日々の抄

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 オバマ氏に期待する

2008年11月10日(月)

 米国の次期大統領にバラク・オバマ氏が圧倒的強さで選ばれた。初の黒人大統領が選ばれたことに米国のみならず諸外国でも好感を持って受け取られているらしい。2期8年にわたるブッシュ共和党政権での経済的破綻を含めた閉塞感に対し、「変革」を求めてのことである。戦争を終結するためのオバマ氏の政策はHPによると
『 1. イラクの戦争を終わらせる。月に1ないし2連隊の軍隊を撤退させる事によって。
2. 最終的に、タリバンとの戦いを終える。アルカイダを根絶する。アフガニスタンとパキスタンの人々に投資する。条件付きでパキスタン政府に援助をしつつ。
3. 核兵器の拡散を阻止し、すべての野放しの核物質の世界への拡散を安全にする為に積極的に行動する。
4. 対外援助を2倍にし、極度の貧困を半分に削減する。
5. クリーンなエネルギーの将来に投資し、外国の石油から離れさせる。グローバルな気候変動の脅威に対して世界の先頭に立つ。
6. 兵士、海兵隊、特殊部隊の数を増やし、軍事力を再構築する。十分な訓練と部隊の配備の合間の休息時間を要求する。
7. 友人と話をするだけでなく、敵とも話をし、アメリカの外交を更新する。国務省外交局や平和部隊の人数を増やす。アメリカの声の部隊を創設する。

であり、内政面では『中低所得者重視、外交・安全保障では国際協調と対話に軸足を置き、富裕層優遇やイラク戦争に代表される単独行動主義が問題となったブッシュ政権の路線からの大胆な転換を目指す。』
ことから、米政権交代は国際社会にもいろいろな面で変化が波及してきそうである。

 「黒人初の大統領」と伝えられるが、ケニア人留学生を父に、白人女性を母に持つオバマ氏は、黒人奴隷の子孫ではないために、奴隷として従属させられていた「黒人としての歴史性」は希薄であり、真の米国黒人とは異なるとも指摘されている。それに対し白人層はオバマ氏に安心感を抱き、選挙で有利に働く結果になったと伝えられている。昨今は「差別」は解消しているのか。11月8日の朝日新聞の天声人語に以下のような記載があった。
 『米国では履歴書に写真を貼ることはしない。肌の色による書類審査の差別を防ぐためである。そのことで差別がなくなった否かを調べるため、シカゴ大学が行った3700通の架空の履歴書を送るという実験によると、白人に多いとされる名前に面接通知が多かったが、黒人につけられがちな名前には少なく、1.5倍の差がついた。平等をうたう奥になお根深い差別が潜む一例である。自ら勝ち取った法や制度の平等は、皮肉なことに黒人を追いつけてきた。「それでも貧しいのは努力が足りないからだ」。責任を個々の黒人に帰する風潮を米社会は強めてきた・・・・・』。
 オバマ氏の活躍によって米国に長年根付いてきた「差別」がなくなることを願うのみだが、日本国内の「社会格差」にも同様な「貧しいのは努力が足りないからだ」という考えが払拭されていない現状にも通じるものがある。つまり、就職氷河期の人びとに対し国はいったいどのような手を差しのべてきただろうか。就職できたとしても、いつ解雇されるか分からない現状は異常としか思えない。米国の経済政策の失策が全世界を覆った。その影響のため日本国内の最優良企業でさえ1000人もの非正規雇用の社員の内、800人がある日突然解雇されている。病んでいる米国に新大統領が登場し「変革」がもたらされる期待が膨らんでいるが、現在の日本国内にはそうした希望は皆無に思えてならない。

 オバマ氏は民主党指名受諾演説の中で、『・・・今日この夜、前よりも多くのアメリカ人が職を失い、前よりも多くの人が前よりも少ない賃金のため前よりもたくさん働いています。前よりも多くの人が家を失い、さらにたくさんの人が、自分たちの家の価値があっという間に目減りするのを目の当たりにしている。前よりも多くのみなさんは、車を持っていても運転するだけの金がない。クレジットカードの請求を払えない。学費などとても払えないという状況にある。この困難な状態は、全部がぜんぶ政府のせいというわけではない。しかしこの困難な状況に政府が反応しないのはワシントン破綻のせいであって、ジョージ・W・ブッシュの失政のせいです。アメリカよ、過去8年間のこの国の状態が、私たちにふさわしいものであるはずがない。私たちはもっとよい国で暮らす資格があるはずです。この国はもっといい国のはずです。オハイオ州で一生まじめに働いてきた女性が退職を目前にして、今ここで大病をしたら老後は悲惨なものになってしまうなど、そんなスレスレの状態でいなくてはならないなど、そんな国のままでいいはずがない。あるいはインディアナ州のある男性の場合。20年も使い慣れてきた機材が梱包され、中国に送られていくのをなすすべもなく見ていた彼は、家族に失業したと伝えなくてはならず、どうしようもなく情けない思いをした。その体験を私たちに語るとき、声をつまらせて言葉を失った。働く人がそんな思いをしなくてはならない、そんな国でいいわけがない。帰還兵が路上で眠るしかなく、あちこちで家族が貧困に陥るのに何もしない。あるいは大都市がみんなの目の前で水没していくのに、手をこまねいてばかりいる。そんな政府よりも、私たちははるかに思いやりが深い国民のはずです・・・・』とある。

 特に目を引くのは『経済が強いかどうかの指標となるのは、億万長者が何人いるかではありません。フォーチュン500に名を連ねる企業がどれだけ収益を上げているかでもない。経済の力を計る指標は、誰かがいいアイディアを思いついたら、駆けに出て新しいビジネスを始められるかどうかです。あるいは、チップを頼りに生計を立てているウェイトレスが、病気の子供の面倒を見るために1日休んでも首にならないかどうか。勤労の尊厳を尊重する経済かどうかです。』である。つまり、従前のように一部の富んだものを更に富む方向でなく、まじめに労働する者が、安心して生活できるようにしたいという思いが伝わってくる。「勤労の尊厳を尊重」云々は日本の政治家、企業経営者は心して聞くべきである。

 大統領勝利演説を聴くために数万人が集まり、異様なまでもの熱気が伝えられていた。演説に涙を流す人びとを見ると、米国が新しい方向に向かいはじめるのかと思った。一方、日本でも数年前に、「改革なくして成長なし」という熱弁に酔って国中に熱気が溢れ、「何かいいことが起こるかもしれない」という淡い期待を持たされた。その結果、地方が疲弊。社会格差が広がり、先の見えない状況に追い込まれている。いったいあの改革で国民生活のどこがよくなったというのか。

 国民があまりにも一個人に過大な期待をかけることには大いなる危険も含んでいる。だが、オバマ氏は黒人なるがゆえに差別を受け辛苦をなめてきたことを考えると、苦労もなく世襲議員に甘んじている日本の政治家にない「変革」は期待できそうである。巷に、オバマ氏の暗殺説が囁かれている。ケネディーの二の舞になることがあるなら、米国の闇は深くなるだけである。

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