日々の抄

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  元日の社説を読んで

2008年01月04日(金)

 ことしも元日の新聞各紙の社説を読み比べた。

朝日 『平成20年の意味―歴史に刻む総選挙の年に』
 『防衛官僚トップのモラル欠如,年金のずさんな扱かいをはじめとする「偽」の字に覆われたこと,借金づけの財政,進む少子高齢化に策を打ち出せないこと,経済のかげり,生活苦のワーキングプアの増加から,「日本は沈みつつある船ではないのか」』と分析している。
 本年は,『ねじれ国会の混迷を抜け出せるか否かの大きな分岐点にある』『平成になってから13人もの首相が代わり,政治の非力と蛇行をうかがわせ,平成は「政治的激動の入り口」であった。昨秋の「大連立」があっさり消えたのは当然だが,求められる道は,「改めて総選挙に問い,政権選択のいわば決勝戦」「衆院選で自民党,民主党のいずれが勝利しても,互いに謙虚に政策調整に応じる構えが望まれる」』としている。
 世界の政治情勢を考えれば,『今秋の米国大統領選で「ブッシュの時代」が終わりを告げることもあり,世界の中の日本も曲がり角にあり,まずは「日本の沈没を防ぐため、政治の体勢を整えることしかなく,今年は「政治の歴史に大きな節目を刻みたい」』と結んでいる。

毎日 『08年を考える 責任感を取り戻そう』
 50年代後半の高度成長期をはさんで若者の心を強くとらえた寺山修司の短歌
 「マッチ擦る つかのま海に 霧ふかし 身捨つるほどの 祖国はありや」 を紹介している。『世界を覆う霧が今も深い点で,日本の心もとなさが今日的である』としている。
 以前の元日の社説は,03年『自然体を身に着けよう 素直になれば解決できる』,04年『アメリカリスク対応が鍵だ 心配はイラクより国政』,05年『戦後60年で考える もっと楽しく政治をしよう』,06年『ポストXの06年 壮大な破壊後の展望が大事 結果責任負ってこそ名首相』,07年『「世界一」を増やそう 挑戦に必要な暮らしの安全』であったが,短歌を引用しているのは興味深い。
 情勢分析として,日本と世界の混迷の共通項として『「責任」の欠如,「公(おおやけ)」の感覚の喪失とも言えるだろう』を挙げている。
 米国について。『唯一の超大国としての威信は昨年、大きく失墜。イラク問題、サブプライムローン問題しかり。超大国の役割として「平和と安定」に対し公共財を提供求められるが,米国は限界を明らかにしつつある。サブプライムローン問題は,世界のリーダーとしての責任放棄。イラク戦争,地球環境問題でも、世界をリードするのが難しくなり,冷戦終了直後の精神的指導性を有していない』。
 米国以外の国について。『中国,ロシアは露骨に国益を追うことが多く、世界の不安定化に拍車をかけている。核兵器の拡散、テロとの戦い、温室効果ガス削減などグローバルな問題は中国、ロシア、インド、ブラジルなど台頭する新興諸国に、どこまで国際公共財を負担させることができるかという問題になってきた。世界の将来はその説得にかかっている。地球温暖化問題では京都議定書がカバーする排出量は世界の3分の1に過ぎず,大排出国の米国、中国、インドの参加が不可欠だが、相互非難の応酬にとどまり責任回避が甚だしい』。
 日本ではどうか。『「テロとの戦い」への貢献についての対立,老舗企業ですら商道徳を忘れた「偽装」。「消えた年金」「防衛次官汚職」は日本人の「劣化」という評もあった』。『「公」の回復という言葉が,復古的な国家優先主義を主張するものでないものとして論じれば,「公共心や公共への責任感」は空から降ってくるわけではなく,「共通する課題にどう対処するか、平等な立場で、オープンに議論をたたかわせるなかで血肉となっていくはずのもの」。「公」は誰かが与えてくれるものでなく、手探りで作っていかなければならないもの。「公」の回復は政治の「公」から求められる』。『ねじれ国会の弊害を大連立で解消することなく,選挙にゆだねるべき。ねじれの緊張関係の中で合意をめざし議論を練り上げていく。それが「公」の回復そのものである。メディアも然り』。
 『時代状況,個人的事情も異なるとしても、冒頭の短歌にある「祖国はありや」という切迫した歌の心を、いま多くの人が共にしているのではないか。日本には衰退の気分が広がり、年金の先行きさえ定かでないのだから。「祖国」を実感できる年としなければならない』と結んでいる。

