日々の抄

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  民意を見誤るな

2007年11月12日(月)

 福田首相と民主党の小沢代表が2日会談し、自民、公明両党と民主党による連立政権樹立に向けた政策協議を始めることを提案。これを党執行部に諮ったが拒否され,4日「けじめをつける」ために代表辞任を発表した。その理由は『福田総理の求めによる2度にわたる党首会談で、総理から要請のあった連立政権樹立を巡り、政治的混乱が生じた。民主党内外に対するけじめをつける』ためという。
 ことの発端は、10月25日都内の料亭で会合が開かれ,自民・民主大連立構想が,読売新聞会長・主筆渡辺恒雄、日本テレビ取締役会議長・氏家斉一郎らからもちかけられたという。
 先の参院選で民主党が大勝したのは,自民党の「政治と金」「度重なる不祥事」に嫌気がさし,生活に喘ぐ国民が「政権交代」を望み,少しでも日々の生活が楽になるかもしれないと望んでのことであったはずだ。大連立は民主党の公約にはなかったはずだ。参院選で大勝した小沢氏は自らの信念を果たすべく首相との会談に臨んだのだろうが,国民の望むところを大いに思い違いした結果と思える。国民の為の大連立と主張しても,国民の多くはそんなことは現時点では望んでいない。民主党執行部が「大連立構想を,首相との会談の場ですぐに拒否しなかったのはなぜか」としたのは妥当な判断だった。連立政権は国の非常時にしか考えられないことであり,かつてあった「大政翼賛会」を想起する人が多かったに違いない。大連立は政治が直線的に進む始まりであり,国会が閉塞状態にあるから云々は思い違いである。国民は現状打破を図ることを望んで参院選での結果をもたらし,民主党をはじめとする野党の努力に期待していたのではないか。

 そもそも,なぜ政治家でもない新聞社主筆の意向で政治の大転換をもたらされなければならないのか。読売新聞は,「2日の福田首相と小沢民主党代表の会談で、議題になった自民、民主両党による連立政権構想は、実は小沢氏の方が先に持ちかけていたことが3日、複数の関係者の話で明らかになった」「そもそも、10月30日の最初の党首会談を持ちかけたのも小沢氏の側だった」(11月4日),「衆参ねじれの下で、行き詰まった政治状況の打開へ、積極的に推進すべきである。」「民主党内には、参院選の余勢を駆って、政府・与党を追い込み、衆院解散で政権交代を目指すという主張が根強い。だが、いたずらに“対立”に走った結果、今日の政治の不毛を生んでいるということを直視すべきだ」(11月3日社説),「不毛な政治状況が続き、海自の給油活動の早期再開もできないとなれば、国際社会の信頼を失い、日米同盟を含め、日本の安全保障に重大な影響が生じる恐れがある。年金・社会保障制度改革も進まなければ、国民生活が不安定になり将来不安を増大させる。国民経済や安全保障への悪影響があれば、その責任は民主党にあるということになる」(11月5日社説),「福田首相と民主党の小沢代表の党首会談で、民主党が連立政権に参加した場合、小沢氏が副総理格の無任所相に就任することで合意していたことが4日、明らかになった」「関係者によると、2日の党首会談では、民主党に割り当てる閣僚ポストとして小沢氏の副総理、国土交通相、厚生労働相、農相が挙がったという。副総理は内閣法に法的な位置づけはなく、あらかじめ首相臨時代理に指名された閣僚を指してきた。政府は、首相臨時代理を組閣時に5人指名しているが、臨時代理順位の1位を無任所相の小沢氏とする方針だったと見られる」(11月5日)としているが,関係者とは誰なのか。「小沢氏は真実を語れ」としている読売こそ真実を語るべきである。

 読売の主張によれば,昨今の国民経済,安全保障に悪影響,国会での対立の責任がすべて民主党にあるかのように聞こえる。インド洋での給油活動について,給油先の疑義,給油量の隠ぺいを防衛相が行っていたことに多くの国民が不信感を募られていることについてどう説明するのか。米国のいうことなら何でもいうことを聞くという政治姿勢に対する国民の批判も先の参院選で民意として表されてきたのではないか。

 今回の騒動の発端に関わった人物から「フィクサー」という言葉が思い起こされる。かつてロッキード事件に関係したA級戦犯に指名されたが後に釈放された大物活動家の名も思い出される。新聞というマスメディアを使ったpropagandaは大きな問題を残し,「新聞報道をいかに客観的に受け止めなければならないか」の教訓を残した。

 小沢氏は,党内の慰留により代表辞任を撤回した。辞任会見で,党代表である本人が,自己否定にも聞こえる「民主党は力量不足」などとしてきたにも関わらず慰留するには,民主党の内部事情が多分にあるようだ。憲法解釈について,元自民党,旧社会党,旧民社党のひとびとで左右に分かれるように考えを異にしている党内事情は,仮に民主党が政権与党になったときに,今のままで責任を果たせるか大いに危うさを感じないわけにはいかない。

 辞意撤回で『いまだなお、不器用で口べたな東北気質』『力量不足という意味は、政権を担当するうんぬんという話ではなく、選挙で自民党に勝てるほどではないということ。政権担当能力がないと言ったわけではなく、実際に、年金、農業、子育ての問題について、われわれの主張を現実の行政に実現していければ、誰も政権担当能力がないとは言う人はいなくなるのでは。言葉足らずで、誤解が生じたのなら、反省しなければならない』としているが,政治家,それも最大野党の代表が口べたでは務まるまい。「力量不足」についても,はじめから多くの人が誤解しないような発言をするべきである。

 また,『国連の活動以外は自衛隊、軍隊を海外に派遣しないということは、今までの政府の方針の大転換、憲法解釈の大転換だ。私がずーっと主張してきたことだ。そういう意味で、私は直接今、国民生活に利害を及ぼすものではないが、安易な軍隊の海外派遣はどのような結果を国民にもたらすか、歴史をひもとけば分かることであり、私はそういう意味で二度とこのような過ちを繰り返さない、そのためにも国際社会で国連を中心にしてみんなと平和を守っていくために日本は最大限の努力をしていかなくてはいけないと、ずーっと主張してきた。またそれは国の将来にわたっての国民生活の安定と安全のために大事なことだと思い、私個人としてはこの大転換を福田総理が認めたという一事をもってしても、政策協議に入るということがいいんじゃないかと思ったということだ』としているが,「国の将来に関わる大転換」が二人の政治家のそれも密室での会談で決められていいものか。リーダーシップと独善をはき違えているように思えてならない。

 政治家は「お国のため」と発言することが多いようだが,保身,党利党略のための言葉に聞こえてくるのは考えすぎだろうか。今回の騒動で,民主党は国民の信頼を損ねたことに少なからぬものがあることは自戒しなければなるまい。民主党の内部事情を鑑みると将来的には,改憲,安全保障に対する考えを同じにする政党同士の政界再編がなされない限り,国民生活に目が向けられ安定した政治がなされるとは思えない。小沢氏が仲間を引き連れて自民党に復帰すればオセロゲームのように政界の白黒模様が変わるかもしれなかったと思うとぞっとする。民意を見誤ると政治生命を失いかねないことを小沢氏は学ぶべきである。また,すぐに「プッツン」するようなら代表の座を譲るべきだ。肝心なところで「プッツン」する人物に国を任せるわけにいかない。民主党は大連立をするつもりがあるなら,衆院選の前に明言するべきである。

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