日々の抄

       目次    


 教育的配慮とは笑止千万

2009年6月8日(月)

 京都市内の居酒屋で今年2月、酒に酔った女性に集団で性的暴行を加えたとして、学生6人が集団準強姦容疑で逮捕された京都教育大は、被害者の母親の相談を受けた後も京都府警へ通報せずに調査を進め、関係者を内々に処分していた。同行為は親告罪ではない。女子学生の母親から3月3日に相談を受けた大学は6人を3月31日付で無期限の停学処分とし、見ていたのに止めなかったとして数人を訓告にした。うち1人は卒業している。大学は「公然わいせつ」として、警察に通報することなく、府警が母親からの通報で事件を知ったのは同27日だったという。

 同行為があったこと、それも教職に就くことを目的とした大学でこのような犯罪が起こったことは大きな社会問題だが、大学は「同意があったのか、無理矢理だったのか、細かいところは判断できない」とし、処分後も公表しなかったことについて「教育的配慮を優先し、正確な情報を得てから公表すべきと判断した。間違った対応はしていない」と正当性を主張」している。また、同学学長は、京都府警に通報しなかった理由を「調査に時間がかかり、先に女子大生から被害届が出た。隠すつもりはなかった」と釈明。

 その後の報道によると、逮捕された学生のひとりが、逮捕直前まで同市の学童保育の指導員として働いていたことが3日判明。採用には、同人の父親の同市教委幹部がかかわっていたという。父親は、同人が大学から無期停学処分を受けていたことを知っており、また、同人は大学側が提出を義務付けた活動報告に「スポーツジムでアルバイトしている」などと虚偽の報告をしていたこともわかった。大学側は停学処分にした学生に子どもらと触れ合う「教育的なアルバイト」を禁じているという。

 同大学長がいう「教育的配慮」とは、「事態が公にならないこと、大学関係者に迷惑がおよばないこと」としか思えない。「教育的配慮」を口実にした隠蔽工作をしたと思われても仕方あるまい。いったい全体、被害者の女性の人権に対して学長はどのような見解を持っているのか。
 専門家は 「複数の異性との性交渉は、通常は被害者に同意がないというのが常識。被害者が黙っていたという弁解も通じない。この事件では、大学側は、認識が誤っていたとしか言いようがない」「公然わいせつも集団準強姦も親告罪ではないため、公務員ならば、通告義務がある」としている。「教育的配慮」とは、前途ある若者の将来への可能性を失わせないということなのだろうが、事の重大さを認識することなく大学に虚偽の報告すらしている学生に「教育的配慮」など不要である。

 がんじがらめの受験勉強で意識のスイッチを押さないと行動できない若者が、いきなり誰にも束縛されずに済むような大学生活を送って、糸の切れた風船のようにして欲望をコントロールできないことの重大さは看過できない。今回の行為が酒の席の延長線上の出来事と考えるのは誤りである。彼らは欲望を制御できない獣と同等の人格しか持ち合わせがないだけである。彼らが事件を隠蔽し、何年か後に教壇に立つことを考えると末恐ろしい。

 大学関係者と事件に関係した学生は被害者である女性が、もし自分の娘、親しい友人、妹であったらどう思うか、という想像力を持つといい。そんなことも考えられない人物が教育に関わることはご免被りたい。


<前                            目次                            次>