 彼らをここまで傍若無人にさせたことをマスコミが少なからず助長してきたことは否定できまい。TBSの手のひら替えしは見事なものだった。試合前までは朝の情報番組でもたびたび亀田一家を取り上げ励ましてきた。ところが,亀田家不利と見るや,11日の結果を見て,「僕は内藤君を応援してますよ」などと,臆面もなく語っている人気キャスターには呆れるばかりである。11日のTBSによる試合の実況も、内藤がバッティングで流血した場面で「このままだと亀田が勝ちますね」、最終回に大毅が反則を犯すと「若さが出ました」と露骨に亀田びいきだったことはたしかだった。「スポーツはフェアーであるべし」ということをあからさまテレビ局が否定して見せてくれた典型だろうか。亀田一家を称える特番も予定していたらしいが,JBCからの処分後,放映できなくなったのは当然である。TV局はヒーローを作り上げ,それに肩入れして報道して視聴率を上げようとしていくことが仕事の一つなのだろうが,亀田一家の今までの「強ければ何でもあり」の発言,パフォーマンスを是認して生きたことをどう今後に活かすのだろうか。

 チャンピオン内藤は,「大毅選手は切腹するんですかね?」の問いに「最初から切らないの分かっているでしょ。ネチネチ言ったらかわいそうだし」「いじめられっ子だった僕がいじめたらおかしいから」と語っているのは爽やかである。「普通のボクサーとして評価して貰えるようにしたい」と語り,おおらかさを見せているところは33歳のチャンピオンの風格だろうか。
 「ボクサーの技術を教える前に、礼儀や感謝の気持ちといった人間としての教育を誰がするかが問題」と語るライトフライ級元王者・具志堅用高氏の指摘は尤もであり,それが出来るか否かが亀田一家が今後生き残れるかどうかの決め手になるだろう。少なくとも試合後,対戦相手と勝負をたたえ合う態度を表せることがプロとしての最低限の資質だろう。「強ければ何でもあり」に対する多くの人々の反発が見られたことはちょっぴり嬉しい事件だった。

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