日々の抄

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 ばらまきの目的は何か

2008年10月27日(月)

  麻生内閣が迷走している。
 10月30日に、財政支出5兆円、総事業規模26.9兆円におよぶ新総合経済対策を発表した。日々の生活に直結する内容の概要は以下のようなものだ。
○定額給付金を支給する・・・所得制限を設けず全世帯に、1世帯4人家族で6万円程度支給。子どもと高齢者の人数に応じて増額する。
○住宅ローン減税・・・税額控除の上限を600万円程度に拡大。
○雇用保険料引き下げ・・・(現行1.2%の保険料率を0.8%に)平均年収579万円だと月960円減額。
○高速道路料金引き下げ・・・平日は全車種が3割引き、土日祝日は普通車・軽自動車限定でどんなに走っても最高千円(大都市圏は除く)。ただし、自動料金収受システム(ETC)を設置した車に限られる。
○介護報酬引き上げ・・・常勤介護労働者の月給が2万円程度増額?
○子育て応援手当の支給・・・第2子から月3千円(年間計3万6千円)支給で検討
○妊婦検診の無料化・・・無料検診の回数を現行5回から14回に拡大。
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 首相は同時に、「経済状況が好転した後に、財政規律や安心な社会保障のため、消費税を含む税制抜本改革を速やかに開始する。大胆な行政改革を行った後、経済状況を見たうえで、3年後に消費税の引き上げをお願いしたい」としている。
 増税についてだけ考えると、少なくとも「3年間は増税しない」と受け取れないこともない。首相は今回の経済対策によって、景気を回復させ、その結果増税できるほどの経済状況になるので、増税に踏み切れる、と考えているらしいが、それほど簡単なものなのか。そもそも、小渕内閣での「地域振興券」の場合は32%が消費に廻っただけだったというが、今回はどれほどの経済効果を期待してのことなのか。一人あたり1万円程度のカネをばらまいた結果、経済状況がよくなるほど国民は豊かではない。
 
 消費税が10%に増税されれば、ばらまかれた1万円余は、たかだか数ヶ月で元を取られることに気づかねばなるまい。

 国民が最も関心を示している「定額給付金をの支給」について、当初「全所帯へ支給される」と思っていたら、7日夜、所得制限を設ければ方針転換になるという指摘について、「全然構わない。別に私の所に(支給が)来るわけではないと、はなから思っている」と首相が語っているのはどういうことか。このことについて、閣僚がそれぞれの考えを述べている。6日。河村官房長官は支給基準を年収1500万円とすることについて、「高額所得者をどこで線引きするかという議論の中の一つの案だ」と述べた。給付方法については、「法改正を伴わないでやれる方法を検討している」と語り、受給者が市町村窓口で対象者であると申告する「自己申告方式」を軸に調整する考えを示した。また、笹川尭総務会長は7日、高額所得者に自発的な受け取り辞退を促す案が浮上していることに関連し、「国会議員と国家公務員も辞退すべきだ」との考えを示した。
 また、政府はばらまき批判をかわすためにも、所得制限を設けず、引換券を全世帯に配布し、市区町村の窓口に持参した世帯に支払う方式を導入し、その中で、引換券に所得制限額を明記して高額所得者に申請しないよう呼びかける案も出ていた。与謝野経済財政相は7日「『高額所得者は辞退する』というのは、制度ではない。そういうことはあり得ないと思っている」と述べ、高額所得者に給付金受け取り辞退を要請する方式に否定的な見解を明らかにしている。野田消費者行政担当相が同日「正直、最初の首相の『全世帯』発言でよかったのでは」と批判。給付金自体もばらまきイメージが強く、党内では「地元に帰ると評判が悪い」と自民党内から悪評が出ていた。首相は10日、首相官邸で記者団に対し、定額給付金の所得制限について「法律いるから、めんどくさいことになりゃせんか?」とし、給付金が不必要と思う世帯が自発的に辞退する方式がよいとの見方を示している。

 『「めんどくさい事になる」から、一人あたり一万二千円を貰いたい世帯にはあげる。支給が不必要な豊かな世帯は辞退すればいい』ということなのか。首相の経済対策案に閣内からいろいろな考えが、マスコミを通して伝えられるのはどういうことなのか。子どもの学級会でいろいろな意見が出て、クラス決議ができないで、「できるだけ早くしたいこと」ができずにいつまでも論議していることに似ている。首相は閣僚にごちゃごちゃ言わせずに、指導力を発揮して「全世帯に支給する」という、歴史に残る愚行を実行すればいいだけのことではないか。

 だが、そもそも「定額給付金」の原資は国民が支払った税金ではないか。それを等しくばらまくことにどれほどの意味があるのか。今回の「定額給付金」支給を始めとする対策は、選挙対策としか思えない。多くの国民が支給金を貯蓄にまわしたら、経済はますます冷え込むだけ。「高速道路料金引き下げ」がETC車に限られるというのはどういうことなのか。ETCに関わる関連出先企業の利益に繋げたいという、うがった考えは否定できまい。また、景気を回復するために一回だけ一万二千円支給されて生活の足しにできると思う世帯の年間所得が1500万円と考える人はいまい。昨今の状況を考えれば、年収1500万円の世帯がどれほどいると考えているのか。

 実の上がる可能性の低い「定額給付金」などを考える前に、しかるべき金額を、仕事を求めても職に就けず生活の不安を抱えている人びとに有効な、就職支援に当てた方がどれほど有効だろうか。真面目に働けば安定した生活ができ、老後の備えもできる体制にすることが政治のなすべき最大の責務ではないか。「埋蔵金」などという、国民が汗水して拠出した税金を、役人が国民に隠して蓄えている金があるなら、それらを直ちに白日の下にさらし、国民に還元することが急務である。

  朝日新聞の世論調査によると「定額給付金が必要ない」とする数が63%という。首相は10日、『必要ないというならそれはそれで結構。その分よそに回せる』『必要な人もいる。貧しい人は必要だと思っているんじゃないですか』などと語っている。世の中に富んだ人間と貧乏人がいることを認めた、上からの目線での発言は横柄そのものだ。

 政府は間違っても、国民にカネを恵んでやっているなどと思い上がったことは考えないことだ。

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