日々の抄

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 怪しいのは誰だ

2009年3月25日(水)

 麻生首相にまた「失言発言」があった。いままでも、「医者は常識が欠落している」、「いい加減な教科書を変えた」などの発言があり、今更ながら驚くこともなく、「そんな程度」の人物と思えば腹も立たないのだが、今回の物言いは一国の首相の発言としてはお粗末なものである。

 麻生太郎首相は21日、官邸で行われた「経済危機克服のための有識者会合」で、『やっぱり株式会社、株屋ってのは信用されてないんですよ。僕はそうだと思うなあ。やっぱり株をやってるっていったら、田舎じゃ何となく怪しいよ。“あの人は貯金してる、でもあの人、株やってんだってさ”っていったら、何となく今でも、まゆにつば付けて見られるところがあるでしょうが。オレたちの田舎では間違いなくそうよ』と発言。そもそも公の場で、自らを「オレ」と称することに品格が感じられない。

 この「株屋」発言は、株への投資、株取引、証券会社やその従業員を見下す発言に聞こえてくる。「職業に貴賤はない」と言うは易いが、首相は、株式投資をやっている人間を、「怪しい」と思っているらしい。株取引をする人を信用してないということらしい。『オレたちの田舎では間違いなくそうよ』と道連れにされた福岡県民はいい迷惑だろう。官房長官は『首相に(証券業界を)侮蔑する気持ちは全くない』と釈明しているが、「侮蔑的、差別的」物言いにしか聞けない発言をやめ、言葉を選ぶべきである。

 この首相発言を聞いて、獅子文六の「大番」に出てきた赤羽丑之助(ギューちゃん)を思い出した。映画では加東大介扮するギューちゃんが満鉄株で大枚をせしめる。それにはある種の痛快間があった。当時と現在の株に対する関係は大いに異なる。多くの人が身近に、場合によってはデスクワークで主婦が巨万の富を得た時期もあった。確かに額に汗を流して賃金を得るような仕事とは異なるとしても、首相が、株関係者を「つば付けて見られる」存在と発言したことに対する批判は、「揚げ足取り」とは言えまい。

 首相は、自らの発言に対する「相手を傷つけないためのフィルター機能」を持つか、余計なことを語らない懸命さを持つかのどちらかにすることを勧める。自国の最高責任者のお粗末さには堪えられないものがある。

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