人道的兵器などありえない |
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2008年06月02日(月) 爆弾投下によって多数の不発子爆弾が一般市民に深刻な被害を与えているクラスター爆弾の禁止条約作りを目指す有志国の軍縮交渉「オスロ・プロセス」は30日、ダブリンの国際会議で、一部の最新型爆弾を除いて全面禁止する条約案を全会一致で採択し、参加約110カ国の全会一致で採択して閉会し、日本も同意した。12月3日にオスロで署名式が開かれ、30カ国が批准した段階で発効する。日本は全面禁止に難色を示してきたが、首相の政治判断で条約案への同意を決めた。条約が発効すれば、現在、世界に存在するクラスター爆弾の「99%」が禁止対象となり、「過去に紛争で使用されたすべてのクラスター爆弾が禁止される」。自衛隊が保有するクラスター爆弾もすべて禁止対象になる。 クラスター爆弾禁止条約案の骨子は以下のようなものである。 ○ いかなる状況でも使用、開発、製造、調達、備蓄、移転(輸出入)を禁止 ○ 子爆弾が10個未満、目標に向かう誘導装置、電子的自己破壊装置などの機能すべてを備えたものは禁止対象外 ○ すべての備蓄を発効後8年以内に廃棄または確約 ○ 不発弾を10年以内に処理。爆弾使用国は処理に協力する ○ 被害者を支援する ○ 締約国は、非締約国との軍事協力・作戦に関与可能 条約案は最新型の高性能爆弾は禁止対象から除外。米国と同盟関係にある日本や英国の対米軍事関係を妨げないという配慮から、条約加盟国は非加盟国との「軍事協力や作戦」ができると規定されているが、米国が使用を可能にする不条理な内容であり、今回の条約が「不参加の米国、ロシア、中国などへの国際的圧力になる」との見解があるが、そうしたことが可能なら、自国の都合だけでクラスター爆弾の使用を否定するつもりのない国が良識を示すか懐疑的になわざるを得ない。 クラスター爆弾が最初に本格的に使われたのはベトナム戦争とされる。クラスター爆弾発射により、空中で容器が分解し、数個から数千個の子爆弾をまき散らす兵器である(詳細は拙HP2007年02月26日(月)の記事を参照されたし)。広範囲攻撃を目的とするために開発され、米国、ロシア、日本など75カ国が保有している。ユーゴスラビアやイラクなど少なくとも25カ国・地域の紛争地で使われ、紛争終結後も不発弾が多く残り、一般市民が多数死傷している。あるNGO(非政府組織)の調査によると、不発となって残った子爆弾で少なくとも1万3306人の死傷が確認され、推計で6万5000人を超える可能性が指摘されている。犠牲者には多くの子供が含まれている。 2006年、第2次レバノン戦争でクラスター爆弾が大量に投下され、『自爆装置を備え不発率が「1%未満」とされる改良型爆弾の不発弾でも、市民に重傷者が出ていた』と、国連地雷除去センター(UNMAC)の調べとして報道されている。「人道的な兵器」などあり得ないが、自爆装置を備えた改良型クラスター爆弾が仮に1000個の子爆弾が打ち出されると、10個の不発弾を残し、これがどこでいつ爆発するかもしれない状態で放置され、多数の不特定多数の罪なき市民を殺傷することになり多数の死傷者を生み出している。 2007年当時の久間章生防衛相は、クラスター爆弾について、「日本は(国を)守るときにそれに代わるいい武器がない。海岸線が長くて(敵が)着上陸するときに水際で防がないと守りにくい」「攻撃されて蹂躙されるか、守り抜いた後で不発弾処理をした方がいいか。今の技術レベルだと、私は後者だと思う」と述べており、国内で発射された場合、日本国民に多数の犠牲者が出ることも、『国防上必要』という。 昨年2月、ノルウェーが呼びかけた国際会議で、08年末までに使用、製造、移動、備蓄を禁止する条約の締結を目指す「オスロ宣言」を採択し閉幕している。49カ国と国連機関、NGO(非政府組織)が参加したが、日本とポーランド、ルーマニアの3カ国だけが宣言に加わらない意向を表明していた。クラスター爆弾を大量に保有する米国、ロシア、中国は今回のダブリン会議に参加しなかった。米軍は同盟国や友好国の防衛のためクラスター爆弾保有は不可欠としている。 日本政府は、地雷不発弾除去のために、8年間にわたって総額228億円を使っている。クラスター爆弾のうち、平成18年度までの累計で、日本製は約77%という。日本の企業がクラスター爆弾を作り自衛隊が保有しているのである。それ以外は、アメリカから購入をしているという。航空自衛隊が保有する1種類のクラスター爆弾の処分だけでおよそ100億円かかるとみられ、すべての爆弾の廃棄にかかる費用はさらに多額に上ると見られている。クラスター爆弾と同じような機能を持つ爆弾はほかにはないため、抑止力を維持するための装備の検討が課題になるという。 「クラスター爆弾を全面禁止する条約」は、有志国・NGO主導の軍縮条約は、対人地雷全面禁止条約(99年3月発効)以来となる。国際的に評価され自国の安全、平和に計り知れない影響を与えている誇るべき憲法9条をもつ日本が、首相の決断という綱渡りで同意することなく、むしろ不参加の米国、ロシア、中国に賛意を促すような努力はできなかったのか。もしそうしたことを行えば、我が国の国際的な地位と評価が上がることは間違いあるまい。同じ結果なら、はじめから賛意を示すべきである。少なくとも「金を出すだけの国」という評価は変わるだろう。米国に追随するような外交は再考の時が来ているのではないか。 だが、首相の「条約採択へ同意」の決断は評価に値する。非核三原則が有名無実化しそうな昨今の我が国は、唯一の被爆国として、各国に核保有の全面的放棄への国際的リーダーシップをとるべきではないか。 |
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