日々の抄

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  花になんということをするのか

2008年05月05日(月)

 このひと月の間、「流行」ともいえる好ましからざる事件が起きている。ひとつは硫化水素ガスでの自殺、もうひとつは花荒らしである。硫化水素ガス自殺は、なんの関係もない人びとを巻き込み、死者も出るという恐ろしさを考えない手前勝手極まりない迷惑行為である。一方の花荒らしは、人の命に関係ないものの、4月から頻発しており、花を丹精して育てた善意の人を踏みにじる行為である。そのいくつかを調べてみると次のようなものであった。

 4月1日:福岡県直方市で「のおがたチューリップフェア2008」の会場で2000本が車に踏み荒らされた。
 9日:前橋市内の県道に並べられた約1050本が切られ、つぼみや茎が、ズタズタに引きちぎられていた。前橋市は「全国都市緑化ぐんまフェアー」が開かれており、街のちこちに花が飾られている。被害はJR前橋駅通りなどで、「前夜は雨だったので、傘を振り回して切った」らしいという。
 11日:静岡県枚之原市市道沿いの植え込みの約120本が踏み荒らされた。茎が切られ、地面には踏みつけられたつぼみが散らばっていたという。海で昨年9月末、1人の女性サーファーが命を落とした。その死を悼み、事故を忘れないように、と長さ200メートル、幅1メートルの植え込みにボランティアなどの仲間が植えたものだった。
 14日:前橋市の住宅街に並べられたプランターの約800本のチューリップが切られた。9日と手口が酷似していることから、同一犯の可能性もあるとみて捜査している。14日午前3時ごろ、現場近くで若い男女4〜5人が騒ぎ声を上げていたとの証言もあり、複数犯との見方が強いという。
 15日:福岡市 大壕公園で約430本が切られた。前橋市内のゴールドクレスト1本をもぎ取ったとして器物損壊容疑で、市内の34歳の男性が逮捕された。酔っての所業という。
 18日:深夜から19日未明にかけて、前橋市内の群馬県庁周辺約600メートルの道路沿いなどで計18個のプランターに植えられたチューリップ約65本が切られた。警察が警戒中での被害だったが、後日防犯カメラの映像が24日公開されたものの犯人逮捕に至ってない。映像には中年の男性が傘を無造作に振り下ろし、チューリップを切り下ろしている様子が撮されていた。
 前橋市内の被害に対し、富山県砺波市の園芸店から群馬県にチューリップ約80鉢(約320本)が贈られた。続いている花荒らしは、前橋に住むひとりとして恥ずかしい。恥さらしもいいところである。
 20日:埼玉県草加市市内で早朝、約80個を歩道約230メートルにわたって設置したプランターのうちの49個のパンジー約200本が抜き取られ、歩道上にまき散らされていた。
 21日:茨城県牛久市の車用品店で午前、歩道沿いの花壇の赤いチューリップばかり61本が切断されていた。花壇には赤と黄色の約250本が植えられていた。
 22日:横浜市栄区の公園で、午後2時ごろ花壇に植えられた42本のうちのチューリップ22本が上端から20センチ程度のところで折られ、放置されていた。
 26日:埼玉県三郷市谷中の公園で、午前10時ころ、公園内に100メートル間隔で7個設置されていたプランターにチューリップ計81本が植えられていたが、このうち、4個が棒のようなもので、たたき切られた状態で発見された。
 27日:南区の東蒔田公園で、花壇のチューリップ8本、菜の花30本など計48本が折られ、散乱していたという。福島県いわき市でもチューリップ53本が切られた。

 花以外でも信じがたい被害があった。4月28日朝、水戸市の中心部にある千波湖の北側の湖畔約1キロにわたり、コクチョウ5羽とハクチョウ2羽が死んでいるのが発見され、巣の近くで大量の血痕も見つかった。いずれも頭や首を棒状のもので殴られた跡があり、湖を管理する水戸市が動物愛護法違反の疑いで水戸署に被害届を提出していた。捜査の結果、水戸市内の男子中学生2人が「棒で殴った」「おもしろかったからやった」などと話していることがわかった。

 花荒らしの殆どの犯人は捕まっていない。こうした類似行為を、「愉快犯」などと呼ぶことがあるらしいが、その呼び方は不適切でそのような呼び方はやめるべし。「不愉快犯」としか呼べない卑劣な類似犯である。花は人間に対し無抵抗である。抵抗できないものに対するこうした行為をなぜ犯すのか。「憂さ晴らし」「何となく」などということが大きな理由なのだろうが、自己中心的で自分の犯した行為がどれほど周囲を傷つける結果を引き起こすかを考える想像力の欠如としか言いようがない。花に対する、鳥に対する、生きとし生けるものに対する不遜な行為は断じて許し難い。生きるものは、何かの理由をもってこの世に現れたはずだ。それを、手前勝手で考えなしの行為で絶命させることの恐ろしさを感じる。人間が人間である所以のひとつは「弱者への思いやり」ではないか。それが当初は憐憫の情であっても構わないかもしれない。生きるもの、他者の生への敬意が、結果的には自らを大切にすることにつながるのではないか。
 花荒らしは、病んでいる今の日本のひとつの現象だろう。人間に危害を与えない生き物の命を尊重するような心のゆとり、思いやりがなぜ持てないのか。ましてや、人間に潤いを与えてくれているものを蹂躙することなど言語道断である。

 4月1日の直方市の被害に対し、地元大学生らが悪いイメージを払拭しようと、遠賀川河川敷の会場内に行政組織を思わせるような「河川観光課」を設け、PR活動に奔走している。大学生らは、環境保護活動などに取り組む「遠賀川ユースリーダー」のメンバーで、フェアの案内役を買って出て、そろいのジャンパー姿で3種類のチラシを配布し、売り込みや清掃も積極的に行い、近くの名所や食事どころも紹介している。花壇への心ない人によって荒らされた事に対し、「自分たちの嫌な思いを来場者には味わってほしくない」として、市職員による花壇の修復作業も飛び入りで手伝ったという。まだまだ、世の中捨てたものじゃないと思った。一方で、何度も花荒らし被害にあっている私の住む前橋でそうした動きが伝えられてこないのは少し残念な気がしている。

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