日々の抄

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  スーパーおばあちゃんがいた

2007年11月26日(月)

 相も変わらず,食品偽装,40年も前から行われていた高速道路の型枠強度偽造,防衛庁元官僚の業者との異常な接待,その接待に当該大臣が同席したか否かなど,不正義で不愉快な報道が伝えられている。「議員が業者との宴席に同席するのはよくあること」と首相はどこに問題があるのかいわんばかりだが,業者が何の見返りもなく官僚を何百回もゴルフ接待するとは誰も思ってはいまい。増税が当然という空気が作られはじめているが,防衛庁関係の数億円にもわたる水増し請求が見逃されてきたことをはじめ,税金の無駄遣いが少なくなったとは伝えられてこない。然るべき立場にある者だけが甘い汁を吸ってそのツケを国民に押しつけていることは許し難い。いずれも,立場を利用した無節操に自らの金欲を充たすための行為といえるのではないか。

 そんな中で久しぶりに「本物のお大尽」がいることを知った。神奈川県南足柄市出身の女性が16日、現金10億円を米寿の記念に同市に寄付したという。99年には大磯町に福祉目的で5億円を寄付しているという。因みに,10億円は1000万円の札束が計100個で、重さは約100キロ。南足柄市の本年度一般会計予算の6・7%、教育費の約53%に相当する。

 彼女は元高校教諭。寄付した財は,40歳代で「縁起のいい米寿に故郷に寄付をしたい」との一念で、節電や風呂の残り湯をトイレに使い、さらには安売り品を買った際には財布の残りを玄関前の貯金箱に入れるなどしてきて作ったものという。夫とともに設立した会社の社長を務めてきたが,お手伝いさんも雇わず1人暮らし。買い物、料理、洗濯の家事は全部こなしているという。小銭が貯まると,使いもしないブランド製品や宝石を手にして満足していることとは大きな違いである。「約40年で10億円をつくりました。現金で持ってきたのは、おばあちゃんの私でもできるのだから若い人も頑張ってお金の大切さを知ってもらいたいから」「現金の重みをかみしめてもらいたかった。子どもたちの情操教育に役立ててほしい」話している。確かに,寄贈された同市市長は「10億円を現金で見たのは初めて。こんな現金を見られるのはもう二度とない。熱い思いにプレッシャーを感じます」 と言っているから,ねらい通りだったようだ。

 同市では、全額国債を購入、利子で発生する年2500万円を運用資金として、児童・生徒へのスポーツ、文化活動を表彰する“子どもノーベル賞”を実施する予定という。節約して貯蓄することは「もうやめます」と話し、将来的には教員を育成し、育児に専念できる母親を支援する「塾」設立を次の目標とするとして「まだ仕事しないと」と話しているという。贈呈式で「ふるさとに恩返しできたのは人生最大の喜び。子供たちの教育のため、命ある限り続けたい」と語っていた。

 滅多に巡り会えない「世の中,まだ捨てたものではない」と思わせてくれる,久しぶりに涙ぐみそうないい話題であった。不正を働いて私服を肥やしたり,ワーキングプアにさせられている人々を踏みつけにして甘い汁を吸っている人々は,10億円を潔く寄付したスーパーおばあちゃんを見習うといい。多くの庶民は財を寄贈したくとも自らの生活のために消えていく。本当のお大尽は「自らの富を地域社会に還元しよう」と考えられる気持ちの豊かさを持ち合わせているのではないか。財だけをもっている人々は単なる金持ちだけにすぎない。蛇足ながら,何十億円もの契約金をもらっているプロスポーツ選手は,そうした大枚を何に使っているのか聞いてみたいものだ。

  篤志とは「気の毒な人や不幸な人に対する親切なこころざし」を言うようだが,このスーパーおばあちゃんは篤志家ではないように思う。彼女は自らのために10億円を寄付したのかもしれない。だが,「その気持ち」が次の世代に,快い「余韻」を残してくれることは間違いなさそうである。

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