日々の抄

       目次    


 議員が現場に乗り込むのか

2009年4月17日(金)

 9日、都立七生養護学校(現・七生特別支援学校)元校長が、都教委から受けた停職1カ月の懲戒処分と教諭への降格処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は請求を認めた1審・東京地裁判決(08年2月)を支持し、都の控訴を棄却。大谷禎男裁判長は「処分は裁量権の乱用で違法」と指摘し、 1審と同様に「不適正な学級編制をした事実は認められない」と認定している。
 元校長は異動後の03年9月、「適切な学級編制をせず、不正な教員配置を受けた」などとして処分されたが、一審の東京地裁では「都議の行為を「教育の不当な支配」と認定、都議三人と都に計二百十万円の支払い」を命じており、これを支持し、都議三人と都に計二百十万円の支払いを命じた。 

 同校は1990年代後半に生徒の性的な問題行動が発覚、その後も性に関した問題行動が多発、学校全体で性教育に取り組み、性器のついた人形などの教材を使い、全校を挙げて性教育に取り組んでいた。都議三人が都教委職員を伴って同校を訪れ、保健室で校長らに性教育に使われている人形などを提示させ「常識では考えられない」「不適切なもの」などと述べた。養護教諭には「こういう教材を使うのをおかしいと思わないか」「感覚がまひしている」と非難。資料ファイルを持っていこうとする都議に教諭が「何を持っていくのか教えてください」と尋ねると、都議は「おれたちは国税と同じだ」とたしなめたという。
 一審判決に対し三都議は「視察と指摘で過激性教育が改善された意義は大きい」とコメント。現場に介入した意図がうかがえ、視察の成果を誇っており、反省がみられない。判決は、旧教育基本法が禁じた「不当な支配」に当たると判定し、「単なる視察だった」という都議に対し、意見交換することなく、学校を一方的に非難した違法行為だったとしている。同判決で、同行した都教育委員会職員についても「教員を保護する義務があったのに、都議が非難をするのに任せたのは違法」と指摘。都教委は03年9月、学習指導要領を踏まえない不適切な性教育をしたとして七生養護学校の教員十八人を厳重注意しているが、「都教委は、教員に性教育の助言や指導をしないまま注意した。都教委の行為は裁量権の乱用」と認定している。

 性教育に現場はさまざまな試行錯誤しているが、知的障害がある子どもへの性教育指導は一層の創意工夫が求められる。今回の裁判で大きな問題は、都議が現場に乗り込んで現場職員を「威圧的な態度」で、教員の人格を否定するような発言を発したこと、教育現場を擁護すべき都教委が同行し、都議の行為を黙認していたことにある。性教育の方法論に仮に問題があったとしても、都議が教育現場に乗り込んで、高圧的な態度で教育の方法論に口出しすることは許されない。都議が自分の主義主張と相容れない方法論がなされているからといって、いちいち教育現場に出向くことが許されるなら、教員は萎縮し、事勿れに走らざるを得まい。都議の思い上がりとしか思えず、怒りを感じないわけに行かない。

 都議の横暴さは、立場があればこその話しだが、立場があれば教育現場も支配できると思うことの恐ろしさを感じさせる。高裁の判決はどれほど教育現場を勇気づけてくれたことか。誰が現場職員を守れるかを都教委は熟考し、三人の都議は思い上がりを猛省すべきである。教育の方法論と学校経営の内容が裁判でなければことが解決しないことは不幸なことである。

<前                            目次                            次>