日々の抄

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 知る権利はどうなるのか

2008年08月09日(土)

 ことし1月、中国「天洋食品製」冷凍ギョーザによる中毒事件が発生し、意識不明を含め多数の健康被害が出た。千葉県警の分析によると、中毒症状を起こした母子が調理後に食べずに冷凍保存したギョーザから基準値の10万倍超に当たる有機リン系殺虫剤「メタミドホス」を検出したという。
 事件後日本国内では、警察は生産の過程でメタミドホスが混入した可能性があるとみて調べていたが、中国は、製造工場に「メタミドホス」は見つからなかったとし、中国の主要メディアは、事件をほとんど報じることなく、中国国内市場にも出回っているため当局は回収を決めたものの、大部分の消費者、小売店は事件を知らないでいた。「中国と日本のメディアでは報道に対する姿勢や方法が異なる。科学的かつ完全な調査結果が出ていない現段階では慎重な対応をすべきだ」などとしたり、一部のウェブサイトでは、同問題が日本で大きく報じられたことについて「こんな事件を起こすから、中国食品は信用されなくなる」「中国のメンツは丸つぶれ だ」との声がある一方、「日本メディアがまた中国の悪口を誇張して書き立てている」「日本人はあまりに虚弱体質だ」と反感を表す書き込みもあった。いずれにせよ、中国側は事件の原因は日本にあると言わんばかりの態度を見せ、中国国内に問題があったことは認めてこなかった。
 しかし、中国江蘇省太倉市で1997年〜2002年に、中国製ギョーザによる中毒の原因とされる「メタミドホス」による中毒事故が654件発生。210人が死亡していたことが判明している。

 最近になって、中国「天洋食品」で作られ中毒症状を起こして回収され、保管されていた冷凍ギョーザを食べた天洋食品の従業員らが中毒症状を起こし、そのギョーザからメタミドホスが検出されていたことがわかった。その情報は、洞爺湖サミットの1週間前に、外交ルートを通じ、日本政府に伝えられていた。中国外務省は8月6日、報道官談話を発表。『製造元の「天洋食品」が事件後に回収したギョーザが中国国内で流通し、6月中旬、有機リン系殺虫剤メタミドホスによる被害が出ていた』と初めて公式に認めた。だが、中国国内では6日夜現在、そのことは一切報道されていない。中国外務省が同日出した報道官談話も、問い合わせたメディアに対し、報道官事務室がファクスしているだけという。都合の悪いことは国民に伝えられてないことはこのことでも明らかである。

 首相をはじめ、政府関係者がひと月もの間、国民の食の安全に関する「情報隠蔽」を図っていたことになる。このことについて、官房長官は「そういうこと(掘り下げるな)を発言する必然性もなければ、理由もなければ、全くありえない話。そういう指示をしたことはないし、それは事実無根」と述べている。しかし、中国政府からいつどのように情報が伝わったかについて、官房長官は「様々な情報交換をしているが、具体的にいつどういう形でというコメントはしない」としている。また、8日の日中首脳会談で早期の事実解明に向けた捜査協力を確認するとの見通しを表明しているものの、北京五輪の無事成功を至上命題とする中国側は、これまでに日中間の諸懸案の協議は五輪終了後に先送りしたいとの希望を伝えてきており、日本側も了承しているという。

 また、首相は6日朝に一連の報道を見て、「へー、知らなかった。どうなってんだ」と不快感をあらわにしたというが、記者とのやりとりで『Q:報告はいつの時点で? A:これはね、えー、正確に記憶していませんけれども、サミット、洞爺湖サミットのころです。Q:サミットの前? A:最中だったかな。うん。』と語っている一方、「この問題については、もうだいぶ時間がかかっています。早く決着をしなければいけないと、かねがね思っていましたけれども、今現在、中国側も捜査を継続しているという状況であります。進行中であるとご理解いただきたいと思っています」と述べている。国民の食の安全に関する中国からの情報を得た日を「正確には記憶していませんけど」などと首相が寝とぼけた事を言っていていいのか。無責任の極みである。事の重大さを把握せず、どこか「他人事」と思っているのか、と感じられてならない。
 外相は7日、「7月初めに報告を受けた。中国から捜査に支障をきたすので公表は差し控えてほしいと言われ、捜査の進展を期待して公表しなかった」と述べている。中国への配慮を優先して重要な事実を公表しなかったことになる。日本国民の知る権利より中国への気遣いの方が優先するという姿勢ではないか。いったい誰のための政治をしているのか。

 政府の対応は、日本国民の食の安全という国民の関心事に対し、中国側の事情を優先させており、中国に気を遣っているだけで、日本国民に気持ちが向けられてない。中国国内で捜査中であるとしても、詳細情報はともかく、ギョーザ中毒について、非を認めてこなかった中国から新展開である情報を伝えるべきではないか。国民に事実を「隠蔽した」ことは確かであり、首相が言うところの「捜査上の問題」は説明にならない。
 消費者庁新設を打ち出している政権でありながら、担当大臣である野田消費者行政担当相は6日夕、中国でもギョーザによる中毒事件が起きていたことについて「報道を通じて情報を得た」と述べている。政府内で情報の共有がなぜなされていないのか。

 回収されたギョーザがなぜ市場に出回ったのか。中国政府がオリンピック開催の直前になぜギョーザ中毒が中国国内にあると結論に至りそうな情報をもたらしたのか。疑問なことは多々ある。オリンピック後、中国政府がどのように事態の収拾を図ろうとしているのか。日本政府がそれに対し、自国民を重んじる対応をしていけるのか、注視していきたい。
 「竹島」問題で、韓国首相が竹島に出向き、韓国領であることを強烈にアピールしている最中、日本が竹島を自国領と考えているなら、「事態を静観する」などと言っていられないのではないか。国は正当と考えている主張は堂々とすべきである。周辺国に自己主張することがなければ、本当の国どうしの正常な関係は維持できまい。他国への配慮が過ぎる政治は信頼に値しない。

 政府が国民へ「情報隠蔽」と言われても仕方ない事態を見せ、ますます政治が信用できなくなってきている。米国原潜の放射能漏れでも「情報隠蔽」があったばかりだ。他にもいろいろ、国民に知らせてないことがあるのではないかと疑っているのは私だけではあるまい。過去にも「・・・・・の密約」というものがいろいろあったことを思い出した。

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