日々の抄

       目次    


 競わせればいいのか 

2008年12月23日(火)

 全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の分析・活用方法などを議論する文科省の専門家検討会議が15日、都道府県教育委員会が市区町村・学校別の結果を公表することを禁じた実施要領(脚注参照)の方針を「来年度以降も維持すべきだ」とする見解をまとめた。文科省は見解に沿って年内にも実施要領を作成し、各教委に通知するという。
 実施要領は、都道府県教委が市区町村名や学校名を明らかにして結果を公表することや、市区町村教委が学校名を明らかにして結果を公表することを禁じている。検討会議は「序列化や過度な競争につながらないよう十分配慮すべきだ」として、基本方針を維持するのが妥当と判断した。
 また、文科省がどんな資料を都道府県教委に提供するかについては「弾力的な対応を可能とする」ことを求めた。教委側が求めない資料は提供しない措置をとれるようにすることが狙い。教委が知事部局へ情報を渡したくない場合や、情報公開請求への対応で困難が予想される場合は、資料を受け取らないことも可能になる。
 市区町村別の結果公表について、大阪府や秋田県で一律公表に踏み切る動きがあったが、文科省は、新たな方針に沿えば、「(了承した市区町村については実名で成績を公表した)大阪府の対応は適切ではなく、(市町村名を伏せた)秋田県の対応は実施要領が認める範囲内」としているという。
 大阪府は10月16日、報道関係者などからの情報公開請求に応じた結果、43市町村のうち32市町の平均正答率を全面開示している。

 大阪府の橋下知事はこの文科省の方針に対し、「日本は終わった。文部科学省の官僚は直ちに全員入れ代わった方がよく、教育を担っているなんて最悪だ」「文科省は本当にバカ。選挙で選ばれた文科相以外は全員、入れ替わった方がいい」「各市町村が真剣に学力向上に努力するためには学力テストの結果の公表が欠かせない」「国は自分たちで責任を持てなくなっている。もし大阪府の教育委員会が、国の言いなりになってデータはいらないと言うならば、わたしは教育委員会には一切予算をつけない」「最悪の教育を受けたわたしたちの世代が、こんなばかげた教育政策を改めないと、不幸な子どもがどんどん増えてしまう。文部科学省は許せない」「都道府県教育委員会に成績を渡さないというなら、大阪府教委は義務教育から撤退する」などと常軌を逸し、感情的に過ぎた批判をしている様は異常としかいいようがない。文部行政は学力テストの公表だけでないことは言うまでもないが、それをもって「日本は終わった」などと語っている様は、思い上がりと思い違いにしか見えない。
  橋本氏は教育討論会で、「競争を否定してはいけない」「先生から『競争はよくない』と教えられた子供たちも、高校を出たとたん競争の荒波にほうり込まれる」「競争を否定できるのは絶対に倒産がない公務員だから。それが教員の無責任さだ」と述べているが、競争させれば学力が向上すると信じてやまないらしい。同氏は朝日新聞に対して「朝日が早くなくなれば世の中のためになる」「人の悪口を言う朝日新聞のような大人が増えれば日本は駄目になる」と述べている。自分の考えに合わないものを攻撃し消去しようとする様は、「人の悪口を」言うことにならないのか。単なるパフォーマンスと考えれば腹も立たないが、やんちゃ坊主が気に入らない友達に悪口雑言を浴びせて関心を惹こうとしていることによく似ている。大人げない物言いはみっともないことこの上ない。自分の考えが通らないからと行って「義務教育から撤退する」など自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。予算配分に関する発言は権力の卑怯な横暴、不遜そのものである。

  鳥取県の平井知事は全国学力テストの市町村別の成績を自主公表して学力向上策に取り組む市町村に対し、来年度から教育予算を手厚く配分する方針を明らかにし、「情報公開をしているか否かで、(県の支援に)差を付ける考え方があってもいい」としている。鳥取県は、来年度以降の全国学力テストの市町村別・学校別結果を開示するための情報公開条例改正案が可決している。それによると、開示の前提として、学校の序列化や過度な競争を助長しないように、開示請求者に対し、情報の使用に「配慮」を求めており、「学校ランキングがネットなどに流され、学校現場に悪影響を及ぼす」という市町村の不安解消を目的としているというが、これが公開に当たるか否か問題である。ここでも「予算を手厚く配分」などと考えているが、予算が自分の財産の分配をしているような錯覚があるようで不愉快である。

