日々の抄

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  今年も草津夏期音楽フェスティバルに

2005年8月21日(日)

 ことしも草津音楽フェスティバルに行ってきた。今年のテーマは「ドイツの都市と音楽」であった。17日から30日までの間、ドイツの都市と鍵盤楽器、ポツダム、バッハ音楽の捧げ物、ライプツィッヒ、トーマス教会とJ.S.バッハ、18世紀、最先端の都市マンハイム、ミュンヘン〜モーツァルトとR.シュトラウス、ボン、デュッセルドルフ〜若きベートーヴェン、ワーグナーを生んだ音楽都市、ドレスデンとハレなど、日ごとに演目が絞られていて音楽好きにはたまらない音楽祭である。作曲家は大バッハ、テレマン、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス、リスト、ワーグナー、モーツァルト、R.シュトラウス、ヒンデミットなど多岐にわたる。珍しいところでは、カルロ・ペディーニの「レクイエム」の本邦初演、ブラームスの師であるE .マルクーセンのピアノ六重奏曲が演奏された。

 私は20日に行った。当日は見事な夏空らしい積乱雲が見えたと思ったら突然の雷雨と強い日差しが交互に現れる落ち着かない天候だった。1997年には落雷のための停電があり、暗闇の中で演奏されたこともあったという。
 曲目は「ドイツの都市と音楽/ポツダム、バッハ:音楽の捧げ物」と題して、J.J.クヴァンツ:フルート・ソナタ ニ長調、フリードリヒ 2世:フルート・ソナタ ホ短調、W.A.モーツァルト:デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調 K.573、C.P.E.バッハ:2つのヴァイオリンと通奏低音の為のトリオ、J.S.バッハ:音楽の捧げ物 BWV1079だった。最後の音楽の捧げ物は草津音楽祭としては13年ぶりだったそうである。

 演奏はW.シュルツ(fl) / C.ブリツィ(cemb) / 遠山慶子(pf)、S.ガヴリロフ(vn) / P.フランチェスキーニ(vn)、S.コロー(va) / T.ヴァルガ(vc)といずれも著名な音楽家ばかりであった。年配のベテランが多い中でチェロのタマーシュ・ヴァルガ氏の若さが光っていた。

 フリードリッヒ大王のフルートの師であったJ.J.クヴァンツは私と誕生日が同じことからも親しみを覚えていたし、フルートソナタを吹いたこともあったので楽しみであった。伴奏はフリードリヒ 2世のフルート・ソナタ ホ短調とともにオルガンで奏された。前日までチェンバロかオルガンか迷ったそうだ。私はチェンバロの方がフルートの音を生かせるように思えた。シュルツ氏はオーレル・ニコレに師事。低音中音域は憂いを含んだ音に聴こえたが、高音域はさすがにきらびやかで気持ちの良い響きを聴かせてくれた。オルガンは通奏低音としてフルートの音を引き立ててくれるはずだが、主張しすぎていた感もあった。3曲目のデュポールのメヌエット・・・は、実に真面目に澄んだ音でモーツアルトを奏してくれた。聴き入る内にあっという間に演奏が終わってしまった感じが残った。第4曲の2つのヴァイオリンと通奏低音の為のトリオは、ガヴリロフ氏のVnが1683年ストラデバリウスだったためもあるだろうが、ヴァイオリンの響きがよかった。全体として音を楽しむという感じが伝わってきたが、位置の関係なのか楽しみにしていたチェンバロの乾燥した音が聴き取りにくかった。最終曲の、音楽の捧げ物は、つぎつぎに楽器編成に変化があって興味を持てるものだが、大バッハがフリードリッヒ大王から与えられたテーマを即興で奏し、後に書き直して献呈したという曲だが、僅か8小節の与えられたテーマをもとに展開される演奏は見事の一言である。

 大きな拍手で何度もカーテンコールの後に満たされたものを感じながら演奏会は終わった。率直な感想は、「音楽は聴くものでなく演奏するものだ」であった。フルートソナタなどの室内楽曲は、自分が演奏したことのあるものなら曲の面白みも伝わってくるが、はじめて聴く曲なら単調で平板なものにしかなりかねない。自分で演奏しないまでも、楽譜を予め眺めておくだけでも聴き方が違うかも知れないと思った。昨年と違って、「音楽の捧げ物」だけは楽譜をながめ、テーマの展開がどうなるのかを少し調べていったが、ただ聴くだけと興味の持ち方が随分違うものだということを実感した。

 草津音楽フェスティバルはもう26回になる。世界を股にかけている「忙しい演奏家」は来ることはないが、音楽を極めた演奏家を諸外国からも迎え、群馬の辺鄙な温泉場に、本当に音楽を好む人々が毎年集う姿が見られる。「ここに泉あり」で聞こえてきた響きとは違うとしても、音楽の発信地が地元にあることは嬉しいことだ。昨年の草津フェスティバルを最後にエルンスト・ヘフリガー氏が引退したと聞いた。
また、来年も行ってみたい。

                                     

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