日々の抄

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 中国のことはいえない

2008年09月22日(月)

 農水大臣がまた辞めた。松岡(事務所問題)、赤城(事務所問題)、遠藤(献金問題)、太田(汚染米問題引責)と4人の大臣が任の途中で辞めざるを得なかったのはなぜか。今回の事故米事件は太田農水相の引責辞任で一件落着するほど簡単な問題ではない。辞任は総選挙対策のパフォーマンスとしかうつらない。国民はこんなことで納得もしないし、騙されることはないだろう。国民の食の安全を蔑ろにしてきた行政に対し、こんなことで問題回避できると思っているなら思い違いも甚だしい。国民は政治、現政権、行政に対し底知れぬ不信感を感じていることをみくびっていないか。

□ なぜ事故米が流通したか
 事故米とは残留農薬の検出などで食用に適さないとされたもの。加工用米として出回るコメは年間50万トン。うち半分をミニマム・アクセス(MA)米が占める。MA米とは、1993年のウルグアイ・ラウンド農業合意により、日本が自由化を回避するのと引き換えに受け入れたもので、「最低義務」として年間77万トンの輸入を決められた「国際約束」。毎年、政府が米国などから買い付けており、その量は国内消費量837万トン(07年度)の10%弱に相当する。転売された事故米はMA米から発生したもの。1キログラム当たり3〜12円と、50〜70円する通常のものに比べて圧倒的に安価である。政府、商社から購入した業者はこの価格差を利用して、不正転売で利ザヤを稼いでいた。今回の事故米からは、中国製冷凍ギョーザからも検出されたメタミドホスや、カビ毒アフタトキシンが検出されている。産地偽装や消費期限改ざんとは比べものにならい食の安全を脅かす重大な背信行為であり、許し難い犯罪行為である。
 「メタミドホス」は殺虫剤、「アフラトキシンB1」はカビ毒で遺伝子を傷つけることに起因し発ガン性が知られている。「アセタミプリド」は殺虫剤であり、これらが事故米から検出されている。03〜08年7月までの汚染米約7400トンの販売先は20社。三笠フーズ(米販売会社 1779トン)、浅井(接着剤製造販売会社 1297トン)、太田産業(肥料製造会社 1136トン)、島田化学工業(澱粉製造会社 236トン)の4社が判明しているが、残り2953トンは不明のままという。この内、島田は「欲しくて買ってない。農政事務所からの依頼だった」と証言している。「販売先が不明」とはいったいどういうことなのか。農水省いったい何をしているのか信じがたい。
 「三笠フーズ」の不正転売問題で、同社が今年3月、農水省大阪農政事務所に、購入した汚染米の流通先を尋ねられた際、実在しない取引ルートを報告していたことが、元従業員の証言でわかっている。同事務所は内容をうのみにし、虚偽報告は発覚しなかった。「メタミドホス」に汚染された中国産もち米を転売する際、残留農薬の検査をしたのは、約20回の出荷のうち数回にとどまり、大半は検査していなかったことを同社財務担当者が13日、明らかにした。同社はこれまで「出荷時にすべて検査し、国の基準値(0.01ppm)以下であることを確認している」と説明していた。農林水産省も検査が一部にとどまっていた事実を把握、調査を進めている。

