2009年4月1日(水)
新年度が始まった。大学に進学した者は新たな環境の中、不安とともに期待に胸ふくらませていることだろう。ことしの大学入試でも相変わらずミスが多数あった。以下新聞報道されたものを書き出してみる。
□ 選択肢に正解なし。解答できない
・追手門学院大:一般入試A日程「日本史」で4つの選択肢の中から適切なものを一つ選ぶ設問で、解答群の中に正解が含まれてなかった。
・大阪教育大:教育学部前期日程の物理で、問題Iの問3と問4で、問題文中の記号に誤植があり、解答が導き出せなくなっていた。
・法政大:文、経営の「地理」で中国の都市名の選択問題で、四川省の都市を選ぶ選択肢に正答がなかったり、「日本史」では設問の事実関係に誤りがあり、正解がなかった。
・神戸大:前期日程の化学で、糖の構造を問う問題で、問題文の数字が間違っており、正解を導くことができなかった。
・同志社大:生命医科学部などの「生物」で、動物の生殖について尋ねた問題に誤記があり、11問が解答不能の状態だった。
・大分県立工科短大:数学で、直角三角形に内接する正方形の辺の長さを求める問題文を誤り、条件に合う図形が成立しなくなった。
・信州大:工学部前期日程「化学」で、解答が存在しない問題があった。
・新潟大:前期日程の生物で、集団に関する文章の空欄に、選択肢の中から最も適切な語句を選ぶ問題で、選択肢の中に正解がなかった。
・西南学院大:数学の2次不等式の設問の表現が不適切で正解が得られなかった。
□ 問題文に誤りがある。正解が複数ある
・龍谷大:一般入試の「政治・経済」と「生物」で、複数の選択肢から誤りを含む記述を1つだけ選ぶ問題で誤った記述が二つあった。同大ではA日程でも同じ2科目で出題ミスがあり、昨年11月の公募推薦入試「英語」でも問題文中に誤りがあったため、文部科学省から改善策について文書の提出を求められていた。
・青森県立保健大:大学院健康科学研究科博士前期課程の入試で問題文で、乳脂肪商品の消費量と心疾患の関連を問う記述問題で「死亡率」とすべきところを「脂肪率」と表記していたという。
・京都橘大:国語・古文で、平安時代の歌論書の文章を示して、選択肢の中から同じ意味の尊敬語1つを選ばせる出題だったが、設問文が適切でなかったため、正解が二つあった。
・京都産業大:経済、経営などの日本史で、江戸時代の大名に関して選択肢の中から解答を一つ選ぶ問題で、正解が二つあった。
・神戸学院大:総合リハビリテーション学部医療リハビリテーション学科、栄養学部の「化学」で、化合物であるベンゼン誘導体に関する設問で、「炭酸水素ナトリウム」とするところを「炭化水素ナトリウム」とした。
・東北学院大:世界史の元王朝の海運拠点を問う選択問題で、正答の「インド西海岸の都市・カリカット」に関し「インド東海岸」と表記していた。
・立教大:経済学部経済学科、同会計ファイナンス学科、観光学部観光学科、コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科の「数学」で問題文にミスがあった。
・青山学院大:文学部フランス文学科A・B方式、日本文学科B方式、史学科A方式と、教育人間科学部教育学科B方式、心理学科A方式の「英語」で、選択肢から適切な語句を一つ選ぶ問題で正解が複数あった。また、経営学部の「世界史」では「坤輿(こんよ)万国全図」の作製者を問う問題で「輿」の字を「與」と誤って出題した。
・創価大:経営学部、文学部の日本史で、農業関連の著作と著者の組み合わせを選ぶ問題で選択肢に正答がなく、全員を正解とした。世界史の米国の独立宣言について尋ねる問題では、二つの正答があった。
・高崎経済大:地域政策学部の高崎会場で、「政治・経済」に関する説明で「EECが結成された」という文章を、立ち会った教授か専任講師のいずれかが黒板に書いて補足説明した際、一つの教室で「EEC」と書くところを「ECC」と書き間違った。
・岡山大:二次試験前期日程の理科「生物I・II」の解答用紙で、解答用紙の項目欄で「第二分裂前期」となっている部分が、正しくは「第二分裂中期」だった。
・ 札幌医科大:医学部前期日程の理科(生物)で問題文中の塩基配列を示す記号が間違っていた。
・秋田大:前期日程工学資源学部の化学で、自然界でのアンモニア合成の際に起こる反応についての設問で四つの選択肢の中から正解を一つ選ぶよう求めているが、実際は正解が二つあった。
