日々の抄

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  運転せずに生活できればいいが

2008年03月21日(金)

  「免許を返納する勇気 〜高齢運転者のみなさんへ〜」と称して高齢者の自動車運転免許の自主返納を勧めはじめた。その理由は高齢者による交通事故が増加しているとしている。警視庁によると「昨年1年間に都内で発生した交通人身事故6万8603件のうち、65歳以上の高齢ドライバーが加害者となったのは7036件。10年前の2倍以上に増加している」という。昨年自主返納した高齢ドライバーは1237人で高齢免許保有者全体の約0.2%という。

  そもそも高齢者とは何歳なのか。紅葉マークは何歳から付けるべきなのか。多くのベテランドライバーは自分が一番運転が上手だと思っているらしいから,怖い想いでもしない限り自主的に運転免許を返納するわけにいかない。そこで考え出したのが,ご褒美作戦である。つまり,「高齢者運転免許自主返納サポート協議会」などを作って,乗用車の運転免許を自主的に返納すればいろいろな特典を与えようというものである。運転免許を自主返納すると「運転経歴証明書」なるものが与えられ,自主返納の証明書になるという。だが,「免許返納を促すロゴ」まで作ることにどういう意味があるか疑問である。

  都内での特典は,デパートの都内無料宅配,商品の割引き(ピザ,茶,めがね,レストラン,介護用品など),クーポン500円,信金預金の金利を0.1%アップ(元本1万円で10円だけ)など。変わったところでは,自動車教習所へ新規免許取得者を紹介すると5000円プレゼントなどというものもあるが,多少なりとも違和感がある特典である。

  地域,交通機関の利便さ,家族構成の関係で運転をしなくても済む状況があるなら,「そろそろ運転はやめにするか」と考えられるだろうが,交通が不自由な地方ではそうはいくまい。自家用車の運転をしなければ,通院や買い物をするため一日に数本しかないバスを辛抱強く待つか,高額のタクシーを使うしかなければ,生活を維持するために容易に運転免許を返納するわけにいかない。因みに,県庁所在地に住む私の自宅近くを通るバスは一日に9本しか通っていない。免許を返納したい人のため,秋田県では県内のタクシーの料金を1割引きで利用できる制度を開始して以来,運転免許証自主返納が前年の4.4倍になったという例もある。

  同様なタクシーの料金の1割引は福島県相馬市でも実施される予定という。同市では他に加盟店が300店舗もある商店会で商品の割引を受けられるという。宮崎県ではバスの割引があるが一回限りという。
  一方で,浜田市のハイヤー会社では運転免許自主返納に関係なく,65歳以上の利用者は1割引で利用できるというから嬉しいことである。あちこちでこうした配慮がなされるなら,高齢者が「長生きするものだ」と喜べるのではないか。

  高齢者とは警視庁の資料の中にある統計グラフには70歳以上が挙げられているが,文言では65歳を想定しているらしい。しかし,最近は70歳近くまで現役で働いている人は多い。高齢者が運転免許を自主返納しなくても済む環境がない限り簡単に返納できないのではないか。たとえ各種の特典があっても,生活を維持するために運転することには代え難いからだ。ご褒美の特典を与えることをしなくても,免許更新の時に,実地試験を果たして,試験官が危険運転しそうと判断したら免許を更新しなければ話は簡単である。自治体でそうした努力を早急に開始しない限り,「交通の足」を失って生活に窮する高齢者が出てくることは自明である。

  高齢者には今までと違って「後期高齢者医療制度」などという,ますます生活を苦しくする鬼のような制度が待っている。老人いじめをしなくても,官庁が行っている明らかな天下りをはじめとする無駄遣いをなくすことで原資を確保することができるのではないか。特定財源を解消することによって,戦火を経て困窮した生活をくぐり抜け,この国の発展を支えてきてくれた高齢者が安心して生活できるような施策がなぜできないのか。今の世の中は「姥捨て山」が昔話でない気がする。誰しも高齢者になるのだから,まだ先のことと考えるわけにいかないだろう。現在の高齢者が住みやすい社会の仕組みにすることは,全ての人が住みやすい社会作りになるのではないか。

  私はあめ玉を貰えるからといって運転免許を返納する気にはなれない。高齢といっても注意力,判断力などに個人差があることは自明。免許更新時の客観的な判断があれば別である。同時に高齢者でなくとも,飲酒運転をはじめとする危険運転をする者も多発していることを考えれば,免許更新の方法も再考の時が来ているように思う。危険運転している者にも「免許を返納する勇気 〜危険運転するみなさんへ〜」とキャンペーンすることを勧める。

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