  一方で、仁坂和歌山県知事は全国学力テスト結果の開示問題について、「公開に反対ではないが、無理やり公開させて競争させても真の学力向上にはならないので、公開しろとは言わない」などと述べている。また、子どもたちに考える力が不足していることを指摘し、「『なぜ、どうして』を奨励し、自分で考えて学ぶ楽しさを知ってほしい」と語っている。まことに頷ける考えであり、和歌山県の児童と学校関係者はは幸せである。

 文科省の調査によると、市区町村では1094教委(59・5%)が「公表しない」と回答。「すでに公表」か「公表予定」とした745教委(40・5%)を大きく上回った。また、都道府県教委が自治体名をあきらかにして市町村別データを公表することには、1748教委(95・3%)が否定的で、肯定的なのは86教委(4・7%)にとどまった。また、公表するとした教委の中でも、正答率を実際の数値で公表するのは207教委(11・2%)で、数値を一切公表せずに、「全国平均を上回る」などの文章表現での評価を公表にとどまったのは230教委(30・9%)にのぼったという。一方、都道府県でも、公表に前向きなのは、わずか11教委(約23・4%)で、34教委(72・3%)が「市町村別の公表はしなくてよい」と回答。ただ、2教委は、同意がなくても市町村別データを公表すべきと答えているという。

 「競争させれは学力が向上する」という成果主義の強引なまでの思いこみは冷静さが求められる。学力テストが長い間なされてなかった理由を考えて見ることが必要である。自治体の首長は学力テストを公表することを考える前に、子ども達が夜間徘徊できる地域社会、落ち着いて学習に取り組めない社会的な環境の改善をまずは考え、実行することを勧める。朝飯を食べられず登校している児童の生活環境を改善や保護者への働きかけが先決ではないか。

 「序列化や過度な競争につながらないよう十分配慮する」ために、学力テストの自治体名や学校名が明らかになるような公表はすべきではない。首長のメンツを重んじたとしか思えない自己主張を、面々と垂れ流しているマスコミの報道はいい加減にして貰いたい。実施要項に、自治体名や学校名が明らかになるような公表をすることは求められてない。公表は約束違反であり、公表を前提とするなら今後は不参加校が増えるだろう。そもそも、学力の傾向を知るための調査に児童生徒が全員参加する必要を感じない。財政が逼迫している状況を考えれば、何百億円もかけて学力テストを行う必要はない。


(注)
全国学力・学習状況調査の概要について
7.調査結果の取扱い
(1)調査結果の示し方
 小学校調査及び中学校調査のそれぞれについて,以下の事項等を示すこととする。
ア 教科に関する調査の結果について,国語,算数・数学のそれぞれ,主として「知識」に関する問題と,主として「活用」に関する問題に分けた四つの区分ごとの平均正答数,平均正答率,中央値,最頻値,標準偏差 等
イ 都道府県・市町村・学校・児童生徒の学力に関する分布の形状等が分かるグラフ
ウ 各教科の設問ごとの正答率
エ 児童生徒質問紙調査及び学校質問紙調査の結果について,
(ア)児童生徒質問紙調査及び学校質問紙調査の回答状況
(イ)児童生徒質問紙調査の回答状況と教科に関する調査の平均正答率との相関関係の分析
(ウ)学校質問紙調査の回答状況と教科に関する調査の平均正答率との相関関係の分析
(2)調査結果の公表
 文部科学省は,以下のア〜ウについて,(1)に掲げる調査結果を公表する。
ア 国全体の状況及び国・公・私立学校別の状況
イ 都道府県ごとの公立学校全体の状況
ウ 地域の規模等に応じたまとまり(大都市(政令指定都市及び東京23区),中核市,その他の市,町村,または,へき地)における公立学校全体の状況

<前                            目次                            次>