読売 『多極化世界への変動に備えよ 外交力に必要な国内体制の再構築』
 国際情勢について。『日本は世界の構造的変動のただ中に。米国の地位が揺らぎ、多極化世界へ。米国の揺らぎは、イラク戦争の不手際が招いた信頼感の減退のみならず,長らく世界の基軸通貨として君臨してきたドルの威信低下がある』。『ロシアは、国際政治上での「大国」復活を目指し、ソ連崩壊以来の対米協調路線から、対米対抗姿勢に転じた』。『中国がめざましい経済成長を続け,早ければ数年以内にも日本を追い抜いて、世界第2の経済大国となる勢い。それと並行して軍事力をも急拡大しつつある。いずれは,米国に拮抗する一つの「極」をなすだろう』。
 『最近では、メキシコがロシアより上位に来るとも予測され,中国,インドという新たな「極」が出現し、日本の経済的存在感は大きく後退する』。『今後、日本にとって,中国との関係が、外交政策上、もっとも難しい重要な課題となる。「戦略的互恵関係」をどう構築していくかということだが,日本外交の基軸が日米関係であり続けることには、変わりはない。中国との関係を適切に調整していくためにも、見通しうる将来にわたり、日米同盟を堅持していかなくてはならない』。『米国との関係を維持するためには、日本もこれまで以上のさまざまなチャンネルを通じての外交努力、あるいは相応の負担をする覚悟が要る。機動的な日本外交展開の前提になるのは、国内政治の安定である。国内が混迷状態では、日本の対外的発言、約束も信頼性が薄れ、外交力が弱まってしまう』。
 『税財政改革,社会保障制度の抜本改革も,与野党の次期衆院選がらみの思惑で先送りされている。社会保障制度が持続する条件は、そのための財政的裏打ちがしっかりしていること。社会保障費の伸びに見合うだけの財政収入増がなければ、いずれ財政が破綻する。財政が破綻すれば、社会保障制度も破綻する。こうした窮状を打開するには、国民全体が広く薄く負担を分かち合う消費税の税率を引き上げる以外に、現実的な財政収入増の方途はない』。『解散・総選挙を急ぐ必要はない』としている。

