日々の抄

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  ジキルとハイドはどこにでもいる

2008年03月11日(火)

  「協力することの大切さ」,「人生,悔いのないように生きて」などと熱心に語り,学校改革に積極的で評判がよかったとされる現役の高校長が脅迫容疑で,「人間関係が希薄になっている。ともに高め合う人間関係をつくろう。自覚と責任ある行動を」と卒業式で励ましの言葉を贈った直後に逮捕された。現職高校長の現行不一致の典型ともいえる犯罪は同校に勤務する職員,生徒をはじめ多くの関係者に衝撃を与えている。関係者でない私も一報を聞いてから言いしれぬ腹立たしさを覚えている。とんでもない似非教師がいたものだ。

 同容疑者は埼玉県内の県立高校などで数学の教師として勤務。同県北部の県立高校で教頭だった2000年から2001年の間,当時在校していた女生徒と交際を始めた。昨年,女性が別の男性と付き合うようになってからも,交際を続けることを要求。2002年に県立総合教育センター主任指導主事となり,2006年から現任高校長を務めていた。

  昨年11月下旬から12月中旬までの間,携帯電話やパソコンから「交際相手の住所,経歴全部知っている。何かあっても知らないよ。人を殺すことは平気だよ。二人の関係をばらすよ」「着信拒否や無視を続けるなら恋人に会いに行くか,手紙を書くか,すべてをばらす」「交際を続けないなら樹海に飛び込む」「一緒に死のう」などと書いたメールを送って脅していただけでなく,女性の家の前で待ち伏せしたり,女性が携帯電話の番号を変えても,新しい番号を調べ出して脅迫を続けていたという。関係する情報は立場を利用して得たという。

 手紙では,「私生活をばらす」「交際を続けなければ(恋人に)君の裸の写真を送りつけるよ」「警察に相談しても無駄だ」とも脅していたという。 昨年十二月,女性が大量の睡眠薬を飲み,自殺を図ったことがきっかけで,家族などが同容疑者との関係に気づき,同署に相談していた。同容疑者は今月に入ってからも「君を見守っているよ」という内容の封書を女性宅に送っていたという。
 同容疑者は「脅すつもりはなかった」と供述しているというが,これほどの行為が脅迫にならないなどと思っているのは狂っているとしか言いようがない。

 脅迫メールは,同校の公用パソコンから計数十回にわたり送信されており,職務中に作成したとみられ,十数通送りつけられた封書は,修正テープで隠されていたものの校名が印刷されており,学校の備品を使ったという大胆さであった。同容疑者の行為はストーカー行為,脅迫,青少年淫行条例に抵触する。

 2006年10月同容疑者がJR上尾駅で女子高生に痴漢をした男を取り押さえたときに,「女性が恐怖心を持つような行為は許せない。私の手柄ではない。助けを求めて声をあげた生徒が偉い」と話していたそうだが,同時期に「女性が恐怖心を持つような行為」を続けていたことの矛盾を考えると,正にジキルとハイドである。

 要請があれば卒業証書から校長名の削除も検討されているというが,校長名を削除すればいいという問題ではあるまい。在校生は言うまでもなく卒業生の同校に対する,信頼,想い出が壊され,人間に対する信頼をも失わせたことの重大さを知るべきである。

 同容疑者は人間として教育者として万死に値する。人として恥を知るべきである。教育者として美辞麗句を並べておきながら,卑劣な犯罪を犯し続けていた罪深さを知るべきである。だがその一方,学校の集会で「出会いの大切さ」について話し,妻に贈った自作の歌をギターで弾き語りしてみせたことがあるそうだが,同容疑者の家族の気持ちを思うといたたまれない気持ちになる。

 沢山の管理職がいれば何人かの不適任者がいても不思議ではない。多くの生徒の前で語られた尤もらしい言葉の虚しさ,犯罪に手をそめながら指導主事として指導を与えた教員に対する大罪を鑑みれば,同容疑者を任命した立場の人間も責任をとるべきである。それができない組織ならそれまでのことである。管理職は部下に,「不適正な行為がないように」などと語る前に,自らを諫め律することを考えるといい。一度失われた教育的失墜,不信感は簡単に挽回できるものではない。いかほどの善行,熱心な実績を積もうが,たったひとつの行為で全てを失うことを忘れてはなるまい。

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