日々の抄

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  社保庁は反省しているのか

2008年04月01日(火)

 昨3月31日は年金統合問題解決の期限だったはずだが,3月中旬に社保庁が『約束した作業が終了した』と発表したためか,31日の新聞各紙朝刊はほとんど取り上げられず,同じく31日に期限切れになるガソリン税,暫定税率問題が大きく報じられている。だが,年金統合問題が解決済みなどと思っている国民は皆無だろう。

 3月14日,社保庁は照合作業を進めてきた5000万件の宙に浮いた年金記録が,特定困難な記録が全体の4割である2025万件になることを明らかにした。持ち主不明の記録は昨年12月公表によると1975万件だったが,「生年月日がずれても同一人と判定できるソフト」を開発し,2次照合を進め,3カ月間で新たに260万件の持ち主がわかったという。だが,同時に12月時点で氏名の欠落していた記録も別に470万件あった。社保庁は「氏名が復元できたら持ち主が判明する」と考えていたらしいが,ほとんどは判明するに至らなかった。その結果,差し引き50万件の不明記録増になった。

 あってはならない社保庁の不正義,無責任さに怒りを込めていくつかの点について書いてみる

1.責任の所在が明らかになってない
 社保庁は、非公式に「5000万件の大半は払い済みや死亡者など給付に結びつかない記録」との説明を繰り返していた。だが,それは根拠のないウソだった。死亡が判明したり,統合しても受給につながらない処理済みの記録は1550万件(30.4%)にとどまることが分かっている。
 これほどの「年金受給漏れ」が行われてきたことに対する責任は組織の最高責任者の社保庁長官,厚生相(厚労相)にあるはずである。だが、総務省年金記録問題検証委員会による社保庁長官経験者からの聴き取り調査をした際の議事録やメモが残されていないという。総務省は「委員が必要を認めなかった」と釈明している。議事要旨だけでも出すべし,の要請に対して議事録,テープはとっていないというのみ。昨年6月に設置され調査に当たっていたが,昨年10月の最終報告では,歴代の社保庁長官,幹部の責任を「最も重い」と指摘したものの,厚生・厚生労働相を含めた個人責任を明記されることはなかった。つまりは,これほどの政府機関の国民生活を陥れる不正義に対し,「誰も責任はとらなくていい」ということである。こんなことは許さざる事ではないか。

2.公約が守られてない
 安倍前首相は「最後の1人にいたるまで、記録をチェックして、まじめにこつこつと保険料を払っていただいた皆さんの年金を正しくきっちりとお支払いしていく。そのために政府は3月までに突き合わせを行う」(昨年7月21日参院選挙中鳥取県米子市内の街頭演説で)などと述べ、すべての記録の特定を約束。3月には5000万件すべての持ち主が分かるかのように胸を張り,与党もビラなどで早期解決を約束,多くの候補者は「3月には解消する」と問題を矮小化するような訴えを繰り返した。
 担当大臣の舛添厚労相は「公約の最後の1人,最後の1円までがんばってやるということを取り組む。命がけでやる」(8月28日の就任時の記者会見)としていたが,昨年暮れには「すべてを解決すると言った覚えはない」「他の方が大臣になっても結果は同じ。ないものはないんだから」「先の参院選でのスローガンで,意気込みを示したもの。神様がやってもできないことがある」に変わった。今回は「企業が脱税のために従業員をでっち上げた加入記録など,探しても持ち主はいない」と開き直り,公約は名寄せ終了にすぎず「約束はきちんと守った」と釈明するに至っている。
 町村官房長官も「全部分かれば良かったが,難しいだろうとは皆さん思っていたのではないか」「最期の一人,最後の一円まで(支払うことを)全部来年3月までにやるといったわけではない。(参院)選挙中だから簡素化して言ってしまった」(12月11日)と、開き直りとも取れる発言をしている。
 年金記録問題が3月にメドが立つと期待を寄せた人は多い。しかし、政府は「一通りの作業を約束通り終えた」という認識のようで,その落差は大きい。照合作業とは、あくまでも手段に過ぎず,まじめに保険料を払っていたのに年金を受け取れない人を救済することにあるはず。「やってみたが,やはりダメでした」で,保身のためとしか思えない言葉を並べているだけでは信頼など得られようがない。
 後継の福田康夫首相は,就任直後,年金の名寄せについて「『解決する』というように言ったのかな。それは取り方もあるかもしれない」「公約違反というほど大げさなものかどうか」と述べ,まるで他人事で自分には関係がないと言わんばかりの発言に批判が出た。首相が誰に替わろうが,与党が他の党に変わらない限り,前政権の年金受給漏れに関する公約が引き継がれるのは当然であり,福田氏が「自分が公約したのではない」と考えても通用しないのは自明である。