東京 『年のはじめに考える 「反貧困」に希望が見える』
 グローバル化のなかで貧困層の増加に歯止めがかからないこと,ワーキングプアが広がっていることを力説している。
 『ワーキングプア層とも呼べる年収200万円以下が1023万人(06年)。21年ぶりの一千万人突破で、相対的貧困率(平均所得の半分に満たない人の比率)はOECD諸国中、米国に次いで世界二位。生活保護受給者の151万人と国民健康保険の滞納は480万世帯で過去最高記録。母子家庭や高齢者世帯だけでなく一家の大黒柱も、だれもがワーキングプアと背中合わせになっていた』『若年層に絞ると、四人に一人が非正社員で、三人に一人は年収は120万円ほどとの調査も。パート・アルバイト男性の四人に三人が親元に身を寄せて結婚は極めてまれ。正社員だからといって恵まれているというわけにはいかず、全力投球の長時間労働を強いられる過酷』としている。
 その原因について。『若者たちの無職や低賃金が個人の資質や努力の足りなさでなく、経済社会システム問題や大変革時代との遭遇に由来していて不運。IT革命を伴って加速化した経済のグローバル化がもたらしたのは、下方スパイラル現象。低価格、低賃金へ向けての激烈な競争で、日本の最低賃金も中国やインド、ベトナムやタイなど国境の壁を超えた闘いになった。グローバル競争の勝者は一部の大企業で労働者の七割を占める中小企業に恩恵はなく、06年の全産業の経常利益は54兆円。十年前の倍ながら、全雇用者の報酬は6%減で残業時間も増となるところに一部の勝者と大多数の敗者の法則が貫かれている。法改正で派遣労働が人件費節約や雇用調整になってしまうケースも出てきた』。『深刻なのは親元で暮らすパート・アルバイト。これまで日本の福祉を引き受けてきたのは企業と家族だった。企業は余力を失って社宅や福利厚生施設提供から撤退し、親たちは数十年先には消えていく存在。雇用の改善がなければ大量の若年たちが生活困窮に直面する事態にも陥いる』としている。
 早急に求められこととして,『未来を担う世代を育てるのは国の最重要任務。福祉を企業と家族に依存してきた分だけその責任は大きく、公教育の充実、職業訓練、就労支援、生活保護受給資格の緩和などが緊急の課題で、生活扶助基準引き下げなどは本末転倒』『かつて75%だった所得税最高税率は、ここ二十年で何度か引き下げられ累進度合いは低められた。税と年金、医療、介護などの社会保障制度の検討も早急に行われるべき。税には「役立っている」との実感と政府への信頼が不可欠。消費税増税をいう前に政府・行政には信頼の回復など為すべき多くのことがあるはず』としている。
 『最後には社会を変えたい。いくら働いても暮らしが成り立たないような社会はどうかしている』という生活をかけても報われずに働く者の声で結んでいる。

 各紙とも情勢分析が述べられているが,視点が大きく異なる。「ねじれ国会」が日本の将来を危うくしているが,それが民意の結果であり,早急な「大連立」は国民が望むものでないとの「朝日」,「毎日」には同感。「読売」は『野党の問責決議などは、憲法にも国会法にもまったく根拠のない性格。衆院の任期はあと2年近くある。解散・総選挙を急ぐ必要はない』として直近の民意のもたらした結果に無頓着に,現政府へエールを送っている。

 昨年の「偽造」「モラル欠如」は日本人の人間として質の低下,劣化を考えざるを得ないことである。これに対しての提言は「毎日」のみである。「毎日」の『「公」は誰かが与えてくれるものでなく、手探りで作っていかなければならないもの』の考えは興味あるもの。だが,手探りで作ることをしようとせず,不正や弱者に不条理を強いている人々が自ら「公」に背くことにどう対処するのか。そこにマスコミの使命の一端を感じる。「朝日」は「政治の歴史に大きな節目を刻みたい」として括っているが,もう一歩掘り下げた,根本に関わる論を聞いてみたかった。

 我が国が経済的に破綻を来していることは知られていることだが,「読売」がいう『国民全体が広く薄く負担を分かち合う消費税の税率を引き上げ』は尤もに聞こえる論だが,その前に経済的破綻をなぜ来したのかの原因究明,税金の無駄遣いに無関係に論ずることはできまい。年金問題で所轄の大臣が「ないものはない」と開き直ったことに通じるものを感じる。「東京」が述べているように『税には「役立っている」との実感と政府への信頼が不可欠』は言い得て妙である。

 「東京」は生活に喘ぎながら必死に生活する者の苦しみを知った論であり,最も共感でき,深刻さが伝わってくる。いったい全体この国を支えているのは誰なのかを為政者は真剣に考えるべきである。前述したように『いくら働いても暮らしが成り立たないような社会はどうかしている』と実感している人々はあまりに多いのではないか。財と権力を持っている者だけが甘い汁を吸っていられるような社会がいいはずはない。『親元で暮らすパート・アルバイトの雇用の改善がなければ大量の若年たちが生活困窮に直面する事態にも陥いる』に対して政治がどのように具体策を示してくれるのか注視していきたい。

 新聞は現状肯定のみであったり,世を憂えているだけであったり,評論家的立場であるだけではその使命を果たしているとは言えまい。新聞論説の関係者が政治に直接口を挟むことを避けつつ,奢ることなく諸問題を掘り下げていくことを望みたい。

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