日々の抄

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 卒業式は近いが

2009年3月1日(日)

 島根県立安来高校が1月、3年生約150人すべての保護者に、「県立高等学校授業料(2月分、3月分)及びPTA等諸会費の口座振替について」という通知を出した。
  「・・・・・ さて、毎月の授業料及びPTA等諸会費は、当該月の26日を振替日としていますが、2月、3月につきましては、会計の都合から振替日を2月16日にさせていただきますのでご了解下さい。
 なお、2月16日振り替えがなかった場合は、速やかに未納の通知をしますので、2月末日までに納入してください。期限までに全額納入がない場合は、卒業証書をお渡しできませんのでご承知ください。」
 同校によると、全校で毎月10人前後の滞納があり、事務長の発案で昨年から一文を入れ始めたが、期限内に全員が納入したため、実際に卒業証書を渡さなかった生徒はいないという。同校校長は「卒業証書の授与と授業料などの滞納を結びつけたのは配慮を欠いていた。生徒と保護者に申し訳ない」と話している。

 2月初めに外部からの指摘でこれを把握した県教委は、全県立高校を対象に過去5年間について調査。その結果、ほかに7校が04年度から、未納分があった計65人の保護者に個別に口頭や文書で、納付しなければ卒業証書の授与を延期すると伝えていたことがわかった。うち県西部の1校で06年度、1人に卒業式で証書を渡さず、その後渡していた。他校では実際に渡さなかった例はなかったという。県教委は26日、「未納を理由に卒業証書の授与を拒むことはできない」と全県立高校に通知。担当課長は「文書は配慮に欠けており、適切でなかった」と話しているという。

 大量のリストラをはじめ、経済状況の悪化に伴い、授業料の滞納が全国的に増加していることが伝えられている。07年3月末の授業料滞納額が、約5億8952万円に上っている。23の道府県が「過去5年間で滞納件数が増加している」と回答しており、17倍に急増したところもあった。
 滞納の理由については、「保護者の経済的な理由」を挙げた自治体が6割、「モラル低下」を挙げた自治体が4割だったが、急増の要因としてモラル低下を指摘する声も目立ったという。(読売新聞調査による)

 非難の対象になっている通知に誤った点があるとは思えない。校長は、「卒業証書の授与と授業料などの滞納を結びつけたのは配慮を欠いていた」としているが、授業料を納入することは、授業を受けることの対価として当然のことではないか。生活困窮のために授業料を納入できないなら、『事前に育英資金を受給、授業免除、または、卒業後滞納金の支払い計画書を提出して納入の意志を明確にする、保証人に納付を求める』などの「対応法」があるのではないか。
 県教委は「未納を理由に卒業証書の授与を拒むことはできない」としているが、卒業証書授与を拒むことと、卒業を認定しないこととは違う。その後、授業料の納付があったなら、同県で以前あった「卒業式後に卒業証書を授与」することも可能である。

 県教委がいう「未納を理由に卒業証書の授与を拒むことはできない」なら、授業料を納付しなくても、卒証書を授与しても構わないということなのか。これでは、まじめに授業料を納付してきた生徒との公平が保たれない。多くの生徒が同様な納付を避けたらどうなるのか。
 県教委は外部から指摘があったからといって、非難を回避するが如き通達を現場に出すことは避けるべきである。安来高校をはじめ、問題とされる通知を保護者宛に、好んで出すはずはない。何度にもわたる督促にも関わらず、卒業時までに未納が予想される現実から出さざるを得ない苦渋の決断だったに違いないことに配慮すべきである。校長も、一度出した通知に対し安易に謝罪すべきではない。簡単に謝罪するくらいなら、はじめから通知を出すべきではない。

 非難の対象になっている通知に対し、「生徒を人質にとって云々」の批判があるが、そこには、「ものには言いようがある。当たり障りのない文言にするか、別の方法があるのではないか」と言いたいのだろうか。授業料を納付しないことを肯定しないまでも、こうした批判の出ることが、入学金、授業料を納付しなかったり、また義務教育で給食費を納付できるのに、手前勝手で我が儘な理由で納付しないことを増長させることにつながりかねない。納付できない経済状況があるなら、前記のような「対応法」を考えればいいのではないか。

 島根県で「授業料等徴収」について定めているかわからないが、群馬県では下注のように定めている。だが、他県と同様に未納者の増加に伴い、「未納授業料の徴収強化 法的措置へ要綱」を昨年9月に制定した。それによると、民事訴訟法に基づく支払い督促などとし、対象者は6カ月以上未納となっている生徒や保護者などで、支払い能力がありながら未納を続ける悪質な場合などとした。県教委管理課によると、平成19年度決算見込みで、授業料の未納者は65人で、未納額は約267万5000円に上るという。

 「モラル低下」が語られて久しい。高校現場で授業料を納付させるためのプロジェクトを作らなければならない地方自治体もあり、私学でクラス担任が未納授業料を立て替えていると聞いたこともある。授業料未納の時効が5年間だそうだが、5年間逃げていればお咎めなしというのは、釈然としない。

 支払能力があるにも拘わらず、授業料を納付しなければ、卒業証書を受け取れないのは当然のことであり、とやかく言うべき問題ではない。「無理が通れば道理が引っ込む」ような社会は人を不幸にするだけである。このままでは、多くの教育現場の悩みは一層深くなるばかりである。

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(注)
群馬県立学校授業料等徴収条例の抜粋
題名改正〔昭和二七年条例四号・平成五年九号〕
第三条の二 県立学校へ入学を許可された者は、入学の当日に別表に定める入学料を納付しなければならない
2 前項の入学料を納付しないときは、教育委員会規則で定めるところにより、除籍することができる
第九条 授業料を定日までに納付しないときは保護者又は保証人からこれを徴収することができる
第九条の二 前条の規定によるもなお納付しないときは、教育委員会規則で定めるところにより出席の停止を命じ、若しくは除籍し、又は学校教育法施行規則(昭和二十二年文部省令第十一号)に定める懲戒を行うことができる

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