3.社保庁の体質は変わってない
 社保庁のコンピューターでの名寄せなどで持ち主が見つからなかった2025万件の記録がなぜ生じたのか。社保庁は1997年(平成10年)から1人にひとつの基礎年金番号を割り振ったが,それ以前は転職などのたびに異なる番号を付与。オンライン入力時の「転記ミス,漢字からカナへの変換ミス,結婚などでの改姓」など,杜撰な事務処理で5095万件の記録が基礎年金番号に統合されないままになっていた。この数がどれほどの数であるか改めて驚かされる。
 「名寄せ」作業をアルバイトが行った際,作業員の一部から「個人情報の守秘義務に関する誓約書」を取っていなかったことや,日本語が覚束ない「外国人留学生」が作業にあたっていてミスが続出したことなど,社保庁が本気になって,国民を不安に陥れ不正義な仕事をしてきたことへの反省をしているとは思えない所業である。
 記録の持ち主に通知する「ねんきん特別便」が具体的な作業としてはじめられたが,これも,社会保険事務所の対応が不親切との批判を受け,方針をたびたび変更。約2万通の特別便に他人のデータ記載などのミスが発覚している。
 「ねんきん特別便」をめぐり,社会保険庁が窓口を訪れた人に記録漏れの特定につながる助言をしないよう社会保険事務所に求めるマニュアルを作成していたことがわかっている。窓口対応の手引を補足する「裏マニュアル」とも呼ばれるもので,
◆(受給者が)失念していても事務所サイドから事業所を特定する部分は一切告げない
◆ 最初の一文字を告げて「○から始まりませんか」などの誘導はしない
◆ ○〇年〜○年ころに勤めてませんか、など期間が特定できる誘導はしない
◆ ○○区か△△区のどちらかではなかったですか,など二つに一つの誘導はしない
◆「あ行の事業所名」という案内は不可
◆「〇○市の事業所」と告げるのは不可
などと「過去の勤め先を思い出せない人に事業所名の頭文字は教えない」などと厳格な内容になっていた。受給者らが思い出せなかった場合などを想定してマニュアルに「世の中の動き」と題したヒント集がつけ加えられていた。それによると,『サンフランシスコでの対日講和会議でグロムイコ・ソ連代表が記者に言い続けた「ノーコメント」(1951年),テレビドラマ「おしん」(83年),安部譲二氏の小説の題名の一部「懲りない面々」(87年)などの流行語計162』,『ビートルズが来日(66年),東京・府中で3億円強奪事件(68年),インベーダーゲーム(78年)を含む計337の重大ニュースやブーム,米(10キロ)や新聞代など当時の日用品の物価』など128もあるという。
 社保庁の手違いで失われている自分の年金が正当に受給されるためにクイズをしに出向いているのではあるまい。 「ねんきん特別便」には職歴が書いてあるだけでなく,どの時期に記録漏れの可能性があるかをなぜ書けないのか。社保庁は,自分たちの手抜き,不真面目な所業によって国民の生活を脅かすような迷惑をかけているという意識があるのか疑わしい。40,50年前の勤務場所をすぐに思い出せなくて当然ではないか。予め分かっていることがあるなら,受給者が思い出せるような資料を提供すべきである。不正受給者が出ることを恐れてのことらしいが,社保庁職員にそんなことを言う資格はない。社保庁職員によってどれほどの人びとが,正当な年金を受給されることができず落胆したか。受給できず,すでに他界している人も少なからずいるではないか。
 『年金受給漏れ』の加害者は社保庁であり,被害者は国民であることを,社保庁職員,担当大臣,長官は再認識すべきである。被害者である受給者に社保庁が立証責任を求めるのは本末転倒以外のなにものでもない。今のところ社保庁が組織として本当に被害者である受給者に,正当な年金を支払うための最大限の努力をしているようには思えない。