・広島大:前期日程の「理科・生物」で、腎臓の機能について、五つの選択肢から正しいものを二つ選ばせる問題で、正解が一つしかなかった。
・三重大:前期日程の国語で、「楽器の箏(そう)を習い始めた」という意味の原文「箏を習ひ」を、分かりやすくしようと「箏曲を習ひ」に変えて出題。「箏曲」は「芸技」という意味にもなるため、「7歳で芸技を始めたのに13歳まで芸技を始めなかったのはなぜか」とも解釈でき、受験生が混乱する可能性があった。
・横浜市立大:医学部医学科の物理で、電気回路についてコイルに流れる電流や電圧の値などを求める問のコイルの巻き数に対する磁力の条件設定が誤っていた。
・九州大:前期日程一般入試の化学で、電子式に誤りがあった。
□ 採点ミス
法政大:グローバル教養学部の国語で、マークシートのプログラムにミスがあった。
□ 出題が不適切と思われるもの
・四国大:選択科目「生物1」の、1番問1の血液型について記述した文章の空欄3カ所にあてはまる語句を記述する問題と、血液と血清を混合した場合の反応についての問題で、いずれも高校の学習指導要領の範囲を超える問題だった。
・日本女子大:文学部の地理と世界史では四つの選択肢の中から正答を一つ選ぶ問題で、正答が二つあるものが1問ずつあり。日本史では試験中に問題文の一部を訂正したが、採点中に訂正は不要だったことが判明。同大の昨年の世界史の問題にミスのあることが本年2月に判明し
、8名を追加合格させている。
・立命大:薬学部一般入試の数学の関数の問題で説明が不正確だった。
□ 事務上のミス
・同志社大で1月26日、同大学で大学入試センター試験を受けた800人全員の名簿などを紛失。試験までにセンターが書類を再交付したため受験生に影響はなかった。入試課職員3人が8日午前、入試関係資料の保管施設から不要書類を運び出した際、名簿などが入った段ボール箱3個のうち1個が交じり廃棄物処理業者が回収、焼却されたとみられるという。
・立命館大:大学入試センター試験の成績だけで合否を決める「センター試験方式」の入試で、受験生1人の出願計4件が受理されていない事務処理ミスがあった。受験生は郵送で出願したが、担当職員がインターネットによる出願と思い込み、郵送物を、ネット出願の際には本来不要な書類の重複提出分と勘違いして受け付け作業をせず、放置していたという。
高校入試でもミスがあった。鳥取県の県立高校一般入試数学の問題で、4選択肢に正解がなかった。宮城県立高校入試で、目覚まし時計の音を聞いて手で止める反応で刺激の信号が伝わる神経経路を、図に従って順に並べる設問の正解である「耳から直接脳に伝わる経路」が図示されていなかった。福岡市立高校で、英語のリスニングテストの際に誤って筆記テストの問題を配り、受験者47人がリスニングテストに解答できなかった。広島県では、黒板に受験時の注意事項を掲示した際、誤って書き取り問題の解答を示すミスがあったと発表した。山梨県立高校で、数学問題で本来は使用できた三角定規を「使用不可」と受験生に伝えるミスをしていた。
また、都立小平南高校の2007、08年の入試で、合格枠設定のミスがあり、各年で本来合格とすべき男子受験生1人ずつの計2人を不合格としていた。
よくまあこれだけのミスをするものと呆れる。人間のすることにミスはつきもので、ミスをしない人はいまい。だが、入試でこれほどのミスがあっては堪らない。作問、採点、事務処理、みな出てきた結果を疑わなくてはならなくなってくる。問題はミスをカバーするシステムをどう築くか、だろう。同じ大学で同一年度に複数回もミスがあったり、過去年度のミスが見つかった後に入学を許可して済むことではあるまい。場合によっては人生の方向を変えるかもしれないという真剣さを考えるべきであり、ミスのあった問題を全員正解にすればいいなどという安直さがあるなら、大学の資質が問われかねない。作問者以外の第三者がチェックするだけでかなりの部分のミスは回避できるのではないか。
大学の入試問題の作問が自分の研究と関係ない雑務などと考えている学校があれば、いくらもしないうちに淘汰され廃校になることは見えてくるだろう。ましてや、予備校などに入試作問を外部発注している大学も多いと聞く。大学生の資質の低下を嘆く前に、大学の資質が疑われかねない入試問題作りと入試業務を真剣に考えて貰いたいものである。大学もレベルが下がっているようで嘆かわしい限りだ。
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