テストが返ってきたが | ||||||||||||||||||||||||||||||
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2007年10月27日(土) 本年4月24日,43年ぶりに小学六年と中学三年を対象にして,全国の約三万二千校が参加して実施された文科省の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果が24日発表された。文科省がまとめた概要は以下のようなものである。 小学校
国語A(知識)について、児童の平均正答率が81.7%であり、相当数の児童が今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられる。 国語B(活用)について、児童の平均正答率が63.0%であり、知識・技能を活用する力に課題がある。 算数 算数A(知識)について、児童の平均正答率が82.1%であり、相当数の児童が今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられる。 算数B(活用)について、児童の平均正答率が63.6%であり、知識・技能を活用する力に課題がある。 中学校
国語A(知識)について、生徒の平均正答率が82.2%であり、相当数の生徒が今回出題している学習内容をおおむね身に付けていると考えられる。 国語B(活用)について、生徒の平均正答率が72.0%であり、知識・技能を活用する力を更に身に付けさせる必要がある。 数学 数学A(知識)について、生徒の平均正答率が72.8%であり、基礎的・基本的な知識・技能を更に身に付けさせる必要がある。 数学B(活用)について、生徒の平均正答率が61.2%であり、知識・技能を活用する力に課題がある。 ○地域の規模等の状況 小学校調査、中学校調査ともに、平均正答数、平均正答率、中央値、標準偏差を見ると、地域の規模等(公立:大都市、中核市、その他の市、町村、へき地)による大きな差は見られない。 ○都道府県の状況 小学校・・・各都道府県(公立)の状況については、平均正答率を見ると、ほとんどの都道府県が平均正答率の±5%の範囲内にあり、ばらつきが小さい。 中学校・・・各都道府県(公立)の状況については、平均正答率を見ると、ほとんどの都道府県が平均正答率の±5%の範囲内にあり、ばらつきが小さいが、国語に比べ数学の方が、都道府県の差が大きくなっている。 ○学校の状況 小学校・・・各学校の状況については、全国平均からの離れ具合を表す平均正答率の標準偏差を見ると、全体としてはそれほど大きなばらつきは見られないが、A(知識)に比べB(活用)の方がばらつきが大きくなっている。 中学校・・・各学校の状況については、全国平均からの離れ具合を表す平均正答率の標準偏差を見ると、全体としてはそれほど大きなばらつきは見られないが、国語に比べ数学の方が、また、A(知識)に比べB(活用)の方が、ばらつきが大きくなっている。 ○学習塾(家庭教師を含む)で勉強している児童(公立学校)の割合は約45%、生徒(公立学校)の割合は約60%である。 ○学習塾(家庭教師を含む)で「学校の勉強より進んだ内容や、難しい内容を勉強している」児童生徒、「通っていない」児童生徒、「学校の勉強でよく分からなかった内容を勉強している」児童生徒の順に、正答率が高い傾向が見られる。 ○朝食を毎日食べる児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる。 ○家の人と学校での出来事について話をする児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる。 以下略。 などというものである。 今回の調査結果で感じることは,この程度の分析なら,抽出調査で十分ではないかということ。分析で示されている「知識は相応に持っているが,それを活用・応用する学力が不足している」ことは,経済協力開発機構(OECD)の2003年度学習到達度調査からも分かっていたことである。77億円の巨費をかけ,それも,4月に実施された調査結果が10月末にやっと報告されたのでは,調査対象になった小6児童,中3の生徒に還元するには残りの時間があまりに短すぎるのではないか。文科省の分析はともかく,調査結果だけは早々に現場に返すべきではなかったのか。 学力調査の結果が数値で発表され,直ちに注目されるのは全国平均より上か下なのかということだろう。都道府県別に正解率の高低は関係者に重大な数値として迫ってくるに違いない。だが,私立校の約4割が不参加だったことから,今回の結果がどれほど妥当か考えなければなるまい。 今回の結果を都道府県でどのように受け止め,今後に生かそうとしているかが報道されているので,そのいくつかを記しておきたい。 北海道・・・中3も44位 全科目で平均以下。公表されたデータを基に、小6、中3それぞれ四科目平均の正答率を四十七都道府県別に試算すると、小6は46位、中3が44位だった。 札幌市教委は、公表方針を一転させ、結果公表を取りやめた。 秋田県・・・公立校のみの都道府県別平均正答率で、小6が国語と数学全4種類の問題で全国トップ。