日々の抄

       目次    


  ハニカんでばかりいられない

2008年01月14日(月)

  人気ゴルファーの通称ハニカミ王子石川遼が10日,プロ転向を宣言した。2007年のマンシングウェアオープンKSBカップでアマチュアながらツアー史上最年少優勝し一躍注目を浴び,高校一年生ながらその後も各種の大会に出場しその活躍が報道されている。

 その優勝で獲得した2009年までのシード権(ツアーへの出場権)は彼が高校生在学中に限られるとの扱いについて,1年間延長するよう要望書を提出していたが,却下されたこともプロ転向の理由の一つらしい。特別扱いして貰えるかもしれないと考えたことに「思い違い」があったように思われる。各種の大会で優勝することがなくても,上位成績の選手より彼に注目したマスコミでの報道を見ていると,ゴルフ界の「スター」を作り出し,注目を集めたいという作戦が見え透いている。プロに転向すると,テレビCM出演などが可能となり、スポンサーとの契約金は少なくとも合計5億円を超えるとの予測もあるらしい。

 以前から疑問に思っていることがある。それは高校生の身分でいくら「学業と両立させたい」と思っても,平日に行われる試合に朝から出場し,その様子が報道されていると,「学校はどうなっているのか」という素朴な疑問が起きてくる。彼が籍を置く杉並学院高校では,「休みの日に補講やレポートを果たしてサポートする」としているが,本年の日本ゴルフツアー機構公式HPによると,35週中25週に渡ってツアートーナメントが予定されている。試合は週の木曜から日曜にかけてあっても,遠地でのツアーに参加すれば移動の日程も必要になる。これでは練習もままならないだろう。

 全ての試合に参加しないまでも,7割近い「公欠」が認められるのか。公立校での進級,卒業の条件は授業日数の2/3以上の出席である。私立校は各校の定めによるらしいが,一年のほとんどにわたって登校することができずに,特別扱いで進級,卒業できることになれば,皆勤で授業に参加しても教科科目を修得できない場合もあることを考えれば,所詮学業とプロゴルフの両立には無理がある。プロで試合に出場するためには,いずれかに所属する必要があるが,学校としては所属を「杉並学院」としたいと考えているらしい。そのことにより,大会出場を「公欠」として認めたいらしい。

 高等学校学習指導要領には「卒業までに総合的な学習の時間の単位数を含めて74単位以上を履修する」とし,必履修教科・科目も定めているが,正規の履修条件を特別扱いした上でレポート提出などで認められることには大いに問題がある。教科科目の単位の修得は,必要な出席時数を確保して履修条件を充たしてなければ認められるものではない。

 同様のことは,女子フィギュアスケート選手についてもいえる。高校入学時から海外で生活し,履修条件を充たしていない(ある選手は一年に数日しか登校していないらしい)にも関わらず,特別扱いしていることが,教育の公平性を欠くことになりはしないか。未履修問題が社会問題化したこととの整合性もはかれまい。

 彼らがそれぞれのスポーツで世界的舞台で活躍することを期待している。だが,高校を卒業できるか否かは別問題である。彼らが所属する高校では,名が知れることで経営的に大きな利益があることは見えているし,彼がスポーツと学業を両立して高校を卒業したいと願っていることは痛いほど判るが,卒業する方法に所詮無理がありすぎる。現在の高校にはフレッツ制,通信制高校が存在する。そうした学校で都合のつくときに学業に専念し,たとえ3年間を超えても安心して卒業することを勧めたい。高校入学時に「スポーツ特別枠」があっても,「スポーツ特別卒業枠」はありえない。高卒認定(旧大検)も一考に値するだろう。

 男子プロゴルフ界では石川遼を人気回復の救世主として大いに期待するところがあるだろうが,過大な期待や過大な商業主義がひとりの有能な若者を潰さないことを願うのみである。マスコミの行きすぎた報道には辟易である。
 ハニカミ王子が「二兎を追う者は一兎をも得ず」にならないことを願う。

<前                            目次                            次>