日々の抄

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 名前を変える前にすることはないのか

2009年3月31日(火)

 群馬県民会館の愛称が4月から「ベイシア文化ホール」になるそうである。県民会館は1971年に明治100周年を祝う記念事業の一環で建てられ、広く県民に親しまれている。私も講演会、音楽会をはじめ何度も利用し、特に、宇野重吉氏の演劇を観たことが印象に残っている。県が募集していたネーミングライツスポンサー募集によって決められたもので、年額1千万円、5年間 の期限だそうである。同じく、群馬県立敷島公園野球場の愛称が「上毛新聞敷島球場」に4月1日から変わる。年額500万円で2年契約という。また、群馬県営敷島公園陸上競技場の愛称が昨年6月から「正田醤油スタジアム」に変更されている。年間700万円の3年契約という。

 ネーミングライツ(Naming rights)は命名権と称され、 企業や商品の名前を付けられる権利という。1970年代にアメリカで生まれ、日本では2003年に公共施設として初めて、総合競技場「東京スタジアム」が「味の素スタジアム」と称された。他には、宮城県民会館が東京エレクトロンホール宮城 、山形県野球場が山形蔵王タカミヤホテルズスタジアム 、名古屋市民会館が中京大学文化市民会館、兵庫県立芸術文化センター・小ホールが神戸女学院小ホール、鳥取県立県民文化会館がとりぎん文化会館、福岡ドームが福岡Yahoo!JAPANドーム、熊本市民会館が崇城大学市民ホールなど多数ある。

 自治体にとっては、建設や運営資金調達など財政負担の軽減になり、スポンサー企業にとっては、メディアでのPR、知名度向上、ブランドイメージ向上などのメリットがあるらしい。だが、いくら財政的にメリットがあるといえ、長年親しんでいた公共施設が民間企業の名前を通称とすることには抵抗がある。なぜなら、命名権を与える方も、与えられる方も利点があるといっても、それを利用している市民のことが埒外になっているからである。長年親しんできた県民会館が「ベイシア文化ホール」などと、民間企業の文化施設の如き名で呼ばれることはよしとはできない。敷島公園野球場が「上毛新聞敷島球場」と呼ばれたり、陸上競技場が「正田醤油スタジアム」などとなぜ呼ばなければならないのか。名古屋や兵庫でも同様に、市民会館や芸術文化センターが私立大学の付属施設であるが如き名で呼ばれるのは心よしとするわけにいかない。新潟の県立野球場の愛称が「ドカベン」とする案があったが、実現化しないという。

 ネーミングライツによる改名は施設を全く利用しない第三者が不利益を被る場合もある。例えば地図、カーナビ、ガイドブック、駅・道路の案内然り。これらをスポンサーが変わるたびに修正するには、コストがかかり、改名のための混乱が生じることも忘れてはなるまい。
 ネーミングライツによって民間企業の名が付けられたことによって、その施設の利用者が企業により札びらで頬を叩かれる気持ちになるのは私だけだろうか。日本各地でネーミングライツを利用している企業の中で、ネーミングライツで出費する前に、派遣切り、不況を言い訳にした労働条件悪化を回避すべき企業はないのだろうか。
 いかに地方自治体の財政が苦しくとも、公共施設の名を変えるべきではない。他に財源を求めるべきである。例えば議員の高額の視察をやめることによって、これらの財源は確保できるはずである。ネーミングライツによる改名はカネのために心を売るような気がしてならない。公施設の名称に企業や商品名が付いて嬉しいと思う県民がどれほどいると思っているか、役人は考えるといい。私はネーミングライツによって、すぐに変わるかもしれない民間企業名のついた名前など呼ぶつもりはない。

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