日々の抄

       目次    


 教科書検定に「政治介入」があったのか

2009年2月26日(木)

 22日、自民党青森県連での講演で、首相は教科書の内容に政治が介入したと思わせる発言をしている。その内容は以下のようなものである。
 『・・・・教育基本法の話でも、また、今のソマリアの話1つにしてもちゃんとまとまって答えてくれない。そいういった所は、われわれにとってあのいい加減な教科書をわれわれは教育基本法を変えてあのいいかげんな教科書を変えました。覚えていない人もいるかもしれませんが、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒の写真、こちらは犬と子供と一緒の写真で、両方家族ですと。うまいように書いてあるように見えるでしょう。犬と子供もおじいちゃんとおばあちゃんも一緒の扱い。おばあちゃんは犬と同じか、こんなふざけた話がどこにあるのか、と言って当時やりあったことがあります。相手はご存じ日教組です。私はそういうところとは断固戦っていく。・・・』(東奥日報2月22日)
 
 翌23日の記者と『いや、変えた、いや、変えさせたと言ったのか知れませんけど、あれは教科書検定、えー、検定、委員会? だったっけな。教科書検定委員会(正しくは教科用図書検定調査審議会)が変える』。「9月に辞任をさせた中山前国交相の日教組をぶっ壊すという発言については、はなはだ不適切とおっしゃってましたが、総理ちょっとかなり強い言い方……」、『あの日教組から支援されている政党もある。私どもはそこと選挙で戦っていくということです』。「変えさせたということは、言葉通り聞くと、政治介入をしたというふうにしか受け取れないんですけれども」、」『ああそれ。そういう意味ではありません。教科書検定、えー、え、何だ、何だ、検定委員会だっけ? 検定、検定委員会が変える、そこが、責任を持って変えるところです』というやりとりがあった。

 首相が指摘した教科書の記述変更について文科省銭谷事務次官は、『中学校の技術・家庭の教科書から「Aさんの家族(母、父、弟、犬)」との記述が削除された04年度の検定などと思われると指摘し、審議会が検定意見書を付け、(教科書会社が)書き換えた記述について検定決定をしたと記憶している』と説明している。

 「いいかげんな教科書を変えました」発言で訝しいことは、(1)「犬がおじいちゃん、おばあちゃんと同等」などと誰も言っておらず、犬に親しみを込めて家族同様に接していることを表していることは言うまでもないこと。(2)「教育基本法」の改訂は、教科書を書き換えさせるため必要だったのか。(3)教科書を日教組が書くはずもないのに、犬云々のことで、やりあう場面がありようがないこと。(4)教科書の内容に国会議員である自らが関与し、訂正に口を挟んでいたことの暴露、などである。

 いつものように「発言→批判→修正」という麻生の法則そのものが見られたとしか言いようがない。窮地に追い込まれた首相の、日教組に対する八つ当たり発言にしか聞こえない。そもそも一国の首相が、法律で認められている労働団体に対して、「断固戦っていく」などと発言することが許されるのだろうか。首相は功を焦るがために、つい本心が出て、教科書検定に「政治介入」があることを暴露してしまったのだろう。沖縄の集団自決問題もこのことの延長線上にあることが自明であることを証明している。

 首相は自らのブログに、第2次世界大戦が1941年12月日本軍の真珠湾攻撃から始まったと書いている。実際は、第2次世界大戦が1939年9月、ドイツのポーランド侵攻に対し、イギリス、フランスが宣戦布告して始まったと指摘されても、日米開戦と混同している誤りを訂正しない頑なさはいったい何なのか。
 『過ちては則ち改むるに憚ること勿れ』である。百年に一度の国家存亡の危機現状にあって、「裸の王様」を擁する国民は不幸以外の何物でもない。権力の座に就けば、教科書も思いのままに書き直しを強制できるという思い上がった意識をもった国会議員を選んだ責任が、国民にあることは忘れてはなるまい。

<前                            目次                            次>