日々の抄

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 言葉が軽すぎる

2009年5月30日(土)

 麻生首相の思いつきと無節操さと軽薄さが、また明らかになっている。15日 安心社会実現会議で、厚労省を分割し、医療、年金などを担当する「社会保障省」と、雇用、少子化などを所管する「国民生活省」の創設を検討する考えを示した。会合で、委員の渡辺読売新聞グループ本社会長の、厚労省を「雇用・年金省」と「医療・介護省(庁)」に分割するとの提言に対して、首相は「国民生活に力を入れるための省を一つ作ったらどうか。基本的にそう思っていた」と応じた。さらに、首相は「単に厚労省を二つに分割するのではなく、国民の安心を所管する省を強化する発想で考えてはどうか。私の考えでは国民生活省、社会保障省といろいろ表現はあるが、医療・介護・年金福祉が社会保障(省)。雇用・児童・家庭部門・少子化、男女共同参画など内閣府でやっているようなものが国民生活省」と語っている。
 首相は19日の経済財政諮問会議で、与謝野経財相に対し、厚労省を分割する具体案をまとめるよう指示している。首相はまた、文科省と厚労省に分かれている幼稚園と保育所の所管の一元化(幼保一元化)の具体案づくりも指示。「今が決断の時期だ」と強調。各省の利害が対立することから、安心社会実現会議と経済財政諮問会議双方の担当である与謝野氏に指示したとみられている。与謝野氏は記者会見で「そう簡単に案ができるわけではないが、なるべく早急にまとめたい」と述べている。公明党も20日、分割案を検討するチームを党内に設置することを決めている。

 厚労省分割に向けた政府内の調整が25日、スタート。河村官房長官、与謝野経財相、甘利行改相が同日、首相官邸で協議し、週内に厚労省分割の素案をまとめる考えで一致し、6月にまとめる「経済財政改革の基本方針(骨太の方針)2009」に具体案を盛り込む方針も確認した。
 だが、与謝野馨経財相は、政府・与党内の調整を河村氏に丸投げ。河村氏も党側との折衝は甘利行改担当相に委ねた。厚労相は26日厚労省分割について、「議論不足だ。拙速でやるべきではない」と述べ、急いで結論を出すことには慎重な姿勢を示した。

 だが、首相は28日突然、厚労省の分割・再編について、「最初からこだわっていない。分割の話ばかりするのはおかしい。自由な議論をした途端、あたかも既成事実のごとく、話を作るのはやめた方がいい」と述べ、分割という形にはこだわらない意向を表明。与謝野経財相は「首相(の指示)は『分割案を作れ』というのではなく、『考え方を整理してくれ』というものだ。首相の注文には、ちゃんと『骨太方針』でお答えしたい」と述べている。

 今回の厚労省分割・再編の騒動はいったい何だったのか。自民党内からも「砂上の楼閣だった」と語られているように、結果的には選挙対策用に「ちょっと言ってみただけ」ということなのか。いかに厚労相が忙しそうにしていても、総務省(郵政省、自治省、総務庁が統合)、国交省(運輸省、建設省、国土庁、北海道開発庁が統合)、文科省(文部省、科学技術庁が統合)など規模の大きな組織も含めた検討がなされて然るべきで、厚労省だけを取り上げることはいかにも奇異である。

 いかに、首相が「厚労省の再編などはじめからこだわっていない」としてマスコミが勝手に「分割・再編」を騒ぎ立てていると語っても説得力はない。言い出して見たものの身内からも反対があって、話を反故にせざるを得なくなったということが実情だろう。
 定額給付金、郵政民営化問題でも簡単に前言を翻している首相のことだから、特段驚くに値しない顛末だが、現内閣が発する言葉が薄っぺらで、反対があると、いとも簡単に、翻意、訂正する「法則」が当たり前のようになっているのは情けない限りだ。次世代に膨大な借金を背負わせる、大型バラマキ補正予算案が間もなく国会を通過する。一日も早く国民の審判を受けることを勧めたい。

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