日々の抄

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 ハブ空港は必要なのか

2009年10月16日(金)

 新政権になってから,国民生活に直接関係している施策の転換にあちこちで軋轢が生じている。最近では羽田空港のハブ空港(下注参照)化問題である。
 ことの発端は,前原国交相が12日、羽田空港について「首都圏空港を国内線と国際線を分離する原則を取り払い、24時間(稼働する)国際空港化を徐々に目指していきたい」と述べ、第4滑走路(D滑走路)が来年10月に完成するのを契機に羽田を国際拠点空港(ハブ空港)とする」「国際線が発着する成田空港は,航空需要の増大を見据えて有効活用する」としたことにある。これに対し,長期に亘る空港建設反対闘争の後,国に組み敷かれて現在に至っている空港の地元住民の反発は大きなものであった。はじめは反対したが国によって無理強いされたことについては八ッ場ダムと構造はまったく同じである。同時に千葉県知事の怒りは異様と思えるものであった。国交相発言に対し,「冗談じゃない。大臣に会って真意を聞きたい」「昨夜は頭にきて眠れなかった。成田空港(の建設にあたって)は大変な闘争があって血も流れた」「首都圏としての発展のため、共存共栄していくことが日本の国益につながる」「一つずつ積み重ねてきたのに、大臣の一言で(われわれの努力が)パーになった。地元の話を聞いてほしい。理不尽なことが続けば千葉県は怒る」と語っている。
 地元自治体の長の反応も同様だが,国交相の突然の発言に対し,少なからず誤解があったようだ。国交相は羽田空港のハブ空港化は語っても,成田空港をなくすなどとは一言も言ってない。国内線は羽田空港,国際線は成田空港という棲み分けがある現状で,冷静に判断すれば羽田空港をハブ化しても羽田空だけで成田空港の発着便をすべて賄えるはずはない。国交相の発言は,国際競争力を考慮すれば,日本国内にハブ空港が必要であり,今後発着便が10万回も越える見通しによるものらしい。
 
 14日,血相を変えて国交相との面談に臨んだ千葉県知事は,「国際便の発着を成田から羽田に移すものではない。成田は成田で現在の20万回(の年間発着回数)から最終的には30万回に増えるので、ひとつの大きな国際拠点空港としてより発展してもらう。(2010年10月に)羽田の第4滑走路(D滑走路)ができても成田が中心的な役割だ」などという国交相の説明に喜色満面で,一日前の怒りはどこに行ったのか,知事の変容に不可思議なものさえ感じる。率直な感想としては「今泣いたカラスがもう笑う」というものである。知事として地元向けへのアピールだったのか,早のみこみで瞬間湯沸かし器が突沸したのか。「千葉県は一生懸命やっているんですから」は何をアピールしたいのか。
 「両空港を一体的にとらえ、合理的にすみ分ける」としたことの具体的な内容は明かされてないことから,地元自治体が簡単に国交相の言葉で納得できるものではあるまい。

 地方分権などいう言葉がもてはやされている。成田空港問題もそのひとつだという考えがあるらしいが,地方分権とは,国にあった予算と権限を地方自治体の長に譲り渡し,長の思うがままにすることが地方分権だなどという誤解があるようだ。地方分権は政治が国民にとって利益を得ることができることのひとつの方法であることは忘れてはなるまい。中央官庁の横暴は許し難いが,昨今は地方都市のマスコミ受けした知事が頻繁にTVに出現し自分の存在のアピールに余念がない。自分の属する地域だけ利益を得ればいいという意思表示がありありで,些か違和感を感じざるを得ない。一方で八ッ場ダム問題で群馬県知事がマスコミの前でアピールする姿をあまり見ないのは何故なのか不思議である。日本の10年後,50年後の姿を考えると,国でなければできないことがあることを忘れてはなるまい。

 今回の羽田空港のハブ空港化問題の根本問題は,はたしてハブ空港化が必要なことなのか否かの論議なのではないか。成田空港で夜間飛行が制限されているが,羽田空港がハブ空港化し24時間運行を開始すれば,地元民の騒音被害,空港へ通じる交通機関の夜間運行も関わってくることも大きな課題になってくるのではないか。

(注)ハブ空港(マイペディアによる)
 拠点となる空港。自転車の車輪軸受け(ハブhub)とスポークのように,放射状に航空路線が展開されている空港のこと。空港どうしをばらばらに結ぶ場合に比べ,限られた航空機を効率的に使うことができる。乗客にとっては,いったん乗り換える必要があるが,便数や路線が充実した航空サービスを享受できる利点がある。

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