□ どこにどれだけ流通したのか
 アフラトキシン残留米:鹿児島県の2造酒メーカー、残留農薬基準値超過米:福岡、熊本、鹿児島の5酒造メーカー。この結果、アサヒビール、焼酎約65万本、福徳長酒類の焼酎約8万本が回収対象になっている。両社の商品の原酒は鹿児島県の酒造メーカーが製造し同社も自社製品30万本分を回収中。このほか鹿児島県2社、熊本県3社、福岡県1社が焼酎や清酒に事故米を使っていた。
 「三笠フーズ」の事故米を「食用」に転用し、基準値を超えるメタミドホスが検出されたため事故米とされた中国産のもち米が、赤飯やおこわなどの食用として、近畿2府4県の病院や特別養護老人ホームなど計119カ所に流通していたことが11日判明した。いずれも給食会社「日清医療食品」の近畿支店(京都市)から各施設に納入されたもので、多くが消費されたとみられる。
 京都の中学47校。「浅井」から食用に転用された事故米の一部が、京都市内の学校給食業者を通じて、同市立中学校47校の給食の赤飯として提供されていたことが18日判明。事故米の使用が学校給食で確認されたのは全国で初。
 事故米で作った「おむすび赤飯」「おにぎり&いなり」の商品名で計10万2053個が、愛知、岐阜、三重、福井、石川、静岡、長野、滋賀各県のスーパーやコンビニ計数百店舗で販売された。
 千葉、長野の学校給食。島田化学工業がカビの付着した事故米から製造した「米でんぷん」を使用。千葉県と長野市で学校給食用の卵焼きに使われ、計約9万食が提供されていた。
 「三笠フーズ」の事故米が京都市の保育園など2施設に給食用として納入された中国産もち米の在庫から、有機リン系殺虫剤メタミドホスが検出された。濃度は基準値の2倍に当たる0.02ppmという。
 滑川市で製造の胃腸薬。滑川市の製薬会社は汚染米が混入した恐れがあるでんぷんを使っていたとして胃腸薬の自主回収を始めた。「熊の胆」として親しまれている代表的な家庭配置薬という。回収は島田化学工業が製造した汚染米混入の可能性があるでんぷんを原料に使っていたため。
 岐阜県多治見市民病院は20日、4〜7月に病院内の売店で汚染米で作られ販売されていた疑いがあると発表。
 兵庫県加西市は20日、「島田化学工業」が事故米から作ったでんぷんが含まれた商品を学校給食に使っていたことを明らかにしている。
 愛知37市町村学校給食オムレツ。「島田化学工業」から仕入れた汚染米を使用したオムレツが県内の小中学校などの給食として提供されていた。県内の計37市町村に上り、03年度からの5年間で延べ45万食が提供されていた。

□ 流通先の公表の仕方に問題はないか
 16日に流通先の企業、施設の実名を農水省が公表した。焼酎などの最終加工者を含めた流通業者が約370社に上ることを明らかにした。これまでに判明していた和菓子、米菓メーカー、給食施設に加え、外食企業も含まれていた。373カ所の内訳は、和菓子154社、米菓メーカー30社や外食企業5社、日清医療食品が近畿2府4県で出荷した100カ所を超える病院や老人ホーム、米穀仲介・卸売業者50社など。地域別では、宮崎(66)、兵庫(62)、大阪(61)、熊本(41)の順で多くなっている。だが、公表に12件の誤りがあったことをその後、農水省が公表している。農水省HP18日付では『先般、事故米穀が広く流通していることが次々と判明する中で、消費者の方々の不安解消と信頼回復を最優先に、全ての事業者のリストを公表したところです。一昨日(16日)、公表した事業者のうち、別添の事業者については、事故米穀を購入していたものの、購入後、在庫の保有や非食用等の処理をしており、消費者等には販売されていないことが確認されましたので、お知らせします』などと事実関係を伝えるのみで、販売されたか否かという販売店、消費者にとって重要な事実を確認することなく、かつ陳謝の一言もなく発表している「お役人仕事」そのものである。千葉、静岡、岐阜、大阪、奈良、宮崎各1、兵庫3、鹿児島2の11件について、ぬれぎぬを着せられたことによる、信頼喪失、被害に対し農水省が損害賠償するべきことは言うまでもない。

□ 公表されたが汚染されてなかった
 汚染米を過去に使ったとみられる赤穂市内の5業者が現在販売している菓子を検査した結果、メタミドホスなどを検出しなかったと発表した。5業者は今年8月まで三笠フーズから米を仕入れたが、検査した菓子は9月以降に仕入れた餅米粉で作っており、県は「安全性を確認した」とアピールしている。メタミドホスに汚染されたとみられる中国産餅米が菓子メーカーや米穀加工業者ら62施設・事業者に約83トン流通した。
 公表された多くで「健康被害はなかった」としているが、はたしてそうなのか。もし、食した直後に健康被害がでればそれは「猛毒」に違いない。基準値を超えても健康被害がなかったから安心などと考えていいものなのか。特に「アフラトキシンB1」の被害は深刻である。もし何年か後に健康被害が発生してもそれが「事故米による被害」などと判定できようはあるまい。「健康被害がなかった」などと協調すべきではない。