中3も国語の1種類で1位となったのをはじめ、全4種類で3位以上。県教委は「学校、家庭、地域が協力した成果」ととらえている。 山形県・・・中学校のすべてで全国平均を上回り、都道府県別平均ではいずれも全国10位以内となった。その理由は、「温かな人間関係の中で確かな学力を身につけるという少人数教育のねらいが各校で実現し一人一人を大切にした授業が丁寧に行われている」「指導方法の工夫により分かる授業づくりが推進されている」「地域の中で子供たちが安心して楽しく学校に通うことができる伝統的な教育風土」などを挙げている。 群馬県・・・中学は国語、数学ともに全国平均を上回り、関東一都六県でトップ。小学校算数のB問題で全国平均を下回った。検証改善委員会が、結果の活用方法を来年二月をめどにまとめる,それを踏まえて全県的な底上げを目指す。 長野県・・・中学国語の基礎が7位、小学算数の基礎が10位などいずれもほぼ全国平均の水準だが,応用力が不足.。12月中にも報告書にまとめて公表予定。 石川,,富山,福井県・・・小6、中3とも国語、算数・数学の二教科で、小6、中3の二教科とも平均正答率が全国平均を上回った。特に中3の数学では知識を活用する力をみる問題では、福井1位、富山2位、石川3位タイとなった。検証改善委員会で調査結果の分析を進め年内をめどに報告書にまとめる。市町別や学校別の結果公表は、「序列化や過度の競争が生じるおそれがある」との理由から行わない。 静岡県・・・小学算数Bが全国平均と同値だった以外は7教科はいずれも全国を上回った。『「知識」の平均正答率が8割を超えているものが多い一方、「活用」ではいくつか課題がみられたが、県全体としては学習内容をおおむね理解している良好な状況である基盤には,家庭での基本的な生活習慣が定着している状況がうかがわれる。地域の行事に参加している小、中学生の割合が全国と比べて高いという結果もあり、学校、家庭、地域の連携がうまく機能している1つの証しではないか』。 愛媛県・・・数学Bをはじめ全8科目中5科目で全国をやや上回り、他の3科目は同数。小学校の国語B,数学Aが下回った。「宿題をする」など決められたことにまじめに取り組むが、「勉強時間を自分で決め実行する」など主体性に課題が見られた。 沖縄県・・・全国最下位となったことを「強い衝撃を受けている」と受け止めている。検証改善委員会を年内に設け、文科省には、教員の加配や結果を分析する専門官の派遣を求める。 都道府県別で,学習環境が整っているように見える大都会の正答率が高いと思われそうだが,結果は違う。小学校すべてで全国一位の秋田県では,01年から少人数学習,02年から小4〜中3全員を対象に学習状況調査,05年には算数・数学学力向上推進班を設置などの取り組みが実を結んだ,と担当者は受け止めているようだが,「秋田では先生が信頼されている」とする識者がいる。「田舎で遊ぶところがない。ヒマなのでとりあえず勉強をする」。そのため「予復習は習慣化していて,必ず毎日する」と語る地元の生徒の言葉は,学力向上をさせるための示唆に富んでいる。 正答率が低いと,「検討なんとか委員会を作って分析し,その結果を活かした指導を現場が実践する」という図式が多くの都道府県で見られる。これもひとつの方法論だろうが,学力の現状を肌身で感じているのは現場の教員である。教壇に立っている教員が,「目の前の子ども達にどうやって学力をつけたらいいか」と考え,実践することがすべての始まりではないか。教委から指導があるので,それに従って実践して成果が見えても,「子ども達が力をつけてよかった」と心から喜べるだろうか。自らの力不足を感じている者は指導を求めるべし。現場の教員は常に子ども達に対して能動的であるべし。指導書だけを見て授業に望むようなことで,興味を惹かせる授業はできまい。現場の教員は今回の結果を自ら分析し実践に活かすべしである。 もうひとつ学力をつけるために無視できない大きな要素は「ヒマなのでとりあえず勉強をする」に関わることである。学力向上は学校現場だけで問題解決しない。予備校や塾がほとんどない地域では,学力をつけるためには学校に頼るしかない。その気持ちを学校が受けとめ応える。大学進学に関して北陸地方はそれにあたると聞いたことがある。昨今は学習を妨げる地域環境があまりに多すぎる。遊びほうける刺激が子ども達の学習意欲を阻害していることは間違いない。子ども達が勉強したくなくなるような地域社会を作るための環境整備をしていくことがもうひとつの要素である。 学力テストが行われ,これからの大きな課題は結果をどのように分析し今後に活かすか,である。少人数学級、地域や保護者の支援が学力向上に効果を上げていることを行政も実感してほしい。教育は目先の成果でなく,子ども達が興味と意欲をもって「知ることを楽しむこと」ができるようにすることが大事なのではないか。その為には書類作りに忙殺されている現状を解消し,「時間的余裕があるから子ども達のためになる教材作りをしよう」と思える教育現場にすることが急務である。昼休みも,放課後も先生や校長が子ども達と一緒に遊んでくれた時代の方が,生き生きした教育ができていたように思えてならない。 |
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