日々の抄

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 空からゴミが降ってくる

2009年3月17日(火)

 国際宇宙ステーション(ISS)の乗組員らが3月12日(米国時間)、スペースデブリ(宇宙ゴミ=d'bris=破片)に衝突する可能性があるとして、緊急時に脱出できるようにするためISSにドッキングしているロシアの宇宙船『Soyuz(ソユーズ)』のカプセルに一時待避したという。ソユーズはロシア連邦の1〜3人乗り宇宙船。登場から40年以上経た現在でも、国際宇宙ステーションへの往復用、及びステーションからの緊急時の脱出・帰還用として使用されている。

 米東部時間2月10日正午(日本時間11日午前2時)ごろ、米国の衛星携帯電話システム「イリジウム」(質量約560キロ)の衛星と、機能停止したロシアの93年に打ち上げられた通信衛星「コスモス2251号」(質量約1トン)が北シベリア上空約790キロで衝突し、多量のデブリがまき散らされたという。微小なデブリと衛星の衝突は過去にあったが、衛星どうしの衝突は初めてとみられる。
 ISSの高度は約400キロと低いため、NASAによると今回の衝突との関係は不明という。デブリの高度が下がってくると、影響を受ける可能性もあるが、ISSや米スペースシャトルのような有人宇宙船は軌道を変える装置を備えているため、監視網でとらえたデブリなら回避できるとしてきたが、回避できたものの、限りなく危険な状況が発生していたことになる。この衝突によって発生した1センチ以上のデブリが約6万2000個発生し、うち約5万個は既に地球に落下途中で燃え尽きたとみられ、残りが宇宙空間を漂い、約6000個が静止衛星がある高度約3万6000キロに到達したと推定されている。
 デブリ問題は近年深刻化しており、一昨年、中国が衛星破壊実験をしたときは「デブリが多数発生する」と国際的に非難された。NASAによると、10センチを超えるデブリは現在約1万2千個が確認されている。

 『スペースデブリは、地表から300km〜450kmの低軌道では秒速で7〜8km/s、3万6000kmの静止軌道では秒速3km/sと非常に高速で移動しているため、直径が10cmほどあれば宇宙船は完全に破壊されてしまう。数cmでも致命的な損傷は免れず、さらに数mmのものであっても場合によっては宇宙船の任務遂行能力を奪う(5〜10mmのものと衝突するのは大砲で撃たれるに等しい)とされる。』などと伝えられているが、物理学の教えるところによると、地球の自転を無視し、地表からの高さをh、地球が半径R の球体とし、地表の重力加速度を とすると、人口衛星の速さは であることが知られている。これによると地表からの高さh が一定なら速さが同じであること、またh が小さくなること、つまり地球に近くなると速さを増やすことを示している。この式を使って計算すると「3万6000kmの静止軌道では秒速3km/s」になることが確かめられる。
 ここで二つの疑問がある。ひとつは、「数Km/sという高速のデブリが人工衛星に衝突すると破壊される」とあるが、同じ高度なら殆ど同じ速さのはずである。何らかの理由で速さを変え、高度を変える過程でなら衝突することは理解できる。空気抵抗もほとんどない空間で速さを変える理由は何なのか。もうひとつ疑問なのは、「数Km/sで衝突する」と考えているが、静止衛星は地球に対して静止しているのであって、デブリが人口衛星に「相対速度」で衝突するのではないか。ある高度でのデブリの速さがわかっても、その速さで人口衛星とその速さで衝突すると考えるのは合点がいかない。

 モスクワ・インタファクス通信は、2月12日上記の人口衛星どうしの衝突で発生した大量の宇宙ごみが、原子炉を積んだ旧ソ連の人工衛星と衝突し、放射能汚染を引き起こす恐れがあると警告している。衝突が起こった高度約800キロの宇宙空間には原子炉を積んだ旧ソ連の衛星が廃棄されたままになっているという。1978年には、原子炉を積んだ旧ソ連の軍事衛星「コスモス954号」がカナダに落下し、放射能を帯びた破片が散乱し、広範囲に亘って周囲が汚染される事故が起きている。
 
 今後デブリどうし、デブリと人口衛星との衝突で深刻な被害が出ない保証はない。つまり、核を積んだ人口衛星の破壊による、全世界に亘る被害や、大気圏で燃え尽きることのできなかったデブリの残骸が、いつ自分の頭上に降ってくるか分からないのである。平和目的ならいざ知らず、兵力増強、敵国監視のために多量に打ち上げられた人口衛星の残骸が今後もたらすかもしれない被害に対し、人口衛星を打ち上げた国々は人類に対し、実効ある責任行動を直ちにとるべきである。そもそも、各国が自国の都合だけで人口衛星を打ち上げていれば人口衛星どうしの衝突がいままで起こらなかったことが不思議である。人口衛星を打ち上げることの国際的なきまりや残骸についての取り決めを一日も早く作るべきである。それができるまでは人口衛星の打ち上げは中断すべきではないか。

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