日々の抄

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 触った程度ならいいのか

2008年07月14日(月)

 大分県の教員採用や転勤に関わる贈収賄事件で教育界への不信が募っている最中に、また教育界への不信を増幅させかねない報道があった。
 都人事委によると、「都立高校の副校長(当時)が立川市内のJR青梅線の車内で20代の女性の尻を触った。女性が移動しても追いかけ、身体を押しつけるなどの痴漢行為を続け、都迷惑防止条例違反で現行犯逮捕された。暑気払いで飲酒後、帰宅途中だった」という。元副校長は警察の取り調べで当初は犯行を否認したが、その後2度の痴漢行為を認め、女性に被害弁償金を支払うことで示談が成立、不起訴となった。元副校長はその後、態度を翻し犯行を否認。都教委の聴取に「女性との接触は偶然で故意ではない」と弁明したが、都教委は痴漢行為を認定。07年1月に懲戒免職処分になった。

 その後、元副校長は「たまたま体がぶつかっただけ」などと主張して都人事委に不服を申し立てた。開示請求書によると、元副校長は「電車の減速で身体がよろけてたまたま女性にぶつかった」などと主張。都人事委は、女性と接触した直後に手首を捕まれ、大声で「痴漢」呼ばわりされても抗議や弁明を全くしていないことは不自然で、「偶然ぶつけただけで痴漢といわれることは考えにくい。故意による行為だったのは明らか」として、痴漢行為を認定した。
 だが、「短時間の出来事で、女性の着衣の上から尻を触った程度のうえ、自分の身体を女性の背中から尻まで押しつけた程度で痴漢行為として悪質であるとはいえない」「計画性や常習性もうかがえない」「懲戒免職とした都教委の処分は '裁量権の逸脱' である」「処分決定が逸脱していないか、十分考慮した上での決定。教育委員会の処分基準はあくまでも基準であり、個々の事情によってはこうした判断もありうる」と判断、処分の軽減を決めた結果、停職6カ月に処分を軽減し、6月には職場復帰しているという。

 都教委の処分基準で「痴漢行為は免職」と規定されており、なぜ温情とも思える判断が下されたのか。理解に苦しむ。都人事委は元副校長の免職の処分基準をそのまま適用したことを「社会通念に照らして重すぎる」と判断したという。最も問題になる判断は、痴漢行為が「故意による行為」と認定しておきながら、「短時間の出来事で、女性の着衣の上から『尻を触った程度』のうえ、自分の身体を『女性の背中から尻まで押しつけた程度』が痴漢行為として悪質であるとはいえない」としている点にある。痴漢行為が短時間なら、『触った程度』『押しつけた程度』なら許容されるということなのか。元副校長がいかにそれまで勤勉であったとしても、処分は「行った行為」によってなされるべきである。「個々の事情」とはいかなる事情なのか。痴漢行為に悪質や良質があるものなのか。

 こんな判断が罷り通るなら、これまで、同様の行為で処分されてきた人びとが不服を申し出たらどうなるのか。都人事委の判断は誤りであると言わざるを得ない。当事者が元副校長だから温情判断が下されたと思いたくないが、都人事委の判断は教育的見地が欠落していると言わざるを得ない。こんな事をしているから、「教育界は世間知らず。甘い」などと見られるのではないか。今回の判断が、被害にあった女性の気持ちを考えているとはとうてい思えない。そもそも、痴漢行為に対する処分が「社会通念に照らして重すぎる」と考えている人びとの「社会通念」こそ、「社会通念上」認められないのではないか。

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