知りたい気持ちを作るために | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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2008年12月12日(金) 「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS2007)の調査結果が発表された。 上位の成績推移は以下の通り。 小学4年生の順位
中学2年生の順位
この表から、東アジアが多数を占めていることがわかる。専門家は「資源の少ない東アジアでは、IT分野など理数系に特化した人材を育てようと、国策で初等教育に力を入れている」「学ぶプロセスを重視する欧米に対し、東アジアは『学ぶ』こと自体に力を入れ、ある意味、東アジアは詰め込み教育に近く、小中学校の段階では効果があるが、創造性や好奇心が損なわれるとの批判が出始めている国もある」としている。 全教科で3位以上の成績を収めたシンガポールは、徹底したエリート選抜システムを作り、小学校高学年から試験によって振り分け、同じ学校でも成績によって違うコースを用意し、徹底した能力別教育で競争心を煽っているという。全教科で3位以上の台湾は中学3年で全国一斉の基礎学力テストを行い、全体的な底上げを図っているという。 日本ではどうか。文科省がまとめた概要は以下のようなものだった。 『 ・平均得点はすべて前回以上。 ・ 前回調査から調査参加国が増加した(小:25→36カ国)が、国際的に見て上位を維持。 【教科別の結果】(平均得点:全生徒の平均得点を500点,全生徒の3分の2が400点から600点に入るように標準化した各国の得点) 小学校 2007年調査結果(36カ国) 前回(2003年)の調査結果(25力国) 算数 568点(4位) 565点(3位) 理科 548点(4位)(3位の香港と有意義差なし) 543点(3位) 中学校 2007年調査結果(48カ国) 前回(2003年)の調査結果(46カ国) 数学 570点(5位) (4位の香港と有意義差なし) 570点(5位) 理科 554点(3位) (2位の台湾と有意義差なし) 552点(6位) (ただし、2007年調査結果はいずれの教科も平均得点は全て前回以上であるが、統計上の誤差を考慮すると前回と同程度となる) 【わが国の児童生徒の特徴】 算数.教学、理科に対する意識等については、 ・勉強が楽しいと思う割合は、前回調査と比べ、小学生では増加傾向が見られ、特に理科で国際平均を上回ったが、中学生は国際的に見て数学・理科ともに依然低い。 .希望の職業に就くために良い成績を取ると思う中学生は、国際的に見て依然として少ないが、前回調査と比べて教学、理科ともに増加傾向。 学校外での時間の過ごし方については、 ・依然として宿題をする時間が短く、テレビやビデオを見る時間が長く、家の手伝いをする時間が短い。 ・小学生の宿題をする時間は増加傾向 』 国際的な学力の調査をする経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)は、15歳を対象に3年に1回実施し、「知識の活用や読解力」に主眼を置いている。今回の調査のTIMSSは、主に「授業で習得した知識の定着状況を見る」調査で、出題傾向が異なる。文科省は、「小中学生の理数の学力低下に歯止めがかかった」とみているがいくつかの点で課題を提示しているように思える。 算数・数学で「苦手と全くそう思わない、思わない」は小4で64%、中2で37%で苦手意識が増加している。「勉強が楽しいか」という問いに「強くそう思う」のは小4で34%、36カ国・地域中32位。中2ではわずか9%で、48カ国・地域中46位。「そう思う」を合わせた肯定的な回答は小4で7割に達するが、中2では4割に低下している。「数学を勉強すると日常生活に役立つ」に「そう思う」とした中2は71%(国際平均90%)で47位。 理科では、「勉強が楽しいか」に対し、小4の57%が「強くそう思う」、30%が「そう思う」だが、中2では18%(ワースト3位)、40%に落ち込んでいる。中2の「理科を学習する重要性の意識」で「日常生活に役立つために必要」は53%で、最下位であった。 学校外での時間の過ごし方について特徴的なのは、日本の中2はテレビ視聴時間が1日2.5時間で1位、小4も2.0時間で、シンガポールにつぐ2位で、「家の仕事をする」は小4が0.8時間で最も短く、中2も0.6時間でワースト2位だった。 