□ 呆れた無責任発言
 11日、農水省の白須敏朗事務次官は「立入調査がしっかりしてれば防げたという議論はある。調査は不十分だったと申しあげている。が、それによって現段階でわれわれが責任あるとは考えていない」と述べ、12日に農相は「人体に影響がないことは自信をもって申し上げられる。だからあんまりじたばた騒いでいない。ただ、これでいいというわけではない」「そもそも焼酎は蒸留する過程で有害なものが分かれていくから(有毒性は)ほとんどない。中国ギョーザの(混入農薬の)濃度に比べて60万分の1の低濃度」「いいかげんに問題を扱っているんだろうと言われそうだから、あまり安全だ安全だと言わない。言わないんだけど安全だ」などという発言があった。食について国民の安全健康の最高責任を負うべき農水省トップの、自覚と問題意識のない発言に誰しも驚かされたに違いない。彼らは初めからその職にあるべき人物ではなかったのではないか。

□ 事故米による問題は事前に防げなかったのか
 そもそも、減反政策をとっていながら、外国米を買わされなければならないことに問題があるが、政府は「事故米」をなんとか処理しなければならない立場からか、「業者に買っていただく」立場にもあったらしい。「三笠フーズ」への検査は事前に業者の都合にいい日が連絡され、ペーパーだけの検査であったという。また、農政事務所関係者が業者から接待されていたという。「接待はされたが、手心は加えてない」などという言い訳を信じるわけにいかない。三笠フーズの元社員が19日、農水省近畿農政局大阪農政事務所・消費流通課の職員から、今年6月ごろに電話で「本省が関心を持っている。行動を慎んだ方がいい」と言われたと明かしている。元社員は「今となっては(不正転用への)警告だったかもしれない」と話しているが、官民の癒着そのものではないか。「三笠フーズ」の不正を告発する複数の情報が昨年1月、農水省に寄せられていたことが分かっているが取り上げられなかった。昨年世間を揺るがした「ミートホープ」の食肉偽装でも似た話があった。農水省は一向に学習してないらしい。
 関係者の話によると、輸入米が工業用ノリに使われてないという。ましてや、事故米がどのように流通し、消費されるのかという素朴な疑問に農水省関係者は答えようとする努力をしてこなかったのではないか。「三笠フーズ」に立ち入り調査を行った担当職員の処分を検討することを明らかにしているが、末端の職員と大臣、事務次官が辞職するだけで一件落着するのはおかしい。農政実務に長年携わっている官僚こそ責任を明らかにすべきである。
 消費者に届くまでに多数の業者が介在している米の流通は、「出所」がまったく分からなくなる仕掛けにつながっている。小泉改革によって米の販売・流通を自由化する食糧法の大幅改正で、米販売業者の規制緩和も行われた。登録制だったのものが、届け出るだけで販売可能になることも一因ではないか。「中国産は危険と言われ国産品と思っていたらこの始末だ。いったい何を信じたらいいのか」という素朴な疑問に行政はどう答えるのか。
 中国で19日、日本産の焼酎が輸入停止になっているという。一部の「拝金主義者」と「怠慢な役人」のために日本の信用が失墜させられつつあることは断じて許し難い。一方でメラミン混入が疑われる中国粉ミルク汚染が日本でも現実的になってきている。安心して食べ物を口にできないことは最大の不幸だ。農水省は「当たり前の」仕事をしっかりやるべきである。もう役人仕事をどれほどの国民が信じなくなっているか思い知るといい。被害にあった関係企業、施設は国家賠償を求め、行政の怠慢を記録に残すべきである。自民党はのんびり消化試合のような総裁選茶番劇をやっている場合ではないだろう。

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