日々の抄

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 何を仕分けたのか

2009年12月4日(金)

 政府の行政刷新会議による仕分け作業が一段落した。仕分け作業は449事業を対象に実施され,71事業の「廃止」で約1300億円、「見送り」は19事業約1300億円。「予算縮減」のうち、削減幅を明記したものも含めると削減額は総額約7500億円となった。これに、公益法人の基金の国庫返納などで捻出できる財源を加えると総額約1兆9500億円に達したという。
 行政刷新会議の事業仕分けの観点は,「時代に合わなくなった制度や事業、あるいは無駄な予算や組織などについて大幅な見直した」,「予算編成のプロセスが国民に開示され、その過程でいかなる議論が行われているのかを国民の目に明らかにした」,「仕分け作業を後悔することにより、国民の目線から、税金がどのように使われ、あるいは無駄が行われているかを直接に知る機会を提供した」,「一旦予算に組み込まれると、当該事業が既得権化して見直されることが少なく、またその実施過程において作られる組織や機構を経る中で最終的な受益者である国民にその効果が及ぶまでに多くの間接経費、すなわち高い人件費や不効率な管理経費に消えてしまうという実態も目立ったということ」。「諸事業やこれに予算をつけるに際しては、その目的はもちろん、その手法の適否や効果の有無について、国民に対し十分な説明責任を果たしていくのでなければならないということであり,官僚による、官僚のための、不透明な予算編成プロセスそのものを繰り返すことは止めにしなくてはいけない」,というものであるとしている。

 連日の仕分け作業の,仕分け人と官僚のやりとりを見ていると,今まで知ることのできなかった予算の無駄遣い,官僚の予算に対する世間離れした感覚が明らかにされたことは大いに意義のあることであった。
 外交をテーマにした月刊誌を外務省が約2億円で買い取り,「有識者」に無償で配布していたという。事業仕分けでこれが「廃止」とされた事に対し,「学術文化への支出が軽視されている」などと,ある東大教授が抗議したそうだが,なぜ個人購読しないのか。有識者の傲慢さとさもしさが見て取れる。在外公館に勤務する外交官は本俸を上回る在勤手当を支給され,入省15年で月給総額が98万円になり,配偶者約10万円、子供1人当たり1万8千円の手当がつくという厚遇という。フルタイム働いても月収が10万円台のひとが多いことをどう考えているのか。政府開発援助(ODA)実施機関である国際協力機構(JICA)役職職員らは独立行政法人の中で最高水準で,航空機はビジネスクラス以上の利用が日常化している,ということもはじめて知る話である。

 だが,一方で,あたかも公開裁判のようにして仕分け人が担当官僚にたたみかけている姿を見ていると,なんと横柄な輩なのかという気持ちにもなった。また,米国への思いやり予算,自衛隊の人員,スパコンなど国の施策の根幹に関わる内容をたった1時間の内に決めてかかるのはいかにも乱暴な議論であると思わざるを得ない。関係者は事前にヒヤリングを十分行っていて問題ないというが,仕分けのやりとりの過程で,官僚からの応答がしどろもどろであったり曖昧であることを見ると,そうは思えない。

 仕分けの基本は,無駄の是正にあるというものの,目に見える成果が担保できないものは仕分けの対象になったようだ。たしかにスパコンなどの意義に対する官僚からの説明は十分とはいえなかった。「バイオ、ナノテク、地震学,気象学,細胞レベルで再現する心臓シミュレーターに不可欠でこれこれを目ざし,現状はここまで来ている」などの説明がなぜできなかったのか。いわば既得権益に胡座をかき,密室で予算決定していた悪習の中では必要とされなかったことなのかもしれない。うまくプレゼンができると予算が認められ,そうでないと切られるという図式はいかがなものか。すぐに成果を得られないものに予算が配置されなければ,基礎理学などが疲弊化することは見え,科学立国を目指すことなどできまい。
 
 第二ワーキンググループのまとめで「処方された薬を全て保険適用にすべきではなく、数量の制限、金額の制限を導入すべき。市販品類似薬を保険外とする方向性については当WGの結論とするが、どの範囲を保険適用外にするかについては、今後も十分な議論が必要である。」としているが,「漢方薬は保険対象外になる」と伝えられ,関係企業の株価が急落したと伝えられている。財務省が作った文書に「湿布薬・うがい薬・漢方薬などは薬局で市販されており、医師が処方する必要性が乏しい」と書かれたことが原因らしいが,財務省は仕分け作業の黒子なのか。おかしな話である。

 また,全国学力テストについて,文科省は従前の全員対象から40%抽出へ転換したのに対し,ワーキンググループは「抽出率2〜3%で全国及び都道府県別の状況を把握が可能」としている。だが,抽出対象を6%,前年度57億円の1/10へ縮減するとの評価結果はいかにも曖昧である。

 いずれにせよ,前政権までに見ることのできなかった国の予算の使途がつぎつぎと明らかにされたことには意義があった。財政逼迫の対応策として必至なことは,各事業が直接目的のために使われるようにすることである。仕分け作業での目的でもあった,事業を行う上で天下りを初めとした「不要な組織,人件費」に使われることがなくなるようにすることである。仕分け作業により,見かけ上の削減ができても,それが生活に苦しむ国民をいじめることにならない細心の注意は必須である。いままでの官僚の放漫な予算執行が途方もない国家赤字592兆円を作り出したことの組織としての責任を感じるべきである。
 今回の事業仕分けは国の事業3000の内の一部にしか過ぎない。引き続き同様の仕分けが行われることに期待したい。

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