小学生では理科に興味をもっているが、中学生になると苦手意識をもち、学習が楽しいと思わなくなる傾向が今回の調査でも明らかにされている。算数・数学でも同様の傾向がある。小学生は「生き物、天体、電気、化学反応」などの現象に目を輝かせるが、中学生になると、ただ「面白い、すごい」だけで済まなくなってくることも一因だろう。高校受験に対応するため、「分からなくても覚えちゃえ」が先行すれば、「意欲的に、興味を募らせて探求的に知ろう」ということにはつながりにくい。 ただ、新しいことを知り、探求的になるためには「知識と辛抱」が必要である。はじめに分からないこと、興味を惹かれないことがあっても、「分かろうとする努力」によって、さらに高度な知識や好奇心につながることが多い。TVを見る時間が多く、勉強以外に楽しいことがあまりに多い現代の子どもは、「学習をする気になり、努力する」体勢にすることが簡単でないことは確かだ。 学習成果を上げるための最低必要条件は、「知りたい」という気持ちが持てるか否かである。知的好奇心は努力なしには得られない。幼時からの詰め込み学習は、すぐにいい成績が収められても、更に意欲的になれるか否か疑問の残る場合がある。 理科について、児童・生徒が「面白いと思うこと」は何だろうか。年齢によって異なることは自明である。 小学生では、興味を惹く楽しい現象にたくさん接し、経験させることだ。新人教員の中に、「ゆとり教育」のため、自分が小学生時代に授業で経験してなかったことを教えなければならない場合があると聞く。小学生は現象の説明、理由は十分でなくてもいい。要は、「はてな?」「なぜ?」という「疑問符」をたくさん持たせ、「不思議なこと、面白そうなことが沢山ある」と感じさせることが肝心である。中学生は、諸現象を、「定性的」に、また可能なことは「定量的」に体系化し、理解させることが望まれる。そのためには、「実験」が必須である。器具が不足しているなら、身近な道具を使えばいい。中学生は知識が、「点」でなく「線」でつながっていることを経験させることができるといい。高校では、小中学で持っていた、「なぜ?」を定量的に捉える力をつけさせなければならない。同時に可能な限り、「実験」を数多く経験させることが望まれる。器具が不足していれば、1校時内で2つの実験を交換してやらせればいい。教師によるデモ実験が必須であることは言うまでもない。群馬県で「5分間実験集」を研究会で編纂したことがあるが、これも一法である。 生徒が最も興味を惹くのは、「これは、まだ分かってないことなんだよ」の言葉である。「知られていること」と「未解決または分かりそうにないこと」を明示すると、「そうか、わからないことだらけなんだ」などとして、興味がわき始めればしめたものである。 また、身近な現象を授業に結びつけることも興味を喚起する方法である。たとえば「ガス冷蔵庫でなぜ冷やせるのか」「冷蔵庫のドアーを閉めきった部屋で開けたら、部屋の温度はどうなるのか」「廊下に水を撒くとすべり易いが、指先を湿らせると滑りにくいのはなぜか」「2階に持ち上げた燃やした後の灯油の位置エネルギーはどこにいくのか」「蛍光灯はなぜ点くのか」「日の出の太陽は本当に大きく見えるのか」などいくらでもある。 たくさんの実験、観察を経験させればいい結果に結びつくことが分かっていても、授業進度のノルマ、実験器具が不足、準備のための時間確保ができにくいなどがあるだろうが、児童・生徒が「先生、面白い授業だった。やる気になったよ」と言われるための努力と工夫が教育現場に望まれる。施設設備、器具に予算がまわってこないことは深刻である。物理教育にかつて「PSSC」「ナフィールド物理」があり、毎日の授業と実験準備が楽しくて仕方なかった時代があった。学力向上を考えるなら、文科省はまず、予算を潤沢に現場に配布する努力をするべしである。 国際調査が行われるたびに、一喜一憂する必要はない。授業中、生徒に、「へーそうなんだ。面白いね」と言わせる授業をしようとする教員の努力が、学力向上につながることを忘れてはなるまい。 参考url http://www.nier.go.jp/timss/2007/gaiyou2007.pdf |
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