4.これからの年金に明るい見通しはあるのか
 社保庁は、未解明の2250万件について,住民基本台帳ネットワークと照合,漢字と仮名の変換ミスを修正,旧姓のデータとの名寄せ,などを進めることで持ち主を探す方針というが,いつ解決できるか分かりそうになく長期化は違いなさそうである。昨年7月に施行された年金時効撤廃特例法により,未支給の年金は配偶者だけでなく,生計を共にしていた子や孫も含む遺族が全期間分をまとめて受け取れることになっており,社保庁は、持ち主の遺族を特定する義務がある。
 社保庁は,同一人物とみられる記録が複数ある場合,「1件の持ち主が名前や生年月日で特定できれば残りも自動的に特定できる」と説明し,特定困難な記録として,まとめて「1件」として分類した。だが,それらが同姓同名の別人かどうかの確認はしておらず,このような複数記録は479万件に上るという。
 誤ったコンピューター上のデータをいくら名寄せしても問題解決にならないのは当然である。本来なすべきは,コンピューター記録と,社保事務所や市町村に保管されている手書き台帳との突き合わせ,照合不能の原因である氏名の誤入力などを修正することである。
 手書き記録は国民年金だけで1億7000万枚ある。2008年度の突き合わせ予算は3300万枚分で全体の5分の1に過ぎないのだから,気の遠くなるような話である。厚生年金6億8000万枚の手作業も残されている。
 社保庁は特定できない記録が残ることが確実と見て,インターネットなどで情報を公開し,名乗り出てもらうことも検討しているという。

 受給漏れになっている対象者が他界したり,「もういい」と呆れながらも諦めるのを待っているなら,人の道に反する行為といわなければなるまい。国民は国を信じたい。だが,年金問題以外でも,特別財源という官僚が国民の汗水流して納めた税金を私物化,目的外使用を何の罪もなく執行していることをはじめ,国民は最近の行政による欺瞞に満ちた不正,政治不信に辟易とさせられ,国民の国への信頼は大きく揺らいでいる。国民が国を信じなくなったらその国は終わりである。いまの日本国は,坂道を転げ落ちるようにその道を確実に進んでいる。

 このような国民が不利益を被っていることが明らかにされたのは,「ねじれ国会」という国民のためになる「正常」な政治の姿のおかげである。現在のような「ねじれ」が生じた元を辿れば,小泉政治の国民間の格差をもたらした強引な政治への反省,安部内閣の複数閣僚による無節操な放言,国民を冒涜するような暴言による与党への不信感が遠因とも考えられる。信じられるべき「公」の思い上がった国民無視の政治,行政に対する国民の不信感にいかに政治が応えるか。それがこれからの大きな課題である。少なくとも今の政治はそれに応えているとは思えない。

 社会保険庁は2008年度の国民年金保険料の納付率の目標を,前年と同じ80%とすることを公表している。だが2007年度の納付率は2006年度の66.3%を下回ることが確実で2008年度も納付率の大幅な向上は望めない状況にある。

 「現役のときに真面目に働けば老後は悠々自適ができる」と信じて懸命に働いてきたことは何だったのか。国民の老後を保障すべき社保庁が「年金受給漏れ」を引き起こし,国民を不安に陥れていることに,底知れぬ怒りを覚えざるを得ない。「消えた年金」は「消された年金」と呼ばれるべきであろう。
 自治体職員の年金保険料の着服問題で,告発された元職員で刑事処分が出た者すべてが起訴猶予だった。厚労相が「横領した人間は牢屋に入ってもらう」と息巻いた上での告発だったはずだが,他人様の金を奪っても自由に生活していられるという,今の日本の正義はどこにあるのか。

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