日々の抄

       目次    


  7割が負担減だそうで

2008年06月16日(月)

 後期高齢者医療制度による2回目の保険料が13日に支給された年金から天引きされた。2回目にも関わらず、取りすぎなどのミスが全国で3千件近く発生している。厚労省によると、保険料の天引き対象者は加入者約1300万人のうち、約830万人。対象外の人から天引きしたり、多く取りすぎたりといったミスが、18道県で計2753件起きたという。

 石川県中能登町では、9月まで徴収凍結となる社会保険の被扶養者について、4、6月に各7500円を誤徴収するミス、岩手県一関市(9人)、盛岡市(48人)、奥州市(66人)など県内31市町村が保険料が免除されている計541人の年金から、4月分の保険料として誤って計214万円を天引き。市町村が免除対象者のデータを社会保険庁に提出した時期と、制度の開始時期にずれがあり9月まで徴収対象外だった人の天引きがあった。

 沖縄県では、四市村では計七十四件が誤徴収された。いずれも対象となったのは、今年十月までは保険料徴収を免除される元社会保険の被扶養者で、宮古島市は、事務処理上の入力ミスが原因で、四月に続き今月も誤って天引きされたケースが二件あった。石垣市はデータ手続き中にエラーが発生。十件の天引き停止手続きが間に合わなかったという。うるま市では、六十一件、計約三十万円の誤徴収が発生。恩納村では、一人から、四―八月の三回分計二万四千円を余分に徴収する事例があった。システム上の修正が間に合わず、「八月分の三回目まで天引きされてしまう」という。群馬県では、明和町で保険料の徴収対象外の町民4人から計1万7000円を天引きするミス、甘楽町、みなかみ町の計4人は4月の初回天引きの際、事務処理漏れから誤徴収されていたことも新たに分かっている。こうした年金徴収のミスが解消しないのは、行政が徴収される生活者の立場に立っていないことは自明である。「ミスがあったので返還します」だけで済むと考えていたら思い違いも甚だしい。

 2回目の天引きを控え12日、政府、与党は(1)天引きを免除し世帯主らが肩代わりで納付(2)低所得者への負担軽減などを盛り込んだ運用見直し策を決めているが、システム改修が必要なため肩代わり納付の開始は早くても10月の見通しで、8月の3回目までの天引き額は4月と同じという。
 与党である公明党は、低所得者向け負担軽減策の適用基準を世帯所得から個人所得に変更、天引き免除対象を年金受給額が年18万円未満から約79万円に拡大することなどを求めているが、これらにより負担減となる高齢者が増え、1千億円以上の財源が必要になるとともに、天引き免除の拡大も市町村の徴収事務が増えるなど今後の課題が多い。

 厚労省は、「低所得者は負担が軽減され、高所得者は負担が増える」「保険料を負担している1100万人の約7割は負担が軽減との結果になっている」と説明してきた。しかし、6月4日の厚労省発表によると、「国民健康保険から移った人のうち、年金収入177万円未満の低所得世帯ほど保険料負担が増えた割合が高く、特に大都市部では低所得者の約8割が負担増になり、年金収入292万円以上の高所得世帯の約8割は負担が減っていたことが分かっている。負担増となった世帯の割合は全体では31%。東京23区や名古屋市などが採用する保険料の算定方式では、低所得者の78%が負担増となる一方で、高所得者の負担増は15%という。都道府県ごとの差も大きく、栃木・群馬は負担増となる人は12%だが、沖縄県は64%、東京都は55%と半数を超すことになり、軽減措置や保険料値上げを抑えていたところでは、後期高齢者医療制度で独自策が取れず、保険料が上がっている。

 厚労省の全国調査は、すべての高齢者世帯が土地や家屋などの「資産」があると仮定して国保料を計算しており、モデル世帯の取り方によって負担の増減が全く逆になっている。負担増になる「後期高齢者夫婦と子ども夫婦の四人世帯」なども除外して計算するなど、いかにも恣意的な調査方法ではないか。厚労相は、「正確な実態を出すには(後期高齢者の)一人ひとり全員に聞かなければ分からない。それには、ばく大な事務料がかかる」などとしているが、経費がかかるから実態を把握できないなら、恰も新制度によって負担が減少するというような喧伝は如何なものだろうか。少なくとも「7割の後期高齢者の負担が減ります」などと根拠もなく言うべきではない。

 国会前での新制度撤廃の抗議行動をはじめ、制度見直しを求める動きが各地で相次いでおり、全日本年金者組合によると、東京都や大阪府などで約1900人が、「天引きをやめて」「保険料が高すぎる」として、各都道府県の後期高齢者医療審査会に不服審査請求しているという。後期高齢者のみならず多くの国民が、75歳に線を引く方法に疑義をもっている。負担減とされる人が今後も同様のままで済む保証はないことを考えれば、制度の運用を考えるのでなく、根本問題から再考することが必要なのではないか。医療費の増加に対し、「等しく負担することが必要」は尤もらしく聞こえるが、医療保険金、介護保険金を負担することで、最低限の年金で暮らす高齢者の生活が立ちゆかなくなる事例がでることにどう応えるかが今後の大きな課題である。

 かつて、「貧乏人は麦飯を食え」と語った首相がいたが、「貧乏人は病院にかかるな」などという考えがでてくるほど今の日本は貧しくないはずである。官僚の信じられない無駄遣い、一般国民が考えもつかない天下り、使途不明な特別会計の明朗化などの一部を解消するだけで、高齢者医療保険の解消につながるのではないか。多くの国民が怒っているのは、そうした無駄遣いを解消できない政治に対する不甲斐なさ、高齢者をねらい打ちした制度、負担の増減も把握せず制度を実施したことに対する不信であることを為政者は知るべきである。

<前                            目次                            次>