日々の抄

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 元日の社説を読んで 

2009年1月3日(土)

 ことしも元日の各紙の社説を読んだ感想を書いてみる。
朝日 「混迷の中で考える―人間主役に大きな絵を」
  「何という年明けだろう。100日余り前に米国の繁栄の象徴ウォール街を襲った激震は、同じニューヨークの世界貿易センタービルを崩落させた9・11テロをしのぐ破壊力で、地球を揺さぶり続ける」から始まり、サブタイトルに■市場の失敗の大きさ、■格差と貧困の広がり、■たくましい政治が要る、を挙げ、昨今の世界、日本の情勢分析を述べている。
 「国民が望んでいるのは、小手先の雇用や景気対策を超えた大胆なビジョンと、それを実行する政治の力だ。ひたすら成長優先できた時代がとうに終わり、価値観が大きく変化するなかで、どんな国をつくっていくか。それは「環境大国」でも「教育大国」でも「福祉大国」でもありうるだろう。将来を見すえた国づくりに集中して資源を投下し、雇用も創出する。そうしたたくましい政治が要るのだ。世界の秩序も、これまでの米国一極支配が終わり、中国やインドを含む「多頭世界」が現れつつある。経済危機に対処し、地球環境を守るための国際連携がますます重要になる。政治はおちおちとしていられない。米国民は、市場原理主義と金融バブルで生じたゆがみを是正する役目をオバマ次期大統領に託し、彼と肩を組んで危機を乗り越えようとしている。日本でも、今年の総選挙がそうした場になるだろうか。冷戦後の20年間、バブルの絶頂からこの不穏な年明けまで翻弄され続けた日本。有権者の視線はかつてなく厳しいはずだ。」としている。
  「声高な自己責任論にあおられるように貧富の差が拡大し、働いてもまともな暮らしができないワーキングプアが急速に広がった。労働市場の規制緩和で、非正規労働者が働く人の実に3割にまで膨れ上がり、年収200万円に満たない人が1千万人を超えてしまった。かつて日本社会の安定を支えた分厚い中間層はもはやない。」の一文を為政者は心して聞くべきところだろう。

毎日 「日本版『緑のニューディール』を」
  「年は明けたが、世界不況のまっただなかである。年賀を言うのもはばかられるような、厳しい正月だ。問題は経済だ。単刀直入に言って、ここは政府の出番である」から始まり、サブタイトルを◇新モデルを求める、◇潜在力を引き出すとし、情勢分析を記している。
 米国のオバマ次期大統領が環境投資をパッケージにした「グリーン・ニューディール」を進めていることに対し、日本は旧来型の公共事業に予算をばらまきをやめ、『日本には資金もあれば知恵もある。しかし、政治が明快なビジョンと強いリーダーシップを欠いている。年頭に当たって、改めて早期に衆院を解散し総選挙を行うよう求めたい。新たな民意を得た政権が、日本版「緑のニューディール」に丈高く取り組むことを切望する。』としている。
  具体的な提案としての「実用段階の太陽光発電と次世代自動車を飛躍的に普及させることを提案しておきたい。政府は太陽光発電世界一の座をドイツから奪還するため、設置補助を再開したが、物足りない。この際、2兆円の定額給付金を中止しそれを太陽光発電に回したらどうか。学校には全国くまなく設置しよう。太陽光発電の余剰電力を現状より高く電力会社が買い取り、10年程度でモトがとれる制度にしたい・・・・」は注目に値する。

読売 「急変する世界 危機に欠かせぬ機動的対応、政治の態勢立て直しを」
  サブタイトルに◆新自由主義の崩落、◆内需拡大に知恵絞れ、◆日米同盟の維持が重要、◆「党益より国益」をとし情勢分析を記している。
  「過去の惰性で、憲法問題など国内政治事情を名目に協力を断れば、米国にとっての日米同盟の優先順位が低下していくことになるだろう。日本は、たとえば、北朝鮮の核開発問題にしても、日米同盟関係抜きに、単独で解決することはできない。急速に軍備増強を進める中国との関係を考える場合にも、緊密な日米同盟の継続が前提となる。だが、米国にとっても、軍事大国化、経済大国化する中国との関係は、ますます重要になっている。・・・・米国にとっての日米同盟の優先度を、高い水準に維持するためには、日本が信頼できる同盟国だと思わせるだけの能動的な外交・安全保障戦略で応えていかなくてはならない」としていることは、昨年の元日の社説と変わることはない。また、「現実には、その責任を担うはずの政治は、事実上、“空白”状態に近い。衆参ねじれ国会の下、麻生政権は、民主党の政局至上主義的な駆け引きに揺さぶられ、緊要な内外政策の決定・実行ができなくなっている。」として、あたかもねじれ国会が政治の責任を果たせないでいる根源のように述べているが、ねじれ国会は直近の民意による結果であることは認めないわけにいかないだろう。

東京 「年のはじめに考える 人間社会を再構築しよう」
 「世界大不況の危機克服が最大テーマの年明けです。この百年に一度の歴史からの挑戦に叡智を結集しなければなりません。未来世代のためにも」から始められ、サブタイトルとして◆奈落への渦巻き現象、◆希望は協力社会から、◆監視と参加が変えるを挙げている。
 「人間社会は弱者が救われるだけにとどまらず、ふつうの人々が安心し恩恵を受ける社会でなければなりません。人間が部品扱いされる労働システムや法は変えられるべきですし、女性が安心して出産し働ける育児サービスや教育、団塊の世代のための介護など高齢福祉の充実も当然で、貧困問題などあってはならないことです」の一文はまったくその通りだ。東京新聞の元日の社説は、07年は「新しい人間中心主義」、08年は「反貧困に希望が見える」とし、貧困問題に取り組む社会活動家たちへのエールを送り続けている。「人間社会」の再構築は急務でわれわれも一歩を踏み出すべきです。そのためにはどんな社会をめざすのか、政治に何を求めるのか意思表示と政治への監視と参加がいります。」は、経済、政治のために、まじめに働く意思を持っていても、生きていくことすら困難さを感じている人が増加している日本社会が、それほど貧しい国なのかと思わないわけにいかない。

 各紙は経済的、政治的にも疲弊している現実にどう対処し叡智を集めていこうとするかの分析と提案を述べていると思うが、従前の豊かな日本で見られなかった、会社経営者の働く者に対する敬意のなさ、政治家の小粒化、拝金主義による利益優先主義が、国民のささやかな幸せを失わせている現実問題をいかに掘り下げ、訴えていくかが今年の大きな課題だろう。
 マスコミがある場面では、国民の意思を誘導し、世論の流れを左右しうる大きな力をもっている。目先の「視聴率を上げること」「注目されそうなこと」のみに腐心することなく、視線を10年後50年後に向けた論調を伝えて欲しい。国民を守るべき「権力」「権威」の横暴、欺瞞、保身のための悪意の不作為が、個人の生活、尊厳を喪失させている現実を浮き彫りにしていくことを望みたい。体制に阿た報道は御免蒙りたい。

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